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70 彼からのお仕置き
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エスターは書物の鬼へと進化した。あの羊皮紙の山に埋もれ、頭から湯気を出しながらその解読に四苦八苦している。
丸投げするだけしておいて何も協力できないのが心苦しい…。せめて差し入れだけでもと、ナッツのスイーツを持って書庫へと向かう。
「エスター、ほら、片手で食べられるカロリー持ってきたよ。少し休憩したら?」
「ああ、悪いねアッシュ。ダイニングに行く時間も惜しくてね。集中を途切れさすのが嫌なんだよ」
エスターがスキルの発動を止めて空いた椅子を引き寄せる。
今なら少し邪魔してもいいだろうか?
「それで…、今は何してるの?」
「ああ、これはね文字を配列し直してたんだ。」
問題の寓話、その文字列は不自然に飛んだり欠けたり、脱落だらけでまともに読めない状態だった。
この綴じられた羊皮紙。パラリとめくれば一見同じような中身…。だからこそ僕は、それを見せかけの本だと思ったのだけど…
どちらにも所々に『王家』とか『術』とかの単語は見える。
エスターのスキルでその欠落部分を補完していくと、そこに見えてくるのは実に単純な勧善懲悪の物語。
古代王家が呪術師の集落に攻め入り、彼らを追い出しこの地を守った、と。
「これらの書物は嵌め絵のようなものなんだ。だから一冊だけでは意味をなさない。すべての書物を揃えて嵌め合わして初めて文章になるんだ。過去の公爵はそれを分かった上で収集していたようだね。手ごたえとして全部じゃないけど6割くらいは揃ってる感触だ。その上でちょうどあの寓話は骨格にあたるようだね。」
「へ、ぇ…」
つまりフォトショでレイヤーを重ねるようなものか…。記憶の中の『フォトショップ講座』を、思い出しながら、エスターの言葉をイメージする。あの寓話がラフ画に当たるのか…。
「だけどねぇ…、問題はここからなんだ。ほら、まだ羊皮紙はこれだけあるし欠落部分もこれだけあるだろう?これらをその部分にさらに重ねていくと、がらりと内容が変わっていくんだ。そのうえ少し不明瞭な…、余ってしまう単語まであってね…。さっきから何度もやり直してるんだ。イライラするよ」
「内容が変わる…?ちょっと待って。ノール先生呼んでくる。謎解きの好きなノールさんが居れば助けになるかも」
ユーリの勉強に割り込んで緊急出動を要請すれば、ノールさんには嫌な顔をされ、ユーリからは〝でかした!”みたいな顔をされる。
そのユーリの後押しもあり、渋々ながらもノールさんは書庫へと付き合ってくれる。
「もう…。ユーリウス様はどうしてああ、授業がお好きでないんだろう。とても賢いお方なのに…。まぁお逃げになる訳では無いけど…」
「前の家庭教師が悪すぎたんだよ。こういうのはとっかかりが大事だからね。最初に勉強は楽しいって思えないと引きずるよね。」
「そうなの?じゃぁもっと楽しい授業になるよう趣向を凝らさないといけないね。」
ノールさんは本当に良い先生だ。
道中、簡単な説明を済ませたおかげで到着後の動きはスムーズだ。
エスターが途中まで進めたそのパズルの未完成品をうなりながらずっと見ている。それをまたさらに後ろから覗き込む名探偵ノール。
ああでもないこうでもないと、二人のディスカッションは白熱していく。
そのたびにエスターはスキルを乱発し文字列の入れ替えを行っていくが、もう限界なんじゃないの?息が荒い…。
「ねぇ…、これってその余分を取り除いて読むんじゃないのかな?機密文書の暗号にもよくあるんだよ。あえて余分な文字を足してかく乱すること」
「それは最初に考えたがそれにしちゃ規則性が無い。ああいうのはある程度一定のルールがあるんだ。それに取っ払うと意味が通じない箇所もあって…ああ、お手上げだよ!」
「う~ん…、規則性…。ここの部分もここのところも…あれ?余った部分の…ここ逆さ斜めに読むと。消去って読めない?」
「えっ?まさか…いや本当に。そうか!そういう事か!」
「どういう事⁉」
「「つまりだね!」」
「ゴホン、つまり〝erase”って揃ったところだけ消すんだよ。斜めでも逆さでも縦でも横でもね。多分」
「そうして残った文字列だけで文章を読み取れば…当たりだ。そうか、全てを消してはいけないのか…。ならほかの余分な文字は…」
いまいち納得したようなしてないようなエスターは置いといて、やっぱりノールさんを連れてきたのは正解だった。
エスターは書物のスキルを持つ奇才だけど、法則とか方程式とかは理数の分野、範疇外だ。ちなみに僕はどっちも…おや?
