チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
38 / 277
連載

77 彼の問いに答える者

しおりを挟む
あれから早10日間。寒くなる前にはリッターホルムに戻りたい。そうするとリミットは残り1週間。

大公邸から外出できず…、随分退屈してる、と思うでしょ?
ところがどっこい。何日でも家で過ごせるのがヲタクの良いところ。むしろラッキーでしかない。思う存分、誰にも文句を言われず家に居られるなんて。

まぁ、今世はアウトドアも好きだけどね。染み付いた性根まで変わるわけじゃないのだ…。


「ほらユーリ、ここはこうでしょ。」
「ああ、じゃぁここに入るのは〝moon”かい?」
「そうしたらこっちの単語が…」

顔を突き合わせて解いているのは寓話の書ならぬただのクロスワード。暇つぶしの定番だ。これさえあればいくらだって時間は…

チュッ

「……、ねぇユーリ。前から言おうと思ってたんだけど、どうして…キ、キス…するの?これ…特訓関係ないよね?」

「どうしてって…、そこにアッシュが居るからとしか…」


なにをどこかの登山家みたいなことを…。そこに僕が居るからキスを…キスをするだと⁉
なっ、ちょっ、それっ、

「ちょっとユー」
「ユーリウス様、コーネイン侯爵とご子息が参りました。」
「あ、それ僕。僕の来客だから。ユーリ、少しだけ待ってて。話が済んだらすぐ戻るから。」

「ああ、私もヘンリックと話がある。ゆっくりしておいで」

珍しいな。あっさりどころか、ゆっくりだと?含みを感じるがまぁいい。好都合だ。



「やぁアッシュ君。先日の話…。君の助言に従い調べておいて良かったようだ。」

「…、良くない話でも聞きました?ああ、聞く前から嫌になって来た…。」

「まぁそう言うな。知っていれば備えも出来ると言うものだ」


すっかり気心の知れたコーネイン侯爵。
その彼が話す聞き込みの中身は、想像通りの愚行だった。

王家が独占するユーリの毒。彼らはそこから特別な血清を作り出している。その血清は王家の研究棟を以てしても必ずしも成功はしないのだろう。
当たり前だ。遠心分離機も濾過機もないこの世界ではそれを作り出すのは至難の業だ。

その貴重な血清。王家の秘薬とよばれるそれを、聖王は高位貴族を意のままに操る材料にしている。つまりは家門を失いたくなければ我らに従順であれと。



「祖父は…、相当の布施と、当時進めていた普請の労働力を要求されたようだ。だがこれでも筆頭侯爵家。ものともせず支払ったようだが人手まで奪われ苦労はしたようだ。無理難題に首を縦に振れぬ家門があっても無理からぬこと。だがそれを拒めば…秘薬は手に入らぬ。我が家の裁縫メイドの祖母、古き家門の一つ、元スレンソン侯爵家の三女であられた老女は今でも王家を恨んでおった。王家はもともと厳格なスレンソン侯爵家が目障りだったのだと。だからこそ、病の治療を乞うた時、これ幸いと無理を言ったのだろうと。」

「うわ…」

「それだけでない。もう一人、メイド長が彼女の祖父母から聞かされた話なのだが、その昔エクランド侯爵であった彼女の祖父は秘薬に公爵家が関わっていることを偶然知り、秘密裏に当時の公爵閣下の元へ直接秘薬を頼みに行ったらしい。だが王家にしか薬は渡せぬとすげなく断られたそうだ。それ以来エクランド侯爵も、その周囲の人間も公爵家に良い感情は持てぬらしいな。」



制約…。当時の公爵も制約によって縛られていた。毒を、秘薬を渡せないのは公爵家のせいなんかじゃ…。そうか…だから高位貴族ほどユーリに対して冷たいのか…。ユーリ…、いやリッターホルム公爵家に対して。


断絶した家系は…、血清による治療ができなかった家門。
血清が効かなかったのか…、王家の言う事を聞かなかったのか…、いずれにしてもその恨みの半分は公爵家が肩代わりさせられた。王家によって。


おかしいと思ってたんだ!多くの人の畏怖は分からなくもない。人は自分の理解を超えたものを恐れるから。
でもユーリは言ったんだ。高位貴族たちは忌々しそうに見てくるって。忌々しいって…そんなの因縁が無きゃそうはならない。


「なるほどね。よく分かった」


だから元老院にも顔を出させないんだ。それだけじゃない。王宮のどんな行事にも…。忌み嫌ってるからだけじゃない、顔を出されちゃまずいんだ。王家の嘘がばれるから…。

それにしてもひどい話だ。一時難を逃れたところで、その呪いはいずれまた発現する。世代を超えて再度また。その家系が、直系が途切れるまでは…何度でも。王家だってそれは分かっているはず。元一族はいずれ消え去る運命。でもそれって…。


「ねぇ侯爵、だけどそれで高位貴族がどんどん減ったら王家だって困るんじゃないの?新たな家門を元老院に取り上げたって、もう特効薬では稼げないって事でしょ?こう言っちゃなんだけど、細く長く搾り取ったほうが…」

「古き家門は王家に対し発言力が強くてな、歴代の聖王も煙たがっていたと言うことだろう。我が家でさえ時に良い顔をされぬ。新たな家門は王家に対しもとより従順な、そして潤沢な資源を持つ領主ばかりなのだよ」


そういうことか。もとは一族に連なる古い家門。うるさ型の親族ってことか。それらを排除し、裕福な腰ぎんちゃくで周りを固めつつあると…。


「くっ、くっ…」

「アッシュ君?」

「くっそ王家め!ユーリが何も言わないと思ってやりたい放題…っ!僕は許さない!覚えていろ!眼にもの見せてくれるからな!」


あ、しまった。また悪役臭が…。


「…不敬ではあるが…、聞かなかったことにしよう。それからあの絵画…、スレンソン侯爵家でもエクランド侯爵家でもいつの間にか消えていたそうだ。気づいた時には跡形もなく。誰がどこへ持ち出したのか、何の痕跡もなくね。」

「ありがとう、コーネイン侯爵。とても貴重な話の数々聞かせてくれて。もしも…、もし万が一何かが起きたら…、その時は王家でなくユーリに、いいや、僕に言ってくださいね。コーネイン侯爵家は僕が助けてあげる。見返りなしでね」


そうだ。王家になんか頼らなくてもここに手はある。あとは蟲毒の件さえなんとかすれば王家の方は片が付く。
王家の呪い?知った事か!



「アッシュ君、それは一体…」

「あ、ほら、ほらヘンリックさんが戻って来た。ヘンリックさんこっちこっち!って、ヘンリックさん?どうしたの?何か疲れて…」


ユーリとディスカッションでも交わしてきたのか、妙にぐったりしたヘンリックさんからは「君も大変だね…」と、ねぎらいをかけられたのだが…、大したことないよ。それもこれもユーリの為だしね!








しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。