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しおりを挟む「ホッシーは嫌なの? あ、そうか。こんな堅物眼鏡くんが先祖だなんて、心外だとか」
「何を言ってるんだ。君のような不純な人間が親族にいることが嘆かわしいんだろ」
「なんでよぉ。こんな可愛いくて、キュートな子がいて、嬉しくないはずがないでしょ。眼鏡くんは勉強のしすぎで、眼鏡が曇っちゃってるんじゃない」
「君の方こそ、同じ意味の言葉を並べてしか自分を表現出来ないなんて、遊びすぎの弊害じゃないのか」
いがみ合う二人に「違うよ」と僕は叫ぶ。二人がびっくりしたように僕の方を見る。
僕は目が熱くなるのを感じながら、「そうじゃない」と言った。
「二人がもし……血のつながりがあるから、僕の前に現れたとしたら……僕のせいじゃんか……」
「え、なんで?」
「だって、僕があんなことをしようとしたから、二人はこの場所に現れちゃったかもしれないから」
僕がこの場所に来るような人生じゃなければ、二人は現れる必要はなかったかもしれない。どうして二人だったのか、何故そういう現象が起きたのか。そこまでは分からない。だけど、二人が僕に関わりのある親族ということであれば、その可能性は否定出来なかった。
「だから……せっかく解放されていたかもしれないのに、呼び戻しちゃったと思うと……」
泣くまいと思っていても、僕は悔しさと情けなさと申し訳なさで、堪えられそうも無かった。
じわっと視界が揺らぎ始める。
「え、それならそれで、あたしは嬉しいけどな」
「そうだな。俺もそう思う」
なーこと眼鏡くんが共に頷き合う。
「……違うよ。二人は僕に甘すぎるだけで」
僕は納得出来なかった。二人がここに現れずに済んでいたら、もしかしたら新しい人生を歩めていたかもしれないのだから。
「身内に甘いなんて当たり前じゃん。ホッシーだって、あたしたちの為に頑張ってくれてるじゃん」
「それは……僕が二人に助けられたからで」
「だって、私のお仏壇の前で泣いてくれたんでしょ? それにあたしが親戚だって知って、余計に辛くなったって」
「……それはそうだけど」
それでも僕は自分のせいで、二人を巻き込んだという気持ちは変えられない。
「俺たちはいなくても、同じ血が流れている者が生きているだけで未来に繋がっているんだ。その命を俺たちが守れたということは、誇りに思えることだ」
「そうそう。それにあたし達、死んでもヒーローってことじゃん」
ずるい。いつもは意見が合わずに喧嘩するのに、こういう時にいつも二人は手を取り合う。
「それに目的もなく、ただここに彷徨ってるより、ホッシーを助けるために現れたんだったら、あたし達も蘇り甲斐があるてゆーか」
「蘇り甲斐ってなぁ……」
眼鏡くんが呆れた声を出すも、当てはまる言葉が見つからなかったのか「蘇り甲斐かぁ」と漏らす。
僕は何だか可笑しくて、少しだけ口元が緩んでいた。
「ホッシーは考えすぎなんだよぉ。あんましそんなんだと、眼鏡くんみたいに頭のかったーい、石頭くんになっちゃうかも」
なーこが自分の頭を指さす。
「君の中身のなさそうな頭より、詰まっている方が良いだろ。西瓜と同じでな」
「ひっどーい。あたしだって、ちゃんと中身あるしぃ」
「中を見なくても分かる。君の脳みそは鳥ぐらいのサイズだ。ほら、三歩歩いてみたまえ」
腕を組んで、ニヤニヤする眼鏡くんになーこが般若の顔をする。
バカバカと拳で眼鏡くんを叩こうとするなーこに、眼鏡くんは「当たるわけないだろ。やっぱり君は馬鹿だな」と余裕の表情をする。
二人のやり取りに、いつの間にか僕の涙は乾いていた。
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