4 / 93
第一章
4
しおりを挟む「どちらにせよ、役に立たない人間をいつまでもここに置いておくわけにもいかない」
ため息混じりに呟かれ、絶望で全身の体温が急激に下がっていく。
「……分かっています。助けていただけでも十分ですので」
青年の言う通りだ。穀潰しを置いておくような、お人好しはいないだろう。帰り道はわからない不安や恐怖はあったが、家主がそう言う以上はここには居られない。行く宛が思いつかないが、取り敢えずは外に出ようと重たい腰をあげる。
「待て。外に出てウロウロされても目障りだ……だから……交換条件だ」
少し慌てたような青年の言葉に、驚いて上げていた腰をゆっくりと下ろす。
「記憶を取り戻したら、俺に幸せな記憶を渡す。それが条件」
青年は視線を俯かせ、唇を尖らしている。
「幸せな、記憶?」
「そう」
青年の翡翠の瞳が鋭く光って見える。意図が読めない提案に思わず首をかしげた。
幸せな記憶を渡す芸当など、人間にできるはずがない。
ふと、青年の日本人離れしている様相にハッと息を飲む。
紺色の単衣の着物を着ているものの、顔は西洋人のようなしっかりとした目鼻立ちだ。
世界広しと言えども、まさか記憶を奪える人間がいたとは……。
訝しげに青年を見つめていると、青年が呆れたように言葉を発した。
「お前まさか、俺を人間だと勘違いしてない?」
「えっ?」
「やっぱりな……俺は人間じゃない。俗に言う、妖怪ってやつ」
青年が悪戯ぽくニヤリと笑った。
妖怪の類がこの世の中に実在するとは、正直驚きだった。
それでも自分の記憶にないだけで、実際は共存する世界もあるのかもしれない。
そう考えると恐怖よりも、自分を納得させることが出来た。
自分がどこまで記憶をなくしているのかわからない以上は、今起きていることを理解していくことが先決なように思える。
それに行き場もなければ、頼れるのは目の前の青年だけだ。妖怪だろうと何だろうと、手を伸ばしてくれるのであれば縋る以外に方法はないように思えた。
「分かりました。なんとお呼びすればいいですか?」
覚悟を決めると、青年に向けて問いかける。
「えっ?」
今度は青年が拍子抜けしていて、口を薄っすらと開けている。
「話聞いてた? 俺は妖怪だと言ったんだ」
「聞いてましたよ。僕の記憶にないだけで、記憶取り戻したら妖怪は当たり前に存在しているかもしれないじゃないですか。それに、貴方は僕を助けてくれました。悪い妖怪じゃない事は明白です」
一気に喋ってから姿勢を正し、青年に向き直る。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
世話になる以上は、礼儀は必要不可欠だ。ゆっくりと青年に向かって、頭を下げていく。
青年が息を飲み、しばらくすると呆れているような溜息を吐き出すのが聞こえた。
2
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる