チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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75 彼の知らなくていい事

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「アッシュ、父が明日ショーグレン子爵とやってくるようだよ。」

「ありがとうエスター。さーて、教授は話してくれるかな?その王家のヤバイ研究とやら…」


時を同じくして、ユーリもヘンリックさんを呼び出した。なんでも成人前に知りたいことがあるそうだ。
何を話すのかは気になるが…、ユーリに出来た初めての友人だ。温かく見守るとしよう。
それにしても成人か…。



「ねぇユーリ。成人のお祝いは普通王宮でするんでしょ?ユーリも行くんだよね?」

「私は…、その日体調不良になる予定だ。聖王も王子も私を嫌っているし、高位貴族たちもなぜか私を忌々しそうに見てくる。行く意味もない。分かるよね。」

「…そうだね。王家の祝福なんて碌なもんじゃない。祝福なら僕がしてあげる。そうだ!二人っきりでお祝いしようか?パーティーじゃなくて、二人っきりで。僕の望遠鏡持って、天体観測しよう!零れそうな星空の下で。流れ星を探してお願い事をするんだよ!それが二人の成人の儀式!どうかな?」

「二人きり…。星空の下…。とても…、とてもいい考えだアッシュ!ああ…、そうと決まれば夏までに観測所を作らなくては。上等の寝台も入れて…。」

「大げさだなぁ。タープテントで良いのに。泊まりなら寝袋とか…。まぁ公爵様だし仕方ないか。」


ユーリにはせっかくだから露天風呂も作ったらどうかな?とお願いしておいた。大変だろうが公爵閣下の力技に頼るとしようか。星空の下で露天風呂。実に風流である。
祖母の話していた信州の温泉…山と川に囲まれた日本一の星空…、実は少しだけ興味があったのだ。今更だけど。




そして翌日。
保護者達がやって来た。その息子たちに連れられて…。

「おお、アッシュ君ご健勝ですかな?」
「アッシュ、どれ呪いは解けたか?」

「呪いって何の?」

「成長阻害の呪いだ」
「かかってない!そんなの!」

なんて失礼なんだ。相変わらずだな。ブッケ教授は。


「まぁいいや。教授は相手にすると面倒だし。それで子爵。例の絵と家門の関係どれくらい分かった?」

「うむ。やはり絵を飾っているのは元老院の家門で間違いない。しかしだ…。」

「何?」

「後継を失い断絶した家門…、残された縁者の家など訪ねてみたのだが…、皆揃いも揃ってあの絵はいつの間にか消えていたというのだ。家族の誰かが売ったのだ、などと怒っていたが、どうだろうな…。この私のもとには、あの絵が売り物として出回っているなどと、噂の一つも入って来たことはないのだよ。」

骨董、美術品に関して良いカモだった子爵のとこになんの情報も入らないとはね…。




絵を飾っていたのは元老院初期メンか…。

元老院は12家で固定されていて、現在その半分が近代新たに指名された家門だと。つまり6家門が断絶したという事実…。

元老院に残る古き6家門の中にはヘンリックさんのお家、コーネイン侯爵家も含まれる…。

そしてその残った6家門では…、時折例の特別な病に倒れる者が現れる…。必ずと言っていいほど、それは当主か嫡男に限られ…、そして完治するたび…その領内の税率は上がる。つまり治療のツケを領民に払わせているのか?


しかし…薄々そうだと思っていたけどこれで確信が持てた。何でも裏付けは大切だ。


「ヘンリックさんにも話し聞かなきゃね。でもその前に教授。」

「なんだね」

「教授が昔王宮で調べてた呪いって何?ヤバイ研究って何なのさ。どうしても知りたいんだけど」

「ううむ。あれか…。あれが止められるなら教えてやりたいのは山々だが王宮に暇を告げる際に制約がかかっているのだ。話すことは出来んのだよ。」



制約…、また制約か。
馬鹿の一つ覚えみたいに制約制約と、人を支配下に置いて何をする気っ、…そうか!
高貴な一族の強い力…、それはきっとこの支配系のスキル…、そうに違いない。


「これはな…、非常に重大な秘密でな。」


そうだろうとも。
だけども、ダメと言われれば聞きたくなるのが人情ってもんでしょ。
なんにだって抜け道はある。『これで今日から論破王』あれで覚えた屁理屈は、道理にだって通用する!


「問題ないよ。なにも教授に、見聞きしたことを教えてくれなんて言わないって。ちょ~っとその紙に書いてくれれば」
「同じことだ」

「裏返して見せなきゃいい。教授は自分の為に書き留めて、人に見せる前に処分する。なら制約には引っかからないでしょ?」

「ふむ…いいだろう。」


ノールさんのスキル、造形模写は造形複写へと進化した。なんどか試してみたが…、造形複写…つまり中身まで精巧に再現できる進化型3Dコピーってことだ。模写とは違う。そこに再現されるのは…、偽物でなく、本物だ。


「…さて、書き終わったがどうするつもりだ。」


一つうなずいてノールさんがそのメモを遠目に確認する。
そしてブッケ教授がそれを燃やすと、…ため息とともに、その目の前で複写品として再現したのだ。


「おお…なんと!…ならば、」

「教授。呪物はいけません。そんな物騒なもの複写しませんから。このスキルは僕の倫理観によって制御されます。公序良俗に反する事に発動しませんよ。」

「そうそう、金貨とかも駄目だったしね。ほんと安心したよ」


さすがだノールさん。ブッケ教授も片なしだ。
それにしてもこの内容…とんでもないことが記してあるな…。和やかなのもここまでか。



まず王家の呪い。
それはその時代の長の、一番大切な、そして決して失いたくない相手が必ず病に倒れると言うものだ。
その病はけっしてどの薬も血清も効かず、5年間、苦しみに苦しみぬいて絶命すると言うもの…。なんて非道な呪いなんだ。

自分が病に伏せるよりもキツイ…。心が病みそうだ…。ことごとくこの呪いは心を折って来るな…。


ああ、だから王家は公爵家の血族婚を推奨したのか。歴代の王家は愛する者の為に、または子孫のために備えようとしていたのだ。
その為に考えたのが…、リッターホルム公爵家の血清を強化する事。
強い毒から強い血清を得ようと。だけどその結果、公爵家の家系は身体と心に不具合を負い、危機を察知して血族婚は中止させた。


なんとかして血清の効果を高めようと、ブッケ教授をはじめとした学者や医師を集めてみても得られぬ結果。だから現王家では途中でやり方を変えた。


この先はWEB小説にもあった記述。

王家は殺人犯などの重罪人を集め、罪人に毒公爵の毒を飲ませそこで蟲毒こどくを行った。
その事実を知った時、毒公爵の心は折れたのだ。

どれほどの目に合おうが彼はいつだって自分を責めた。だがその事実を知った瞬間、彼は絶望と、そして怒りに支配されたのだ。こんな汚い国など無くなってしまえと。そして図らずもその片棒を担いだ自分には、闇の中、一人で生きるのが似合いだと…。

それが…WEB小説上で設定された崩壊の始まり。


まさかその質の悪い行いが…、強い血清を作る為だったとは…!




その計画のさわりを聞いてブッケ教授は逃げた…。呪物バカなのに…感性がまともで良かったよ。
だけど幸いにして、その研究は未だ本格的に着手されてはいない。
蛇や蠍の毒を使った研究…、その入り口ですでに行き詰っているからだ。




早めに気付けて良かったよ。たとえ重罪人の刑罰の一環だとしてもだ、…ドン引きでしかない…。






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