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第三章
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しおりを挟む「そんなことは百も承知だ。でも、背に腹は代えられない……」
みすみす妹をそんな所に出すのは、どうにも納得がいかない。
それに父はこの島との取引を、もう何年も前に取りやめてしまっている。船成金になった父は新たな会社を立ち上げて、高額な取引の出来る相手とのみ商売をしていた。
この島からは完全に手を引いている状態ということもあって、泰子がいなくなっても簡単には足取りは掴めないはずだ。母が療養している時ですら、この地には降り立ってはいない。もうこの島の存在すら、父の記憶にはないように思えた。
万が一にこの島に来たとしても、この島の土地は広大で探そうにもかなりの苦心を強いられることになるだろう。集落もいくつか点在しているが、本州と面している船着き場はこの集落ぐらいなもので、誰かが降り立てば島民の漁師に気づかれてしまう。泰子が身を隠す時間ぐらいは、確保できそうだと天野は踏んでいる。
残る問題は恭治自身の気持ちと、家族の了承を得られるかということだった。
「面倒をかけるのは分かっている。だからこうして、直接頭を下げに来た。もし……恭治が無理だと言うのであれば、僕と泰子は遠い地に二人で逃げようとも思っている」
資産を投げ捨て、何処か誰にも見つからないような土地で二人で慎ましく生活を送ろうとも考えていた。でもそうなってしまうと、泰子の女としての幸せを奪い去ってしまうような気がしてならない。そこで恭治にまず話を付けてからにしようと、この計画は保留にしていた。
「恭治の気持ちはどうなんだ? 恭治の家族には、もちろん僕から頭を下げるつもりでいる」
家にある自分の家財や貯金も全てなげうち、この家に結納金も収める気でいた。
それでどうにかなるとは思っていないが、そうすることが今の天野の出来る最大限の事だった。
天野は自分の考えを述べ終えると、伺うような視線を恭治に向ける。恭治は渋い顔で俯き、考えあぐねているようだった。
沈黙が部屋を支配し、居心地の悪さに天野は居たたまれない気持ちで膝に乗せている拳を見つめる。
「わかった」
囁くような声が聞こえ、天野は下げていた頭を勢いよくあげる。
「お前の願いは叶えてやる。その代り――」
恭治の目の色が変わり、天野は思わず背筋に悪寒が走った。初めて見た親友の獣のような視線に身が竦む。
「夕食が終わったら俺と一緒に来てくれ」
険しい表情と、緊張感を孕んだ声音で恭治が告げる。
「……わかった」
恭治の事だからそこまで危惧することはないだろうと、天野は小さく頷いた。
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