チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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56.5 ナッツの独白

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僕のシェフとアッシュ君、進化したスキルに興奮した二人は、有頂天になって色んなものの形状を変えて遊んでいる。
子供みたいなシェフと子供のアッシュ君。だけど二人には感謝してるんだ~、ホント。



僕とシェフ…、僕がシェフに拾ってもらったのは、ある北の伯爵領での寒い寒い冬のことだった。

計量のスキルを活かして、粉まみれになりながら小麦の袋詰めで日銭を稼ぐ。僕はバカだから、そんな事しか出来ないんだ。その稼ぎもアル中の父さんの酒代に全部消えてく、あ~あ、小銭とは言えあっという間になくなっちゃうよ~。

そんな毎日に辟易して、着の身着のまま家を飛び出したのが15の僕。

当ても仕事もなく行き倒れそうになってた、そんな考えなしのバカに、毎日伯爵家の屋敷の裏口で犬猫用の残り物を分けてくれたのが…無骨に見えてホントは優しい、まだ傷の無かった男前のシェフ。

そんな風に美味しい料理にすっかり骨抜きになったのが、餌付けされた単純な僕。

そして料理のことなんか何も分からないのに、お願い、助手にして~と毎日毎日しつこく頼んだら、呆れた顔して、それでも拾ってくれて部屋にも住ませてくれたのが、なんだかんだ言って人の良いシェフ。

だけど考えなしなのはシェフも同じで、料理のことになると何も見えなくなるんだ、バカなシェフ。
シェフの視野ときたら針の穴程。そしてその穴の向こうには、誰かの喜ぶ美味しい料理しか存在しない。
シェフはバカだけど…、僕もバカだから…、そんなシェフが僕はいつでもだ~い好きなんだ。

そしてついに…あの日…シェフは…その脚を失っちゃった…。

悔しくて腹がたって仕方なかった…。あの見栄っ張りの貧乏伯爵。だいたいシェフが怪我をしたのは、あの伯爵が、夜会にお出しする上等な肉も買えないのに、何とかしろと無理を言ったからだよ?
冬の獣は狂暴だから止めろと厨房のみんなが引き止めたのに…、「お客様を失望させるわけにはいかない」と、ジャイアントベアの肉を求めて山に入り…その脚を失ったシェフ…。だけどえぐれた頬の傷は…シェフの男っぷりをさらに上げたんだよね…皮肉だよ…。

「そんな成りでどうするのだ!由緒正しい伯爵家に置くわけにはいかぬ。そこまでしろと誰が言ったか!ええい、責任転嫁をするな!出ていけ!」

僕がどれほど何を言おうと伯爵の耳は閉じたまま。そうだよ…伯爵は前から高給取りのシェフを馘にしたがってた。早く潰れちゃえ!こんな貧乏伯爵家!

僕の気も知らないでシェフは言い訳をしない。怒ってるのは僕だけなの?ほんとにバカなんだから…。

あの屋敷を追い出されたことよりなにより、新しく借りた安部屋に調理台が無い事を嘆き悲しんだのが片足のシェフ。もうっ、そんな場合じゃないってわかってるかなぁ~?

なけなしの材料で作った僕のガレット、それを売ってなんとかその日その日を凌いでた。それは粉にまみれてたあの頃を思い出させる。だけど…、全然嫌じゃないんだ。だってシェフには料理だけをさせてあげたい、僕を助けてくれたシェフを、今度は僕が支えるんだって、心に誓った17の僕。


そんな時届いた一通の手紙。そこに書かれていたのは…

『シェフであり続けたいならこの屋敷に来るがいい』

あの上からの物言いで、シェフと同じくらいトラブルの絶えなかった、2か月しか居なかった異常に顔の良いフットマン、ヴェストからの手紙。そこにはそんな一文が書かれていたんだ。
あて名はなんとリッターホルム。悪名高き毒公爵の居る屋敷。

でも分かってたよ。シェフがそんなの気にするわけないって。シェフの望みは究極のレシピを完成させる事。そのためなら公爵家だろうが地獄だろうがシェフはどこへだって行くし、僕ももちろん付いていくよ~!

それにしても…手紙に書かれてた要望通り厨房に必要なスキル持ちを集め、リッターホルムへ向かう頃にはもう後に引けないくらいの無一文。いいよ。頑張ろうねシェフ。フォローなら全部、僕がするから。シェフは料理のことだけ考えててね。


おっかなびっくりやってきた公爵邸。
だけどそこには…温和で年老いたバトラーに困った顔のヴァレット、そして…小さいけど誰より強気で頼りになる、公爵家の守り神クルポックル、アッシュ君が居たんだ。

「皆さ~んお菓子は好きですか~?」

「大好き~!」

僕の掛け声にためらいなく返事を返すノリのいい子供。僕をバカにしない貴族の子がいるなんてビックリ!

その彼は貴族じゃなかった。けど、彼こそがこの屋敷の要。それはちょっと見てればすぐに分かった。彼の居る場所を中心にいつだって物語が始まっていく。

ここは伯爵家なんか目じゃない規模の領地がある。それってお金持ちって言う事なんだね。

初めに彼に言われたその言葉は
「お金に糸目はつけないから、美味しくて栄養があって、ユーリが喜ぶ見栄えの良い、楽しいごはんを作って!」
だったよ。シェフが歓喜したのは言うまでもないよね~。


彼は時々一緒になって何か作ったりもして…、アッシュ君の斬新な料理に、シェフが陰で悔しがってるのはナイショの話。彼の料理はシェフの感性とプライドを刺激する。

ここへ来てからシェフは嬉しそうだし楽しそう。
シェフが楽しいと僕も楽しい。シェフが嬉しいと僕も嬉しい。僕の人生、それにシェフのシェフ人生にこんな平穏な時が今まであっただろうか。

この毎日はリッターホルムが、アッシュ君がくれたんだ。

あんな子供みたいにはしゃぐシェフ…初めて見る。ありがとうアッシュ君。シェフに思う存分お料理できる場所をくれて。僕にこんなシェフの姿を教えてくれて。




そのお礼にと言ったらなんだけど…
世間がどう思おうと何を言おうと、僕はアッシュ君とユーリウス様の事…、絶対絶対応援する!
心底祝福するからね~!!!






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