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第三章
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しおりを挟む恭治の家族が暮らす日本家屋は、島でも広い敷地を有している。天野の目の前には、かつて恭治に連れられて訪れたこの日本家屋が、堂々たる出で立ちで昔と何ら変わらず構えられていた。
この家には恭治の他に祖父母と両親、弟と妹の七人で暮らしている。家族の誰しもが仲がよく、天野は密かに憧れを抱いていた。
ただ向こうからしてみれば、資産を有り余るほど持ち合わせ、良い大学に通っている天野のほうが羨ましく感じているかもしれない。だからこそ余計なことは言わず、心の奥底で羨望の眼差しを向けていた
恭治が玄関を開けると早々に、恭治の母親である多恵に笑顔で出迎えられる。相変わらずふっくらした体格と優しげな目元に、懐かしさと複雑な感情が押し寄せた。
「あらあら。蓮介くんじゃない。元気だった?」
「はい……ご無沙汰しております。その節はお世話になりました」
「いやーねぇー。そんな他人行儀じゃあ、おばさん困るわ」
朗らかに笑う多恵に、天野は少しだけ心持ちが軽くなる。
「立派な学生さんにまでなって、ご両親も安心なさっていることね」
「母さん。俺とこいつは大事な話があるから、部屋には来ないでもらえるか?」
多恵の長話を懸念してか、恭治が間に入った。
「あら、そうなの……お夕飯多めに作っておきますからね、泊まるのなら遠慮はしなくて良いのよ。佳奈江は本州に嫁に出して、和緒は本州の学校の寮で暮らしてるから静かでしょうがないの」
佳奈江と和緒は恭治の二才下の妹と三才下の弟だ。和緒は学生なのだから良い。それよりも佳奈江が十七にして既に嫁に出されてしまっていたと知り、苦い気持ちが込み上げた。
「……すみません。ありがとうございます」
気を取り直し、天野は礼を述べて頭を下げる。当初の予定では旅館にでも泊まるつもりでいたが、せっかくの申し出を無下にするわけにはいかない。もしかすると、泰子を嫁にやる手筈になるかもしれないのだから――
それにはまずは恭治の心持ちを見てから、恭治の家族にも話をするつもりだった。手前勝手だけで、話を進めるつもりは毛頭ない。だからこそ、一縷の望みにかけて此処に来た。
部屋に案内された天野は、恭治に進められるがまま座布団に腰を据える。
お茶を運んできた恭治が向かいに腰をおろしたところで、天野は居住まいを正す。
「なんだ? そんな畏まったりなどして……」
恭治が困ったように口角を上げた。その表情に、天野の胸が微かに痛みだす。
出会った当時から天野が浮かない顔をしていると、いつも恭治は困ったような笑みを浮かべて話を聞いてくれていた。
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