37 / 93
第二章
23
しおりを挟む「おい、大丈夫か?」
体が激しく揺さぶられた振動に、ゆっくりと瞼を開いていく。
眩しい視界の中、不安げな表情の三つの顔が天野を見下ろしていた。
「……どうしたのですか?」
異様な光景だったが、頭がぼんやりと靄がかかったようで何が起きているのか理解出来ない。
呆気にとられた顔で見つめ返すと、ヒスイは青ざめた顔で眉を顰めていた。
「お兄ちゃんが泣いてるから」
「ヒスイを呼んできたの」
ミヨとミコも何処か不安げな様子で、天野までもが不安になってしまう。ヒスイに怒られても負けじと騒ぎ立てる二人が、今は妙に大人しかった。
ゆっくりと体を起こすと、その違和感を確かめるべく天野は頬に手をやる。しっとりと濡れている感触に、ミヨとミコに指摘された意味を理解した。
「僕……泣いてたの?」
「泣いてたから、起こしたの」
「でも、起きなかったの」
どこか悪いの?と二人の声が重なる。大丈夫だよと声をかけて、二人の頭を優しく撫でた。
柔らかい黒髪が手に触れている感触に、さっきのは全て夢でこれが現実なのだと少しだけ安堵する。それでも妙に生々しい夢だったせいか、心臓はまだ早鐘を打っていた。
「元気になった」
「いつものお兄ちゃんだ」
二人の顔が一気に満面の笑みへと変わっていたが、ヒスイは何処か浮かない表情をしていた。そのことに不安が押し寄せてくる。
「ごめんね。後で遊んであげるから、ヒスイさんと二人にしてもらっても良い?」
ヒスイはきっと、悪夢の原因が昨晩の行為によるものだと思っているのだろうか。何か考え込むような、険しい顔つきで、視線を俯かせていた。
「約束だよ」
「嘘ついたら針千本だからね」
ミヨとミコは妖しげに笑うと、手を取り合って部屋を出ていった。本当に遊ばなかったら針千本飲まされてしまいそうな気迫に、思わず苦笑いを零す。
「……いい機会だから言っておく。簡単に約束なんてするな」
「えっ……」
昨日とは打って変わった、少し冷めたヒスイの声音に心が凍りついていく。
「いいか、あいつらも俺も妖怪。お前から全てを奪おうと思えば一瞬だ。人間なんて赤子の手を捻るほど簡単にねじ伏せられる。そうしないのは、俺もあいつらも少なからず、まだお前に情があるからだ」
一線を引くような物言いに、血の気が引いていく。何故それを今になって言うのか、ヒスイの意図が分からない。
2
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる