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77 彼の問いに答える者
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あれから早10日間。寒くなる前にはリッターホルムに戻りたい。そうするとリミットは残り1週間。
大公邸から外出できず…、随分退屈してる、と思うでしょ?
ところがどっこい。何日でも家で過ごせるのがヲタクの良いところ。むしろラッキーでしかない。思う存分、誰にも文句を言われず家に居られるなんて。
まぁ、今世はアウトドアも好きだけどね。染み付いた性根まで変わるわけじゃないのだ…。
「ほらユーリ、ここはこうでしょ。」
「ああ、じゃぁここに入るのは〝moon”かい?」
「そうしたらこっちの単語が…」
顔を突き合わせて解いているのは寓話の書ならぬただのクロスワード。暇つぶしの定番だ。これさえあればいくらだって時間は…
チュッ
「……、ねぇユーリ。前から言おうと思ってたんだけど、どうして…キ、キス…するの?これ…特訓関係ないよね?」
「どうしてって…、そこにアッシュが居るからとしか…」
なにをどこかの登山家みたいなことを…。そこに僕が居るからキスを…キスをするだと⁉
なっ、ちょっ、それっ、
「ちょっとユー」
「ユーリウス様、コーネイン侯爵とご子息が参りました。」
「あ、それ僕。僕の来客だから。ユーリ、少しだけ待ってて。話が済んだらすぐ戻るから。」
「ああ、私もヘンリックと話がある。ゆっくりしておいで」
珍しいな。あっさりどころか、ゆっくりだと?含みを感じるがまぁいい。好都合だ。
「やぁアッシュ君。先日の話…。君の助言に従い調べておいて良かったようだ。」
「…、良くない話でも聞きました?ああ、聞く前から嫌になって来た…。」
「まぁそう言うな。知っていれば備えも出来ると言うものだ」
すっかり気心の知れたコーネイン侯爵。
その彼が話す聞き込みの中身は、想像通りの愚行だった。
王家が独占するユーリの毒。彼らはそこから特別な血清を作り出している。その血清は王家の研究棟を以てしても必ずしも成功はしないのだろう。
当たり前だ。遠心分離機も濾過機もないこの世界ではそれを作り出すのは至難の業だ。
その貴重な血清。王家の秘薬とよばれるそれを、聖王は高位貴族を意のままに操る材料にしている。つまりは家門を失いたくなければ我らに従順であれと。
「祖父は…、相当の布施と、当時進めていた普請の労働力を要求されたようだ。だがこれでも筆頭侯爵家。ものともせず支払ったようだが人手まで奪われ苦労はしたようだ。無理難題に首を縦に振れぬ家門があっても無理からぬこと。だがそれを拒めば…秘薬は手に入らぬ。我が家の裁縫メイドの祖母、古き家門の一つ、元スレンソン侯爵家の三女であられた老女は今でも王家を恨んでおった。王家はもともと厳格なスレンソン侯爵家が目障りだったのだと。だからこそ、病の治療を乞うた時、これ幸いと無理を言ったのだろうと。」
「うわ…」
「それだけでない。もう一人、メイド長が彼女の祖父母から聞かされた話なのだが、その昔エクランド侯爵であった彼女の祖父は秘薬に公爵家が関わっていることを偶然知り、秘密裏に当時の公爵閣下の元へ直接秘薬を頼みに行ったらしい。だが王家にしか薬は渡せぬとすげなく断られたそうだ。それ以来エクランド侯爵も、その周囲の人間も公爵家に良い感情は持てぬらしいな。」
制約…。当時の公爵も制約によって縛られていた。毒を、秘薬を渡せないのは公爵家のせいなんかじゃ…。そうか…だから高位貴族ほどユーリに対して冷たいのか…。ユーリ…、いやリッターホルム公爵家に対して。
断絶した家系は…、血清による治療ができなかった家門。
血清が効かなかったのか…、王家の言う事を聞かなかったのか…、いずれにしてもその恨みの半分は公爵家が肩代わりさせられた。王家によって。
おかしいと思ってたんだ!多くの人の畏怖は分からなくもない。人は自分の理解を超えたものを恐れるから。
でもユーリは言ったんだ。高位貴族たちは忌々しそうに見てくるって。忌々しいって…そんなの因縁が無きゃそうはならない。
「なるほどね。よく分かった」
だから元老院にも顔を出させないんだ。それだけじゃない。王宮のどんな行事にも…。忌み嫌ってるからだけじゃない、顔を出されちゃまずいんだ。王家の嘘がばれるから…。
それにしてもひどい話だ。一時難を逃れたところで、その呪いはいずれまた発現する。世代を超えて再度また。その家系が、直系が途切れるまでは…何度でも。王家だってそれは分かっているはず。元一族はいずれ消え去る運命。でもそれって…。
「ねぇ侯爵、だけどそれで高位貴族がどんどん減ったら王家だって困るんじゃないの?新たな家門を元老院に取り上げたって、もう特効薬では稼げないって事でしょ?こう言っちゃなんだけど、細く長く搾り取ったほうが…」
「古き家門は王家に対し発言力が強くてな、歴代の聖王も煙たがっていたと言うことだろう。我が家でさえ時に良い顔をされぬ。新たな家門は王家に対しもとより従順な、そして潤沢な資源を持つ領主ばかりなのだよ」
そういうことか。もとは一族に連なる古い家門。うるさ型の親族ってことか。それらを排除し、裕福な腰ぎんちゃくで周りを固めつつあると…。
「くっ、くっ…」
「アッシュ君?」
「くっそ王家め!ユーリが何も言わないと思ってやりたい放題…っ!僕は許さない!覚えていろ!眼にもの見せてくれるからな!」
あ、しまった。また悪役臭が…。
「…不敬ではあるが…、聞かなかったことにしよう。それからあの絵画…、スレンソン侯爵家でもエクランド侯爵家でもいつの間にか消えていたそうだ。気づいた時には跡形もなく。誰がどこへ持ち出したのか、何の痕跡もなくね。」
「ありがとう、コーネイン侯爵。とても貴重な話の数々聞かせてくれて。もしも…、もし万が一何かが起きたら…、その時は王家でなくユーリに、いいや、僕に言ってくださいね。コーネイン侯爵家は僕が助けてあげる。見返りなしでね」
そうだ。王家になんか頼らなくてもここに手はある。あとは蟲毒の件さえなんとかすれば王家の方は片が付く。
王家の呪い?知った事か!
「アッシュ君、それは一体…」
「あ、ほら、ほらヘンリックさんが戻って来た。ヘンリックさんこっちこっち!って、ヘンリックさん?どうしたの?何か疲れて…」
ユーリとディスカッションでも交わしてきたのか、妙にぐったりしたヘンリックさんからは「君も大変だね…」と、ねぎらいをかけられたのだが…、大したことないよ。それもこれもユーリの為だしね!
大公邸から外出できず…、随分退屈してる、と思うでしょ?
ところがどっこい。何日でも家で過ごせるのがヲタクの良いところ。むしろラッキーでしかない。思う存分、誰にも文句を言われず家に居られるなんて。
まぁ、今世はアウトドアも好きだけどね。染み付いた性根まで変わるわけじゃないのだ…。
「ほらユーリ、ここはこうでしょ。」
「ああ、じゃぁここに入るのは〝moon”かい?」
「そうしたらこっちの単語が…」
顔を突き合わせて解いているのは寓話の書ならぬただのクロスワード。暇つぶしの定番だ。これさえあればいくらだって時間は…
チュッ
「……、ねぇユーリ。前から言おうと思ってたんだけど、どうして…キ、キス…するの?これ…特訓関係ないよね?」
「どうしてって…、そこにアッシュが居るからとしか…」
なにをどこかの登山家みたいなことを…。そこに僕が居るからキスを…キスをするだと⁉
なっ、ちょっ、それっ、
「ちょっとユー」
「ユーリウス様、コーネイン侯爵とご子息が参りました。」
「あ、それ僕。僕の来客だから。ユーリ、少しだけ待ってて。話が済んだらすぐ戻るから。」
「ああ、私もヘンリックと話がある。ゆっくりしておいで」
珍しいな。あっさりどころか、ゆっくりだと?含みを感じるがまぁいい。好都合だ。
「やぁアッシュ君。先日の話…。君の助言に従い調べておいて良かったようだ。」
「…、良くない話でも聞きました?ああ、聞く前から嫌になって来た…。」
「まぁそう言うな。知っていれば備えも出来ると言うものだ」
すっかり気心の知れたコーネイン侯爵。
その彼が話す聞き込みの中身は、想像通りの愚行だった。
王家が独占するユーリの毒。彼らはそこから特別な血清を作り出している。その血清は王家の研究棟を以てしても必ずしも成功はしないのだろう。
当たり前だ。遠心分離機も濾過機もないこの世界ではそれを作り出すのは至難の業だ。
