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97 彼との初帰省
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ああ、風が気持ちいい…。
王宮でのなんやかんやがあったせいで…、季節はすっかり初夏の入り口。
その中で色づく様々な花、手塩にかけた花園、二人の散歩道。
「一周するだけで汗ばんでしまうね。マァはここよりも暑かったか…。」
「そう言えば初めて会ったとき、あの日もすごく暑かった。ユーリ、覚えてる?」
「もちろんだとも。君は真っすぐに私を見て、そしてこの手を取ってくれた。あの日のことは、全て覚えてる。一日の終わり…母のことも…」
「ユーリ…。本当に良いの?もしも無理してるなら僕一人で行っても、」
「駄目だ。一人でなんてとんでもない。アッシュ…、母のことはもう大丈夫だ。あれから時間も経ったし、それに…」
カルロッタさんのことを語るユーリの表情は…、今まででは見られなかった、うっすらと笑みにすら思える何とも言えない表情で。
苦痛でも悲しみでも無く、そうか、これは憐憫の表情だ…。『クリエイター必見 表情の全て』を記憶した僕にはその気持ちが正確に分かる…。
「あれ以上深淵に足を踏み入れるくらいなら…、彼女はあそこで踏みとどまってむしろ良かったんだ。人として眠りにつけた。今ならそう言える。君がこうして側に居てくれる今だから…。アッシュ、ようやく行けるね。君の両親に挨拶をしに。」
「そっか。…そうだね。本当に楽しみ。あっ!あそこに行こうね。二人で話し込んだあの木陰。」
「ふふ、楽しみだ」
深淵…、それは石板に刻まれた言葉。〝深淵には不死が寄り添う”…。いいや、ユーリはそんなものには寄り添わない。その為に僕はここにいるんだ。
その対策の一つがマァの村、あの御神木であるトネリコの木から、不死の林檎を見つけ出す事。
王様の前であれほど大口叩いたからには絶対に見つけなければ。
サーダさんとも賭けた事だし…。
そう、あれは一昨日…。
「どうしたの~アッシュ。渋い顔して。甘いもの食べる~?スティックチョコクラッカー出してあげようか~?」
「ポッキーはエスターに持ってってあげなよ。手を使わず食べられるから喜ぶよ。う~ん、見切り発車で自分を追い込んじゃって、ちょっとね。」
「あはは、アッシュはいつもそうだね~」
「う、うるさい…。しょうがないじゃんか。プレッシャーが無いとやる気が出ないんだよ…」
「シェフも派生スキルが上手くいかないって渋い顔してるけど~」
「えっ!」
その日の厨房、そこで僕とナッツはウダウダと無駄話をしていた。終わりの無い地獄、ビスタチオの殻を剥きながら。
その剥き終わったビスタチオを横でペーストにしていくサーダさん。美味しいんだよねぇ。ビスタチオのアイス。
「焦らすつもりは無いけど…、けっこうあてにしてるんだけどな。宮廷の博士たちにお願いしても良いんだけど、ここでやる!って啖呵切っちゃったから。抗毒素血清…シェフのスキル、何とか状態分離を派生させなきゃ…」
ガタン!
「くそっ!もう少しなんだ!あと一息で成功する!アッシュも何かをしているのだろう?私はアッシュよりも先にやり遂げて見せる!」
「は?はぁぁ?何言っちゃってんの?僕の方が先に決まってるじゃん。なにしろマァの村のトネリコの木にリンゴを探しに行くだけなんだから」
「馬鹿を言うな!トネリコにリンゴは生らん。そんな空想の林檎を探すなど…、私の方が先に決まっている!」
「ふ、ふ~ん、なら賭ける?」
「いいとも」
今思えば馬鹿な賭けだと、そう思う…。
先に始めてるサーダさんの方が分が良いに決まってるじゃないか。下手したら僕がマァの村に出発するよりも先に、…ああ…。
しかもサーダさんが勝ったら、何故か「ナッツの言う事をひとつ聞いてやれ」なんて…、ナッツめ、ちゃっかりしてるよな。
別に負けたからってなんてことないけど…、悔しいじゃないか!やっぱり負けたら…。
と言うことがあったために、今僕は燃えているのだ。
うっかり思い出し後悔を噛みしめてたら、こちらをじぃぃっと見つめるユーリの視線。
「アッシュ…そろそろどうかな?ここは私たちのリッターホルムだ」
「あれだよね?その…、激しいのはまだちょっと…」
「どうして?約束したじゃないか」
怪訝そうなユーリの表情…
イケナイ!ユーリと僕の信頼関係、それに約束の履行は重要なファクターだ。男たるもの約束を破ることはできない!できないがっ、…引き延ばすことは可能だ!
