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第三章
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しおりを挟む「実は……折り入ってお願いがあって来た……」
天野は小さく息を吐き出すと口火を切った。緊張で握りしめていた拳が、微かに震えている。
「なんだ? お前の願いなら聞いてやるつもりだが……」
恭治が眉根を寄せ、訝しげに首を傾げた。
「泰子を……嫁に貰ってはくれないだろうか」
天野は言うなり畳に擦り付けるほど頭を下げる。恭治は息を呑み、驚愕しているのが見上げなくとも分かった。
「不躾なお願いだと言う事は、重々分かっている。でも……僕の中で信頼できるのは恭治、君だけなんだ!」
しばらく部屋に静寂が流れた後「お、おい! 顔上げろ!」と恭治の慌てふためく声と、肩に触れた手に促されるように、天野は力なく頭を上げる。
「突然の事で頭が混乱しているのだが……一体どういう了見なんだ?」
「実は――」
天野は俯いたまま、これまでの経緯を話していく。
父が泰子を嗜虐的思考を持った高松家の長男と婚姻させようと目論んでいて、泰子がその事で酷くふさぎ込んでしまっている。
遠い地に嫁に出して父の手から逃す以外に、見当がつかない。そこで恭治なら泰子とも気心が知れているし、泰子も反対はしないはずだと思い至った。すぐさま天野は今回の計画を急遽企ててこの地を訪ねたのだと、訥々と語っていく。
黙って聞いていた恭治は、渋面を作り腕を組んでいる。
「君に迷惑をかける事になるのは、重々承知の上でお願いしている。でも……僕にはこれ以上の術は思いつかないんだ」
気づけば目の縁に涙が溜まっていた。女々しいとは分かっていても、旧知の間柄の前ではつい弱い部分が顔を出してしまう。
「しかし……父親にはどう説得するつもりなんだ? こんな辺鄙な島に嫁に出すなど、どう考えても反対されるだろ」
それは嫌というほど考えたことだった。公家の長男と漁師の息子とでは、天と地ほどの差がある。素直に申し出たところで、一蹴されるのがオチだろう。
「……父には言うつもりはない」
「正気か!!」
天野の言葉にさすがの恭治も瞠目して声を荒げると、天野の肩をがっしりとした手で掴んだ。その力強さに一瞬体を強張らせるも「僕は本気だ」と呟き、天野は唇を噛みしめる。
「親に逆らって生きていけると思っているのか? 妹のためだとはいえ、無謀すぎるぞ」
恭治の最もな言い分は嫌というほど分かっている。巷では『自由恋愛』と謳われるほど、恋愛はまだまだ親の意見が最優先で、自分たちの意志とは関係ない結婚を強いられていた。
天野も例に漏れず、大学を卒業すればそれなりの見合い話が持ち込まれることは想像に難くない。
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