その貴重な血清。王家の秘薬とよばれるそれを、聖王は高位貴族を意のままに操る材料にしている。つまりは家門を失いたくなければ我らに従順であれと。
「祖父は…、相当の布施と、当時進めていた普請の労働力を要求されたようだ。だがこれでも筆頭侯爵家。ものともせず支払ったようだが人手まで奪われ苦労はしたようだ。無理難題に首を縦に振れぬ家門があっても無理からぬこと。だがそれを拒めば…秘薬は手に入らぬ。我が家の裁縫メイドの祖母、古き家門の一つ、元スレンソン侯爵家の三女であられた老女は今でも王家を恨んでおった。王家はもともと厳格なスレンソン侯爵家が目障りだったのだと。だからこそ、病の治療を乞うた時、これ幸いと無理を言ったのだろうと。」
「うわ…」
「それだけでない。もう一人、メイド長が彼女の祖父母から聞かされた話なのだが、その昔エクランド侯爵であった彼女の祖父は秘薬に公爵家が関わっていることを偶然知り、秘密裏に当時の公爵閣下の元へ直接秘薬を頼みに行ったらしい。だが王家にしか薬は渡せぬとすげなく断られたそうだ。それ以来エクランド侯爵も、その周囲の人間も公爵家に良い感情は持てぬらしいな。」
制約…。当時の公爵も制約によって縛られていた。毒を、秘薬を渡せないのは公爵家のせいなんかじゃ…。そうか…だから高位貴族ほどユーリに対して冷たいのか…。ユーリ…、いやリッターホルム公爵家に対して。
断絶した家系は…、血清による治療ができなかった家門。
血清が効かなかったのか…、王家の言う事を聞かなかったのか…、いずれにしてもその恨みの半分は公爵家が肩代わりさせられた。王家によって。
おかしいと思ってたんだ!多くの人の畏怖は分からなくもない。人は自分の理解を超えたものを恐れるから。
でもユーリは言ったんだ。高位貴族たちは忌々しそうに見てくるって。忌々しいって…そんなの因縁が無きゃそうはならない。
「なるほどね。よく分かった」
だから元老院にも顔を出させないんだ。それだけじゃない。王宮のどんな行事にも…。忌み嫌ってるからだけじゃない、顔を出されちゃまずいんだ。王家の嘘がばれるから…。
それにしてもひどい話だ。一時難を逃れたところで、その呪いはいずれまた発現する。世代を超えて再度また。その家系が、直系が途切れるまでは…何度でも。王家だってそれは分かっているはず。元一族はいずれ消え去る運命。でもそれって…。
「ねぇ侯爵、だけどそれで高位貴族がどんどん減ったら王家だって困るんじゃないの?新たな家門を元老院に取り上げたって、もう特効薬では稼げないって事でしょ?こう言っちゃなんだけど、細く長く搾り取ったほうが…」
「古き家門は王家に対し発言力が強くてな、歴代の聖王も煙たがっていたと言うことだろう。我が家でさえ時に良い顔をされぬ。新たな家門は王家に対しもとより従順な、そして潤沢な資源を持つ領主ばかりなのだよ」
そういうことか。もとは一族に連なる古い家門。うるさ型の親族ってことか。それらを排除し、裕福な腰ぎんちゃくで周りを固めつつあると…。
「くっ、くっ…」
「アッシュ君?」
「くっそ王家め!ユーリが何も言わないと思ってやりたい放題…っ!僕は許さない!覚えていろ!眼にもの見せてくれるからな!」
あ、しまった。また悪役臭が…。
「…不敬ではあるが…、聞かなかったことにしよう。それからあの絵画…、スレンソン侯爵家でもエクランド侯爵家でもいつの間にか消えていたそうだ。気づいた時には跡形もなく。誰がどこへ持ち出したのか、何の痕跡もなくね。」
「ありがとう、コーネイン侯爵。とても貴重な話の数々聞かせてくれて。もしも…、もし万が一何かが起きたら…、その時は王家でなくユーリに、いいや、僕に言ってくださいね。コーネイン侯爵家は僕が助けてあげる。見返りなしでね」
そうだ。王家になんか頼らなくてもここに手はある。あとは蟲毒の件さえなんとかすれば王家の方は片が付く。
王家の呪い?知った事か!
「アッシュ君、それは一体…」
「あ、ほら、ほらヘンリックさんが戻って来た。ヘンリックさんこっちこっち!って、ヘンリックさん?どうしたの?何か疲れて…」
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