チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
30 / 277
連載

70 彼からのお仕置き

しおりを挟む
エスターは書物の鬼へと進化した。あの羊皮紙の山に埋もれ、頭から湯気を出しながらその解読に四苦八苦している。
丸投げするだけしておいて何も協力できないのが心苦しい…。せめて差し入れだけでもと、ナッツのスイーツを持って書庫へと向かう。

「エスター、ほら、片手で食べられるカロリー持ってきたよ。少し休憩したら?」

「ああ、悪いねアッシュ。ダイニングに行く時間も惜しくてね。集中を途切れさすのが嫌なんだよ」

エスターがスキルの発動を止めて空いた椅子を引き寄せる。
今なら少し邪魔してもいいだろうか?

「それで…、今は何してるの?」

「ああ、これはね文字を配列し直してたんだ。」


問題の寓話、その文字列は不自然に飛んだり欠けたり、脱落だらけでまともに読めない状態だった。
この綴じられた羊皮紙。パラリとめくれば一見同じような中身…。だからこそ僕は、それを見せかけの本だと思ったのだけど…

どちらにも所々に『王家』とか『術』とかの単語は見える。
エスターのスキルでその欠落部分を補完していくと、そこに見えてくるのは実に単純な勧善懲悪の物語。
古代王家が呪術師の集落に攻め入り、彼らを追い出しこの地を守った、と。


「これらの書物は嵌め絵のようなものなんだ。だから一冊だけでは意味をなさない。すべての書物を揃えて嵌め合わして初めて文章になるんだ。過去の公爵はそれを分かった上で収集していたようだね。手ごたえとして全部じゃないけど6割くらいは揃ってる感触だ。その上でちょうどあの寓話は骨格にあたるようだね。」

「へ、ぇ…」

つまりフォトショでレイヤーを重ねるようなものか…。記憶の中の『フォトショップ講座』を、思い出しながら、エスターの言葉をイメージする。あの寓話がラフ画に当たるのか…。


「だけどねぇ…、問題はここからなんだ。ほら、まだ羊皮紙はこれだけあるし欠落部分もこれだけあるだろう?これらをその部分にさらに重ねていくと、がらりと内容が変わっていくんだ。そのうえ少し不明瞭な…、余ってしまう単語まであってね…。さっきから何度もやり直してるんだ。イライラするよ」

「内容が変わる…?ちょっと待って。ノール先生呼んでくる。謎解きの好きなノールさんが居れば助けになるかも」




ユーリの勉強に割り込んで緊急出動を要請すれば、ノールさんには嫌な顔をされ、ユーリからは〝でかした!”みたいな顔をされる。
そのユーリの後押しもあり、渋々ながらもノールさんは書庫へと付き合ってくれる。


「もう…。ユーリウス様はどうしてああ、授業がお好きでないんだろう。とても賢いお方なのに…。まぁお逃げになる訳では無いけど…」

「前の家庭教師が悪すぎたんだよ。こういうのはとっかかりが大事だからね。最初に勉強は楽しいって思えないと引きずるよね。」

「そうなの?じゃぁもっと楽しい授業になるよう趣向を凝らさないといけないね。」

ノールさんは本当に良い先生だ。




道中、簡単な説明を済ませたおかげで到着後の動きはスムーズだ。
エスターが途中まで進めたそのパズルの未完成品をうなりながらずっと見ている。それをまたさらに後ろから覗き込む名探偵ノール。

ああでもないこうでもないと、二人のディスカッションは白熱していく。
そのたびにエスターはスキルを乱発し文字列の入れ替えを行っていくが、もう限界なんじゃないの?息が荒い…。


「ねぇ…、これってその余分を取り除いて読むんじゃないのかな?機密文書の暗号にもよくあるんだよ。あえて余分な文字を足してかく乱すること」

「それは最初に考えたがそれにしちゃ規則性が無い。ああいうのはある程度一定のルールがあるんだ。それに取っ払うと意味が通じない箇所もあって…ああ、お手上げだよ!」

「う~ん…、規則性…。ここの部分もここのところも…あれ?余った部分の…ここ逆さ斜めに読むと。消去eraseって読めない?」

「えっ?まさか…いや本当に。そうか!そういう事か!」

「どういう事⁉」

「「つまりだね!」」
「ゴホン、つまり〝erase”って揃ったところだけ消すんだよ。斜めでも逆さでも縦でも横でもね。多分」

「そうして残った文字列だけで文章を読み取れば…当たりだ。そうか、全てを消してはいけないのか…。ならほかの余分な文字は…」


いまいち納得したようなしてないようなエスターは置いといて、やっぱりノールさんを連れてきたのは正解だった。
エスターは書物のスキルを持つ奇才だけど、法則とか方程式とかは理数の分野、範疇外だ。ちなみに僕はどっちも…おや?


「ちょっとまった!それならここは?ずらせshiftって読める!」

「本当だ…でもずらすってどこに?」
「よし、一文字ずらしてみようか。へぇ…意味が変わった…。」


3人で顔を見合わせ一つ頷くと、狂ったようにそのパズルの文字列を目で追っていく。

reverse…」
「じゃぁこれは西では無くて東と言う事か」

足すplus…何を?」
「plusの前に余ってるReを後ろの単語medyに足したら?」
治療法Remedyになった…。」


すっかり楽しくなった僕たちは子供の様にはしゃいで、時間が経つのも忘れいつまでもパズルを解き続けた。
そのドアの前に、鬼のような形相のサーダさんが居るのにも気づかずに…。
そして不機嫌そうなユーリも僕たちをかばってはくれなかった…。ウソ…ずっと後ろから呼んでたって?ちょ、誰かっ!

「二人とも気付かなかったの!」
「アッシュ君だって微動だにしなかったじゃないか」
「エスター!」
「おっと、僕は通常営業だ」

「…全員そのまま謎解きを続けたらいい。食事抜きでね」

バタン



その日、揃いも揃って夕食抜きになった僕ら三人が、お腹をグーグー鳴らしてナッツ様の慈悲に縋ったのは…言うまでもない…。





しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜 【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】 *真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息 「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」 婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。 (……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!) 悪役令息、ダリル・コッドは知っている。 この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。 ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。 最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。 そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。 そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。 (もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!) 学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。 そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……―― 元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまいネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙にはAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。 校正も自力です(笑)

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色
BL
「ぼく、あくやくれいそくだ」弟の誕生と同時に前世を思い出した七海は、悪役令息キルナ=フェルライトに転生していた。闇と水という典型的な悪役属性な上、肝心の魔力はほぼゼロに近い。雑魚キャラで死亡フラグ立ちまくりの中、なぜか第一王子に溺愛され!?

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。 本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました! 心よりお礼申し上げます。 ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。 よければお時間のある時にお楽しみくださいませ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。