青空サークル

箕田 悠

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「……そうだったんだ。話してくれてありがと」
 なーこが立ち上がり、僕は顔を向けた。
「でもさぁ、ホッシーはずっとそうやって生きていくの?」
「えっ?」
 強い日射しの中に、足を踏み出したなーこを目線で追う。幽霊だからか、反射しない光が眩しいぐらい包み込んでいて、僕は目を細める。
「自分を殺して、石ころみたいにいても居なくても良いような存在のまま、ただ静かに生きていくだけで本当に良いの?」
「でも、そうするしか……」
「逃げることも大事だけど、逃げるだけじゃあ、楽しくないこともあると思うよ」
 なーこの言い分も分かる。確かに僕の人生は全て逃げてばかりだ。でも、どうしたら良いのか分からなかった。
「別に戦えってわけじゃないし。そうじゃなくて、自分が本当にしたいこととか、やりたいことをすれば良いんじゃないかなぁって」
 自分がしたいこと。僕は思い悩む。何をしたいかとか、今まで考えたことがなかった。とにかく一日一日を平穏無事に終えることを一番に考えていたからだ。
「そんな怖い顔しないでよぉ」
 顰めっ面をしていたらしく、なーこが眉間に人差し指を当てる。長い爪が刺さっているみたいに見えた。
「ないならさぁ、一緒に探せばいいだけじゃん。卒業までに見つけよぉーよ」
 浮かない顔をする僕に、なーこがさっきまでのしんみりとした空気を吹き飛ばすような明るい調子で言った。
「大丈夫。私たちがいるからさぁ、大船で行ったつもりでいればいいし」
 どーんとなーこが胸を張る。
「大船に乗っただろ」
 眼鏡くんがツッコむ。なーこが「そうだったっけ。まぁいいじゃん」と、手を横に振る。
「とにかくさぁ、あたしも眼鏡くんもホッシーの味方だから。それだけは覚えてて。たとえいつか、消えちゃったとしても」
 じめっとした夏の風が強く吹く。それでもなーこの髪は揺れることはない。
「悔いが残ったままじゃ、死んでも死にきれないからな」
 眼鏡くんが隣で呟く。妙にリアルな二人の言葉を僕は、複雑な思いで受け止めていた。
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