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第二章
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しおりを挟む「昨夜の事……本当は嫌だったのですか?」
「嫌だったわけじゃない。昨晩は……俺も乗った事には違いない」
「それならどうして……今になってそんな冷たい事を言うのですか」
縋り付くようにヒスイの着物の袖を掴む。昨晩はお互いに求めあったはずだ。
何がいけなかったのか分からず焦燥感に駆られ、既に熱く腫れぼったい目元が再び熱を持つ。
「お前は甘い。俺たちの事を知りもしない癖して、そうやって甘えた顔をする」
バツの悪そうな顔でヒスイが、視線を逸らした。突き放されたような感覚に、掴んでいた袖を離す。
「もう、あんなことするつもりはない。こんな風に泣かれても困るからな」
そう言ってヒスイは立ち上がる。絶望感に全身から力が抜け落ちていく。
「此処で暮らすのは、お前の記憶が戻るまでだから。思い出したら村に返してやる」
そう言い残すと、部屋から出ていってしまう。
ショックのあまり、何も言い返せない。そればかりか、全身が凍りついたように動くことが出来なかった。
今日見た悪夢以上に、今の状況の方がよっぽど天野にとって惨憺たる悪夢だった。
その日からヒスイは何かにつけて、天野を避けているようだった。
炊事や雑事の指示は出してくるものの、縁側に顔を出すことはない。
寂しさと切なさばかりが、胸を支配する毎日が過ぎ去っていく。夜中に目を覚ましては縁側に行き、ヒスイがいるのではという淡い期待を打ち砕かれる度に一人で涙を流した。
ミヨとミコは相変わらず、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と言ってはすり寄ってくる。もしこれが、ヒスイと二人だけの生活で避けられ続けていたのなら耐えられなかっただろう。
まだ二人が明るくはしゃいでくれている分、場の雰囲気が険悪になることは少ない。
それなのに心持ちは一向に平常に戻ることはなく、日を追う毎に気が滅入っていく一方だった。
食事も思うように喉を通らず、来た当時よりも着物が大きく感じた。体力も格段と落ち、それと比例するように家事や畑仕事の要領が悪くなってしまう。
見かねたヒスイに、無理やり作業を止められることもあった。ヒスイは怒りもしなければ、励ましもしない。ただ、気遣いだけは感じられた。その優しさに、どんどん追い詰められていく。
記憶が戻らない焦燥感。戻って欲しくない身勝手な願望。ヒスイに対する淡い恋心。全てが自己都合の固まりで、これ以上此処にいてはいけない気すらしていた。
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