チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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93 彼と一休み

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よれよれの老人になってしまった聖王は従者に連れられ私室へと下がってゆく。
詳しい話は一休みして明日にしようと、これは僕からのささやかな提案。心も城もへし折られた聖王が少しばかり気の毒すぎて…。少しね。1ミリぐらい。
それにしても…、誰も僕に近づかない。肉体派の騎士でさえ遠巻きにしてビクビクしている。神の怒りが怖いらしいな。だからといって、目が合うと土下座するのはやめて欲しい…。

ユーリの味わって来た気持ち、それが少し分かってしまった。そうか…、彼はこんな目で見られ続けたのか…。
…まぁ、僕は特に気にしてないけど。確信犯だしね。


ゴージャスな王城の中はいくつもの独立した建物が廻廊によってつながっている。
騎士の棟、ご婦人の棟、使用人の棟、そして、王族が生活する宮殿だ。宮殿は謁見や執務をする表部分と生活のための奥向き、そこもやっぱり中庭で区切られていて、今回崩壊の被害に遭ったのはその表部分だ。
まぁ犯人は…、僕だけどね。

当分あそこは使えないな。ご愁傷様なことだ。それもすべては身から出た錆…。

そんな中、僕とユーリには来賓用の素晴らしい部屋が用意された。もう日が暮れるしここで一泊する運びらしい。別に大公邸に戻っても良かったのに…。
まぁ、スキルの使い過ぎでガス欠気味といえばそうなんだけどね。ああ…、サーダさんのご馳走が食べたい…。


「まだ信じられない、あの聖王が…。アッシュ、君はあの言葉を聞いても大丈夫なのか?君には何故あのスキルが効かないんだ。」

「ユーリ…、聖王のスキルは洗脳による支配だ。だけど僕はもうとっくに支配されてるもの。…ユーリに」
「アッシュ…、なんて嬉しい事を言ってくれるんだ。」



ー なぜなら僕は既に知識の奴隷だからだ! ー

あのセリフは一生心の中にしまっておこうと思う…。




ディナーの準備を待つわずかな時間。今僕の目の前には号泣するノールさんと、それを宥めるアレクシさんが居る。
自分を責め続けるノールさん。
王子がユーリに剣を向けた事、そして僕に制約をかけようとした事、騒動からずっと自責の念に駆られているんだ。

「もう良いって、ほんとに…。気にしてないから泣かないでよ…」

「うう…だって、君は気が乗らないって言ってたのに僕が殿下を信じたばかりに…。グス、もう少しで君を危険にさらす事に…」

「そうでもないって。どうせ王様人質にして制約なんか解除させる気満々だったし」


ノールさんに言われるまでも無く、王様に呼び出しを受けた以上、どっちみちあの場で王子は解放する事になったんだ。
ノールさんの前でごねて見せたのは…、ある種のポーズだ。まだ信用はしていないという、王子に対しての…。


「選択肢なんか無かった。だから別に言われて解いたわけじゃ…、ノールさんに責任は無いよ。むしろノールさんのおかげで途中まで予想外に上手くいったと思ってる」

「と、途中…?どういう意味…?」

「王子は途中で日和ったんだ。」


そう。確かに途中まで王子の心は揺れていた。
このまま何の期待もされない名ばかりの王太子でいることに甘んじ、さらに玉座についたらついたで王の傀儡となり、言われるがままの空っぽな人生を送るのか…、はたまたここで心を入れ替え一念発起、自分の人生を取り戻すのか。
悩んで迷って揺れ続け、最後の最後で…、日和った。
あんのくそ王子‼少しは男を見せて見ろってんだ。根性なしめ…。


「でも、たとえそうだとしても僕が甘かったのは事実だよ…。僕の方が年上だって言うのに情けない…。う、ヒック、これからはもっと、もっと心を鬼にして、や、優しさなんかっ、うっ、うぅぅ…」

