去りし記憶と翡翠の涙

箕田 悠

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第一章

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「今日は何年の何月何日ですか?」

 青年に向かって、焦ったように問いかける。消印の日付と近ければ、自分が受け取った可能性が高かった。

「知らない。日付など俺には必要ない」

 青年は不貞腐れたようにそっぽを向いてしまう。
 正確な事が分からないが、重要な手がかりであることは間違いなかった。
 慌ててもう片方のポケットに手を入れてみると、小さな布袋が入っている。固く小さな感触がして中身を出してみると、翡翠の指輪と金剛石ダイヤモンドの指輪が入っていた。
 こんな高価な物を自分が何故持っているのかと、思わず唾を飲み込む。宝石はかなり高価な物だ。庶民が簡単に手に入る筈がない。
 自分の物かも分からない以上は、無闇矢鱈に扱わない方がいいだろう。
 持ち物や服装を総合的に見ると、自分は公家か資産家あたりの家の出なのかもしれない。

「思い出した?」

 青年が胡散臭そうな目でこちらを見つめる。最初の時の気遣いの見られた印象とは随分異なっていた。
 優しげな雰囲気は消え去り、猫のようにどこか素っ気なさを感じてしまう。


「いいえ……」
「参った。役に立たない奴を拾ったわけか……それとも、意図的に押し付けられたのか」

 青年は着物の袖口に腕を入れ、不機嫌さを隠そうともせずに眉間に皺を寄せている。

「すみません……お役に立てずに」

 どんなに冷たくあしらわれたとしても、助けられたことには変わりない。何がなんだか分からないが、不機嫌にさせてしまったことに何故か焦りを感じた。

「自分の立場が分かっていないとはいえ、とんだお人好しだな」

 呆れているような視線を向けられ「すみません」と小さく呟く。

「帰して村の奴らに文句でも伝えて貰おうかと思っていたけど……この辺一体は結界が張られていて、来た道を正しく戻らないと帰れない」

 淡々と話していく青年の言葉に、血の気が引いていく。それでも帰ろうにも帰る場所が分からない以上は、どう行動を起こせば良いのかも分からない。
 それ以前に、自分が何者なのか分からない事に不安が込み上げてくる。

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