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しおりを挟む「大丈夫ですか? やっぱり嫌だって言われたんですか?」
鳴河が水瀬の隣に腰掛け、自分の方へと引き寄せる。高い温度と石鹸の香りに、水瀬の心臓がはやる。
「違うよ。久賀さんは僕のわがままを受け入れてくれただけで」
水瀬は否定を口にする。久賀が悪く言われるのが心外で、水瀬は続ける。
「本当はこんなこと、いけないって分かってるのに……自分の意思を曲げて、僕に付き合ってくれて――」
そこで鳴河が、水瀬の口を唇で塞ぐ。呆気に取られている水瀬に、鳴河が告げる。
「理玖さんは、もっとわがまま言ったって良いんです。というより、言って欲しいんですけど」
「そうだな。水瀬は他人を優先しすぎている節がある。だから、もっと望みを言って欲しいんだ。何も求められないのも、恋人として不甲斐なく感じる」
二人からそんなことを告げられ、水瀬は戸惑う。確かに何かにつけて他人を優先にしてきた節がある。お人好しだと言われ、二度もトラウマを抱える恋愛をしてきていた。でも、二人は自分を受け入れ、わがままを言って欲しいとまで言っている。
「今まで辛い思いをしてきたんです。だから、その分、二人いっきに愛されるのも悪くないんじゃないんですか?」
鳴河の言葉に胸が締め付けられ、熱いものが込み上げる。
「本当に……良いの? 信じても」
言葉を詰まらせながら、水瀬は問う。
「もちろんです。何年、理玖さんを好きだったと思ってるんですか? それにここまでしたのは、理玖さんだけですから」
鳴河の言葉に水瀬は掌の拳を強くにぎる。そうしないと再び、涙が出てしまいそうだったからだ。
「俺は水瀬と付き合ったことで、自分がいかに言葉不足かを実感したんだ。俺がきちんと伝えていれば、水瀬が傷つくことはなかった。きっと、今までの恋愛が上手くいかなかったのはそのせいだろう。だからこれからは、不安に思わせないように何でも言葉にしようと思ってる」
久賀の手が水瀬の手首を掴む。その力強さはまるで、自分が望んでいた温かい拘束であることに気付く。
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