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しおりを挟む「なんでその人を調べてるんだ?」
もっともな疑問に僕は、言い訳を考えていなかったことに気付く。
「友達に聞かれたんだ。親族でそんな名前の人がいないかって」
どうしようと考えているうちに、一が機転を利かせてくれる。
「……そうか」
父に葉書を返すと、僕たちは二階に上がった。僕の部屋に入るなり一は「予想通りだったね」と嬉しそうに言う。
「詳しいことは分からなくても、眼鏡さんが親類かもしれないって、知れただけで大きな収穫じゃない?」
一(トツプ)がベッドに飛び込む。スプリングが弾んで、軋んだ音を立てる。壊れるだろと怒りたかったけれど、そんな気が起きなかった。黙ったままで、僕は机の前の椅子に腰掛ける。
「俺はなーこさんや眼鏡さんの言うとおりだと思うよ」
寝っ転がっている一は大の字になる。
「だって、僕だって同じ立場だったら、良かったと思えるから」
「でも一が僕だったら、そうは思えないはずだよ」
助けた側と助けられた側では、思うことは大きく違うはずだ。
「だったら、二人に恩返しすればいいだけでしょ。それを兄ちゃんは、もうやってるじゃん」
「でもそれは……僕のせいなんだから、当然のことで」
「兄ちゃんはかったいなー」
左右に体をゴロゴロと動かしながら、まるで哀れむように「真面目すぎるよぉ」と頭を抱える。
「あのさぁ、兄ちゃんは人を助けたときに、悪いなぁとか申し訳ないって思われ続けて嬉しい?」
一がガバッと起きて、僕の方を振り返る。
「助けてくれて、ホントごめん。悪かった、僕のせいで、とか思われたら、なんか嫌じゃない? だったらさぁ、ありがとう、嬉しいって思われる方が、こっちも嬉しくない?」
「……そうだけど」
「みんな一緒だよ。なーこさんも眼鏡さんも、死んでからも人助けが出来たんだから、嫌な気持ちになるはずないじゃん。その気持ちを理解してあげない方が、二人に失礼だと思うよ」
僕を助けた事を良かったという二人。それに対して僕が、いつまでも後悔ばかり口にしていたら確かに良い気はしない。
「ごめん。そうだね」
何だか目が覚めたように、気分が楽になる。一にはいつも気付かされる。一だけでなく、なーこや眼鏡くんにも。
翌日。僕は眼鏡くんとなーこに報告をした。
僕らが血縁関係にあるかもしれないのだと。
「やっぱりそうだったか」
「ね、ね、あたしの言った通りでしょ」
眼鏡くんが納得するように頷き、なーこはテンション高らかに胸を張る。
「ごめん。でも、正確なことはまだ分からなくて……」
せっかく繋がりが生まれたと思ったのに、またしても途絶えてしまったことを父から聞いた話を交えて伝える。
「充分だ。ありがとう」
「でも、まだ親戚とかにあたれば――」
眼鏡くんが首を横に振る。
「ホッシーの気持ちは嬉しい。だけど、それでホッシーの時間が奪われてしまうのは良くない」
「だけど……」
「大丈夫だよ。ホッシー。あたし、分かっちゃったかも」
なーこが手を上げて発言する。
「何が?」
「解放されるほーほー」
「え、どうやって?」
僕が食い気味に聞くと、なーこがいたずらっ子のような笑顔を浮かべる。
「ないしょー」
なーこが背を向ける。
「えっ、なんで? 眼鏡くんは分かる?」
眼鏡くんに縋るも、「内緒みたいだ」とはぐらかされる。
「ただ、一つ言えることは、ホッシーが今やるべき事をすることだ」
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