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第三章
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しおりを挟む「そんな顔するな。それより、遠路遥々こんな僻地に来たのだから、何かしら訳があるんだろ? 立ち話も何だから、俺の家に来ると良い」
恭治の言う通りだった。一刻の猶予も許されない状態で、呑気に哀愁に浸っている場合ではなかったのだ。
それに九月に入ったとはいえ遮られること無い日差しが降り注ぎ、ワイシャツの袖から伸びた腕と顔に容赦なく照りつけてくる。暑さから全身にじっとりとした汗を掻き、額から流れ落ちていた。
恭治の言葉に甘える事にして、天野は数年振りに恭治の家へと足を向ける。
懐かしのこの地は昔となんら代わり映えしておらず、あらゆる場所に家々が建ち並び、商店や神社も時の流れが止まってしまったかのようにそこに鎮座していた。
「懐かしいだろ。昔、この辺りを俺がよく案内したよな」
辺りを懐かしげに視線を向けているせいで歩みが遅れていた天野に、先を歩く恭治が振り返る。
「確か僕が十二歳だったかな……海で泰子と遊んでいた時に、恭治が声をかけてきたのだっけ」
父は着くなり仕事をしに行ってしまい、自分たちは旅館に押し込められたままで名ばかりの家族旅行を過ごしていた。あまりの退屈さに騒ぎ立てる九才の泰子を連れて海に行った際に、自分と年端の変わらない恭治と知り合った。
「そうだ。湿気た面したお前を見て俺が声をかけた。あの頃から何処か、お前は儚げで放ってはおけなかった」
歩みを緩め天野の隣に並んだ恭治は、少し複雑そうな表情で微笑む。
「母さんの療養中や死んだ時も、恭治やおばさん達には世話になったよ。あの時は本当に助かった。礼を言うよ」
当時の事を思い出し、天野は感傷的な心持ちになってしまう。何かと恭治の家族にも世話を焼かせたのにも関わらず、母が死んでから疎遠になってしまったことが申し訳なかった。
「それは全く構わん。母上の事は残念だったな……それはそうと泰子嬢はどうしたんだ?」
恭治が天野を怪訝そうな顔で見つめる。
天野がいつもこの島に来る際には、泰子も一緒だった。それが今はこの場に居ないことを、恭治は不思議に思っているようだ。
「泰子の事で……今日は相談があってきた」
緊張で少しだけ声が上擦ってしまう。
「……そうか。兎にも角にも、もう着いたから部屋に上がり給え」
恭治は怪訝そうに眉を顰めつつも、案じるように天野の背中を押してきた。
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