青空サークル

箕田 悠

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 家に帰った僕は父の帰りを待つ。母に泉堂という名字を知ってるか聞いたけれど、知らないようだった。
 まだ時刻は六時過ぎで、父が帰ってくるのは七時頃だった。
 今日は予定が無く、リビングにいたトップに今日の事を話した。
 なーこの予想が当たっていれば、眼鏡くんは僕の先祖ということになると。
「俺も同じ事を考えてた」
 トップが僕の話を聞くなり、ぽつりと呟く。
「なんで言ってくれなかったの?」
「だって、兄ちゃん、あんときスゲー落ち込んでたからさぁ」
「……確かにそうだけど」
 僕は何も言い返せなくなる。
「勝手に調べようかと思ったけれど、なんか兄ちゃんに悪い気がして……だから、まだ父さんにも母さんにも聞いてないから」
「母さんは知らないって。さっき聞いた」
「じゃあ、後は父さんだけかぁ」
 トップが不安そうな顔で俯く。僕もトップと同じ気持ちだった。これで父が知らなかったら、手がかりが途絶えてしまうかもしれないからだ。
 父方の祖父母も、祖父は亡くなっていて、祖母は認知症で施設に入ってしまっている。情報を得るのは難しそうだった。
「なんか、余計に会いたくなっちゃうよ。身内だって知ったらなおさらさぁ」
 トップが羨ましそうな声を上げる。だけど、僕の胸中は今だにモヤモヤが拭えずにいた。僕のせいでという気持ちが無くなったわけじゃないからだ。
 そうこう話しているうちに、父が帰ってくる。すぐにご飯ということで、僕とトップは母の手伝いをするために席を立った。
 食事を終えてから、テレビを見ている父に僕は眼鏡くんの事を尋ねる。
 父はテレビから目を離し、「泉堂……光男?」と天井を見上げた。僕は祈るような気持ちで父を見つめる。隣でトップが「親戚にいないの? 泉堂って人」と急かす。
「ちょっと待ってろ」
 そう言って、父が腰を上げる。それから二階に上がっていく。追うべきか迷ったけれど、僕らはリビングで待った。
 なかなか戻ってこない父にしびれを切らし、僕らが二階に上がろうと立ち上がりかけた時。やっと父がリビングに戻ってくる。その手には一枚の葉書があった。
「もう十年以上も前の年賀状だけど」と言って、僕らに渡してくる。
 確かに表には泉堂という名字。下には美津江と記載されている。裏面には干支の絵に、新年の挨拶が書かれていた。
「泉堂という名前には聞き覚えがあったけど、光男は分からないな」
「この人はどういう関係なの?」
 僕は食い気味に聞く。心臓が跳ねるように打っていた。
「父さんの祖父の兄妹だったかな。葬式で一度会っていて、その時に確かスターが生まれたばかりで、お祝いを頂いたんだ。だからその翌年の年賀状を出した際に、向こうから届いたやつだ」
 僕とトップはたった一枚の年賀状を穴が開きそうな程に見つめた。なーこの予想は当たっていたらしい。でも喜んで良い物なのか、分からなかった。
「この人と連絡は取れない?」
 トップが葉書を指さす。
「いや、次の年に年賀状を送ったんだが、返事はなかったんだ。なんか老人ホームに入ったらしい。あれから十年は経ってるからもう……」
 亡くなっているかもしれないと、父の暗い表情から悟った。
「他に繋がりはないの?」
「父さんも詳しくは知らないんだ。親戚付き合いも希薄だしな」
「……そっかぁ」
 トップがガッカリした声で、葉書を見つめる。
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