「ちょっとまった!それならここは?ずらせって読める!」
「本当だ…でもずらすってどこに?」
「よし、一文字ずらしてみようか。へぇ…意味が変わった…。」
3人で顔を見合わせ一つ頷くと、狂ったようにそのパズルの文字列を目で追っていく。
「逆…」
「じゃぁこれは西では無くて東と言う事か」
「足す…何を?」
「plusの前に余ってるReを後ろの単語medyに足したら?」
「治療法になった…。」
すっかり楽しくなった僕たちは子供の様にはしゃいで、時間が経つのも忘れいつまでもパズルを解き続けた。
そのドアの前に、鬼のような形相のサーダさんが居るのにも気づかずに…。
そして不機嫌そうなユーリも僕たちをかばってはくれなかった…。ウソ…ずっと後ろから呼んでたって?ちょ、誰かっ!
「二人とも気付かなかったの!」
「アッシュ君だって微動だにしなかったじゃないか」
「エスター!」
「おっと、僕は通常営業だ」
「…全員そのまま謎解きを続けたらいい。食事抜きでね」
バタン
その日、揃いも揃って夕食抜きになった僕ら三人が、お腹をグーグー鳴らしてナッツ様の慈悲に縋ったのは…言うまでもない…。
丸投げするだけしておいて何も協力できないのが心苦しい…。せめて差し入れだけでもと、ナッツのスイーツを持って書庫へと向かう。
「エスター、ほら、片手で食べられるカロリー持ってきたよ。少し休憩したら?」
「ああ、悪いねアッシュ。ダイニングに行く時間も惜しくてね。集中を途切れさすのが嫌なんだよ」
エスターがスキルの発動を止めて空いた椅子を引き寄せる。
今なら少し邪魔してもいいだろうか?
「それで…、今は何してるの?」
「ああ、これはね文字を配列し直してたんだ。」
問題の寓話、その文字列は不自然に飛んだり欠けたり、脱落だらけでまともに読めない状態だった。
この綴じられた羊皮紙。パラリとめくれば一見同じような中身…。だからこそ僕は、それを見せかけの本だと思ったのだけど…
どちらにも所々に『王家』とか『術』とかの単語は見える。
エスターのスキルでその欠落部分を補完していくと、そこに見えてくるのは実に単純な勧善懲悪の物語。
古代王家が呪術師の集落に攻め入り、彼らを追い出しこの地を守った、と。
「これらの書物は嵌め絵のようなものなんだ。だから一冊だけでは意味をなさない。すべての書物を揃えて嵌め合わして初めて文章になるんだ。過去の公爵はそれを分かった上で収集していたようだね。手ごたえとして全部じゃないけど6割くらいは揃ってる感触だ。その上でちょうどあの寓話は骨格にあたるようだね。」
「へ、ぇ…」
つまりフォトショでレイヤーを重ねるようなものか…。記憶の中の『フォトショップ講座』を、思い出しながら、エスターの言葉をイメージする。あの寓話がラフ画に当たるのか…。
「だけどねぇ…、問題はここからなんだ。ほら、まだ羊皮紙はこれだけあるし欠落部分もこれだけあるだろう?これらをその部分にさらに重ねていくと、がらりと内容が変わっていくんだ。そのうえ少し不明瞭な…、余ってしまう単語まであってね…。さっきから何度もやり直してるんだ。イライラするよ」
「内容が変わる…?ちょっと待って。ノール先生呼んでくる。謎解きの好きなノールさんが居れば助けになるかも」
