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しおりを挟む春馬の言っていた通り、俊政は夕飯前にリビングに姿を見せた。
睦紀の顔を見るなり「ちゃんと休めたかい?」と目尻を下げて聞いてくる。睦紀はぎこちない口調ながらも「おかげさまで」と答えた。
「ちゃんと看病してあげられなくてすまない。あれだけ春馬のことを悔いていると口にしておいて、これでは駄目だね」
「僕は大丈夫です。それに仕事なので仕方がないですよ」
しんみりした口調で言われ、睦紀は慌ててフォローする。
「ありがとう。夕飯までには間に合って良かったよ」
俊政が安堵した表情を浮かべる。ちょうど瑞恵がテーブルのセッティングを始めたのをきっかけに、三人で席に着く。
夕飯を口にしながら、俊政はずっと上機嫌だった。終始笑顔で話しに花を咲かせ、場が白けることもない。
食事を終えて睦紀がゆっくりとコーヒーを飲んでいると、俊政から「今日も一緒にお風呂に入ろう」と誘われる。
「まだ身体が痛むだろう。昨日みたいな手荒い真似はしない。だから、おいで」
断ろうと口を開きかけた睦紀に、先手を取るように俊政が囁く。
睦紀は仕方なく、重たい腰をあげる。春馬の視線を背に感じつつ、俊政の後に続いて浴室へと向かう。
服を脱ぐのを手伝おうとする俊政を断り、睦紀は自分で服を脱いでいく。
以前までは全く意識していなかったが、昨晩のこともあったせいかやたらと視線が気になってしまう。緩慢な動きでシャツのボタンを外しながらも、気持ちはどうにも浮ついていた。
俊政の方はいつもどおりにさっさと服を脱いでしまうと、浴室に入っていく。その背を見送り、睦紀はやっと服を全て脱ぎ去る。
「ほら、座って」
洗い場で睦紀を待っていた俊政に促され、睦紀はぎこちなくバズチェアに腰を下ろす。背後にいる俊政に、警戒心を抱かずにはいられなかった。
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