やり直しの神子は長生きしたい

kozzy

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儀式を終え、都市中のお手ふりパレードも終え、来賓の皆さまは只今立食晩餐会の真っ最中。
季節は秋。そしてここは年中温暖な西部。夜風が気持ちいい…

海を背に屋外神殿の主賓席にいたオスビーの腕をとり、「僕たちはもう休みます。皆さんごゆっくり」と言ったら散々冷やかされたのは不本意極まりない。言っとくけどまだ清い関係だから!

で、こうして今、二人揃って私室で明日に備えているところ。

「明日の式典は母も悩まれたようだが君の意を汲み簡素なものにしたそうだ。それでいいのだろう?」
「うんありがとう。僕のわがまま聞いてくれて」

何しろ過去、癒しの神子が婚姻を結んだという前例は一つもない。それも教会みこ王家おうじによる婚姻なんてどっち寄りの慣習に従うべきか、みんな相当頭を悩ましたという。


ここで豆知識をひとつ。
本来神子とは聖職者であり還俗しない限り婚姻は結べないのが普通だ。

ナンナーの本家に生まれる少女たちは、みんな総じて七歳前後の頃に聖人となる儀式をナンナー邸の中で受けている。

これはウル様に聞いたことだが、ナンナー邸の中庭にはまるで林のようになった一角があり、そこにはちょうど人ひとり入れそうな祠があるのだとか。
その祠で直系の乙女たちは一週間から長ければ数週間、一歩も外に出ることなくバルデルス神に祈りを捧げ、この儀式によって神の奇跡を宿す準備をするのだとか。

だけど僕は気付いた。
これは奇しくもフォルスト候が僕にしようとしたことと根底は同じだって。

もちろん明かり取りの小窓はあるし鳥のさえずりは聞こえるし食事だって運んでもらえる。フォルスト候のしようとした拷問とは全然違う。
けどそうやって歴代の神子は心を真っ白にしていったんだろう…

そこへいくとリンデン家に居たウル様は〝癒しの神子”と名前がついているだけで正式な聖人ではない。
紋様が浮かんだあの時点で、ウル様はとっくに僕の手で人間臭さを開花していた。

まして時は内乱の終末期、すでに一か月ほどの神子不在期間で不便を感じていた王家は、「一日も早く神子を神殿入りさせよ」と王命を出していた。

これらの理由によりバタバタと王城へ出向いたウル様は聖人になるための儀式を受けていない。

だからこそ傍系神子と揶揄されるんだよね。けど、そのおかげでウル様のワガママは通ってしまったんだからいいんだか悪いんだか。

本題に戻って。

このような理由から、前代未聞な神子の嫁入り。

神子らしく秘めやかに行うのか…それとも王家らしく華やかな宴にするのか…悩んでいたゾフィーさんに僕は一言「出来る限り手順を省略して可能な限り簡単に」と告げた。
そして、戴冠披露が貴人の宴なら結婚披露は民草の宴。「浮いた予算は全て人々への振る舞い飯によろしく」、と。
最後に、二日連続となる貴人たちとの立食晩餐はオスビーに一任し、「僕はアゴラにおりて都市民のみなさんに誕生日を祝ってもらうのでそのつもりでよろしく」と付け加えておいた。

ゾフィーさんは一瞬動揺したようだが、神子とは浮世離れし慣習にとらわれず無邪気に振舞う…と認識されていたりする。すぐにそういうものかと気を取り直したようだった。

「堅苦しい貴族の晩餐なんて僕の性に合わないんだよね。ごめんね」
「かまわない。だが明日も今日のように途中で連れ出してくれるか」
「そりゃいいけど…やっぱり疲れてるの?」
「いいや。私とウーリにはすべきことがあるだろう?」

がっ!何を言う!

オスビーはを、僕に生命力を分け与えるため、などともっともらしく言うが、所詮彼もに興味の尽きないお年頃だ。これはオスビー自身がそうしたいと望んでいるのではないだろうか…

案外ムッツリだな…

気がつけば背を向け寝息を立てているオスビー。

「こっちはちっとも眠れないのに…」

戴冠式のためにここのところいつになく緊張気味だったオスビー。その彼がこうして僕の隣で気を抜けるのならそれは喜ばしいことだ。それはそうなんだけど…

「一人だけ余裕そうでなんかムカつく…えい!」ポカ!

微動だにしない…疲れてたんだろう…
いつの間にかこうして並んで寝るのが習慣になっている僕たち。

明日からそれは違う意味を持つことになる。
ドキドキドキ…

三年前のあの日、こんな日がくるとは思ってもみなかった。
目が覚めたら僕は神子じゃなくお嫁さんになる。



気がつけば迎えていた翌日。ついにその時が来た。

部屋に運ばれた軽めの朝食をとりながら、僕はやっぱり落ち着かない。

「あんまり眠れなかった…」
「意外だな。ウーリは緊張と無縁だと思っていたよ」

キュ「…」

人を何だと…

「おはようございますウルリッヒ様。お支度はこちらです」
「オスヴァルト様はこちらへ。別々の部屋になりますからね」

僕たち以上にウキウキとしたウル様と少し浮かれたエドに手を引かれ準備の間へと移動する。

「見てウルリッヒ様。婚礼用の神子衣装…まるでドレスみたい…キレイ…」

床まで丈のある真っ白な法衣にたっぷりとした、床に流れるほど長い真っ白なローブ。それらは裾から淡い青がグラデーションで染められ胸元には薄い茶の糸で刺繍が施されている…

「この刺繡お母さんがしたんだよ。僕も手伝ったの」

おかあさんとウル様が…僕のために…

「感謝の気持ちを伝えたくて…おめでとう」

エ・ミ・ル

ウル様の唇はそう動いた。


ファサードの下に立つ。
そこは昨日オスビーが人々に感謝の意を述べた場所、今日は僕がこの晴れ姿を披露する番だ。

「ウルリッヒ様。行きましょう」
「え…ベン…」

…一緒に歩くのお父さんなんだ…。偶然だろうけど…ちょっと嬉しい。

お母さんと着替えをしてお父さんと神殿までの道を歩く。
大きな声で「お父さんお母さん!」と呼べないのは少し残念だけど…

「ベン…」ニコ
「ええウルリッヒ様」ニコ

これで十分。

正装の執事、お父さんの後に続きプロピュライアをくぐる。
立ち並ぶ貴人の間を通って聖神殿の前まで来ると、そこには昨日とは違う盛装に身を包んだオスビーが居る。

今日のローブは淡いブルーのグラデーションと胸元の刺繍が美しい僕とお揃いのローブ。

「オスヴァルト様。手を」
「うむ」

そっと握られる手。

ここまでつないできた手と手はこれで本当に一つとなる。

開かれる聖神殿の扉。真正面にはバルデルス神。その両横には右に大司教、左に神官長。

神の足元にたどり着くと、僕とオスヴァルトは恭しく跪く。

大司教によって読み上げられる婚姻のための祝詞。そして僕とオスビーに神官長が聖水をふりまいたその瞬間。

「こ、これは…」
「おおおっ!」
「神の祝福…、神が喜んでおられる…」

サンクトリウムの空を柔らかな光のオーロラが包み込んだ…







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