ユーリの勉強に割り込んで緊急出動を要請すれば、ノールさんには嫌な顔をされ、ユーリからは〝でかした!”みたいな顔をされる。
そのユーリの後押しもあり、渋々ながらもノールさんは書庫へと付き合ってくれる。
「もう…。ユーリウス様はどうしてああ、授業がお好きでないんだろう。とても賢いお方なのに…。まぁお逃げになる訳では無いけど…」
「前の家庭教師が悪すぎたんだよ。こういうのはとっかかりが大事だからね。最初に勉強は楽しいって思えないと引きずるよね。」
「そうなの?じゃぁもっと楽しい授業になるよう趣向を凝らさないといけないね。」
ノールさんは本当に良い先生だ。
道中、簡単な説明を済ませたおかげで到着後の動きはスムーズだ。
エスターが途中まで進めたそのパズルの未完成品をうなりながらずっと見ている。それをまたさらに後ろから覗き込む名探偵ノール。
ああでもないこうでもないと、二人のディスカッションは白熱していく。
そのたびにエスターはスキルを乱発し文字列の入れ替えを行っていくが、もう限界なんじゃないの?息が荒い…。
「ねぇ…、これってその余分を取り除いて読むんじゃないのかな?機密文書の暗号にもよくあるんだよ。あえて余分な文字を足してかく乱すること」
「それは最初に考えたがそれにしちゃ規則性が無い。ああいうのはある程度一定のルールがあるんだ。それに取っ払うと意味が通じない箇所もあって…ああ、お手上げだよ!」
「う~ん…、規則性…。ここの部分もここのところも…あれ?余った部分の…ここ逆さ斜めに読むと。消去って読めない?」
「えっ?まさか…いや本当に。そうか!そういう事か!」
「どういう事⁉」
「「つまりだね!」」
「ゴホン、つまり〝erase”って揃ったところだけ消すんだよ。斜めでも逆さでも縦でも横でもね。多分」
「そうして残った文字列だけで文章を読み取れば…当たりだ。そうか、全てを消してはいけないのか…。ならほかの余分な文字は…」
いまいち納得したようなしてないようなエスターは置いといて、やっぱりノールさんを連れてきたのは正解だった。
エスターは書物のスキルを持つ奇才だけど、法則とか方程式とかは理数の分野、範疇外だ。ちなみに僕はどっちも…おや?
「ちょっとまった!それならここは?ずらせって読める!」
「本当だ…でもずらすってどこに?」
「よし、一文字ずらしてみようか。へぇ…意味が変わった…。」
3人で顔を見合わせ一つ頷くと、狂ったようにそのパズルの文字列を目で追っていく。
「逆…」
「じゃぁこれは西では無くて東と言う事か」
「足す…何を?」
「plusの前に余ってるReを後ろの単語medyに足したら?」
「治療法になった…。」
すっかり楽しくなった僕たちは子供の様にはしゃいで、時間が経つのも忘れいつまでもパズルを解き続けた。
そのドアの前に、鬼のような形相のサーダさんが居るのにも気づかずに…。
そして不機嫌そうなユーリも僕たちをかばってはくれなかった…。ウソ…ずっと後ろから呼んでたって?ちょ、誰かっ!
「二人とも気付かなかったの!」
「アッシュ君だって微動だにしなかったじゃないか」
「エスター!」
「おっと、僕は通常営業だ」
「…全員そのまま謎解きを続けたらいい。食事抜きでね」
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