「ノール!それは必要ない!ハッキリ言おう。君はそのままで十分だ。」
「ゆ、ユーリウス様…」


おっとびっくり!まさかユーリがこんな大きな声で庇うなんて。め、珍しい…。こういう事には普段口を挟んでこないのにね。そっか…、ユーリにとってもノールさんは大切な教師、今では大切な仲間なんだな。ジーン…


「本当に…、僕もそう思うよ。ノールさんはそのままでいいんじゃないかな。あの曲者ぞろいのリッターホルムで、ノールさんは数少ない良心なんだから」

「アッシュ君…。僕は君の言う事を聞かなかったのに…そんな風に言ってくれるなんて…うっ、うぇ…」

「ノール!君はそのままでいいんじゃない、そのままが良いんだ!確かにこの世は君が考えるほど善良では無いのかも知れない。だからこそ君には人を信じる心を失わないで欲しい。欺瞞溢れるこの世界で何かを信じる事がどれほど難しいか…。私はそれを君の強さだと思う。裏切られることを恐れない強さだ。どうか君はそのままで…、私はそんな君が好きだ。あ、いや、別に変な意味じゃなく…」

「アレクシ…、君は優しいね。僕もそんな優しい君が大好きだよ。でも、またこんな風に騙されたりしたら…」

「その時はリッターホルムのみんなが助けてくれる。君の代わりにアッシュ君が、そうだとも、君の分まで疑ってくれるさ」

んー、そうそう、僕が疑って…って、おいっ!

「アレクシさん。いい感じに言ってるけど全然良くないからね、それ。それからアレクシさんもそっち側だよ。二人とも善性だもんね。頼むから二人で何か決めるの止めてね。碌な事にならないから。」


「まるで君が悪みたいな口ぶりだが…、ところでアッシュ君は殿下をどうするつもりだったんだい?君も自分で言ったが陛下に呼ばれた時点で解放するしか無かっただろう?」

「う~ん、何か弱みを握って言う事聞かせようかと。」
「神が聞いてあきれる…」

「ま、まぁまぁ、例えばどんな風に?」
「う~ん、これとか」

「そっ、それ、王太子の蝋印環じゃないか!王太子の証と言われる!どこから持ってきたの!」
「もちろん王子の部屋だけど?」


ユーリとノールさんが言うには、貴族なら誰でも知ってる王太子の証。これが無いと王太子は王太子と見なされないといわれる重要なブツ。らしい。
まぁ今の王室でどれくらい有効かは分からないけど、元老院が正常に機能してたら本来これ無しで王太子面なんて出来ないはずの貴重な物なのだとか。
そうとは知らなかったけど…、あのお馬鹿さんときたら、いかにも貴重品です!みたいにシルクの布で包んでいる割には無造作に引き出しに突っ込んであるから…。やっぱりな。ピンときたんだよ。しかしそんな大事な物なら金庫にくらいしまっとけばいいのに…。王子の周りには、貴重品はセーフティーボックスにって教えてくれる人居なかったのか?
何につけ、もう少し人に恵まれていたら…ちょっとはましな男になったかもしれないのにね…。

ついうっかり返しそびれたけどちょうどいいや。これは当面僕が預かっておくとするか。奴が一人前の王太子に成長するその時まで…。

それから王子への罰ゲームはこれとは別に残ってるからね。僕のポケットに、例のキャロライナリーパーが…。
あいつの性根は、一度徹底的に叩き直さなくてはなるまい。…スパルタで!




「アッシュ、その王子の部屋での事、全部聞かせてくれるかい?本当に何もされていないね?」

「されてない。本当だって!されてたらあんな収拾つかない事にはなってないよ…。」

「ほ、本当ですともユーリウス様。僕が証人です。殿下はシーツと蔓でがんじがらめにされていて、アッシュ君ときたらその上に座ったりして…、もう…もう本当に驚いたんですから!」

「なんだと…」グ、グググ…パリンッ


え、そこ怒るとこ?何もされてないって言ったじゃん!ひどい目にあったのは僕じゃなくて王子だよ?普通安心するんじゃないの?


ユーリの地雷が分からない…。






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