「ま、マァの村で…、き、記念すべきあそこで…、そ、そうだよっ!あそこで記憶の上書きを!ユーリの中のマァの村への関連付けを良いものにしなくちゃ。ユーリの中の例の記憶を僕とのすごい…その…濃厚な…」
ユーリの為になら何だってしてあげたい。けど、僕は無節操な男ではないのだ。どこかの王子様と違って…
色んなことを思いきるには、僕にだって理由が必要だ。
自制心の特訓でもあるキスまがい…、多分あれとは違う、ユーリのしたがっているのは…大人のキス。
お、大人か…。いつかはしたいと、いや、しなければならないとすら思っていた大人のキス。
そのキスのお相手が、まさか…ユーリになるとは…。想定外だ。でもよく考えたらそうだよね。ユーリが心を開ける相手なんてそう多くは…。だからといって…
「アッシュ、何考えてる?」
「別に。その、ユーリが僕以外の誰かとするのは嫌だなって…」
「すごく濃厚で激しい終わりの無いキスのこと?しないよ。馬鹿だね君は。要らぬ心配だよ」
「そっ、そう。…それならまぁ…」
「それにしてもマァの村か…いい考えだ。アッシュ、それはとても素晴らしい。そうだね。あそこを二人の記念の地にしよう。早く出発したいな。屋敷に戻ってヴェストに早まらないか確認しよう」
なんか余計な単語が混じってたような…。でも2年半ぶりだ。早く帰れるのならそれもまた良し!
マァの村へ同行するのは言わずと知れたアレクシさん。
僕がリッターホルムを留守にするその間、エスターは王都の中央、聖神殿にバイトに行くらしい。
なんでもヴェストさんのお父さんに古い古い巻物の修繕を頼まれたのだとか…。まぁお付き合いは大事だしね。
ついでだからエスターには、ノールさんへの手紙を届けてもらう事にした。
こちらへ戻ってからの日々のあれこれ。心配性なノールさんが安心するように。
ユーリとアレクシさんには、僕がちゃんと『経営RPG 徹底攻略』で覚えた領地繁栄のコツをドヤ顔で披露しておいたことや、これからマァの村へと行くにあたって、ユーリがカルロッタさんを憐れんでみせたこと、だから何も心配いらないよって、手紙にはそう記した。
早く夏になればいい。またみんなで楽しい時間を、下らないことを話してどうでもいい事で笑って、そんな時間を過ごしたい。
そうして、お中元を大量に積んで先行した馬車に続いて数日後、僕とユーリを乗せた翼竜便は大空へと飛び立ったのだ。
王宮でのなんやかんやがあったせいで…、季節はすっかり初夏の入り口。
その中で色づく様々な花、手塩にかけた花園、二人の散歩道。
「一周するだけで汗ばんでしまうね。マァはここよりも暑かったか…。」
「そう言えば初めて会ったとき、あの日もすごく暑かった。ユーリ、覚えてる?」
「もちろんだとも。君は真っすぐに私を見て、そしてこの手を取ってくれた。あの日のことは、全て覚えてる。一日の終わり…母のことも…」
「ユーリ…。本当に良いの?もしも無理してるなら僕一人で行っても、」
「駄目だ。一人でなんてとんでもない。アッシュ…、母のことはもう大丈夫だ。あれから時間も経ったし、それに…」
カルロッタさんのことを語るユーリの表情は…、今まででは見られなかった、うっすらと笑みにすら思える何とも言えない表情で。
苦痛でも悲しみでも無く、そうか、これは憐憫の表情だ…。『クリエイター必見 表情の全て』を記憶した僕にはその気持ちが正確に分かる…。
「あれ以上深淵に足を踏み入れるくらいなら…、彼女はあそこで踏みとどまってむしろ良かったんだ。人として眠りにつけた。今ならそう言える。君がこうして側に居てくれる今だから…。アッシュ、ようやく行けるね。君の両親に挨拶をしに。」
「そっか。…そうだね。本当に楽しみ。あっ!あそこに行こうね。二人で話し込んだあの木陰。」
「ふふ、楽しみだ」
深淵…、それは石板に刻まれた言葉。〝深淵には不死が寄り添う”…。いいや、ユーリはそんなものには寄り添わない。その為に僕はここにいるんだ。
その対策の一つがマァの村、あの御神木であるトネリコの木から、不死の林檎を見つけ出す事。
王様の前であれほど大口叩いたからには絶対に見つけなければ。
サーダさんとも賭けた事だし…。
そう、あれは一昨日…。
「どうしたの~アッシュ。渋い顔して。甘いもの食べる~?スティックチョコクラッカー出してあげようか~?」
「ポッキーはエスターに持ってってあげなよ。手を使わず食べられるから喜ぶよ。う~ん、見切り発車で自分を追い込んじゃって、ちょっとね。」
「あはは、アッシュはいつもそうだね~」
「う、うるさい…。しょうがないじゃんか。プレッシャーが無いとやる気が出ないんだよ…」
「シェフも派生スキルが上手くいかないって渋い顔してるけど~」
「えっ!」
その日の厨房、そこで僕とナッツはウダウダと無駄話をしていた。終わりの無い地獄、ビスタチオの殻を剥きながら。
その剥き終わったビスタチオを横でペーストにしていくサーダさん。美味しいんだよねぇ。ビスタチオのアイス。
「焦らすつもりは無いけど…、けっこうあてにしてるんだけどな。宮廷の博士たちにお願いしても良いんだけど、ここでやる!って啖呵切っちゃったから。抗毒素血清…シェフのスキル、何とか状態分離を派生させなきゃ…」
ガタン!
「くそっ!もう少しなんだ!あと一息で成功する!アッシュも何かをしているのだろう?私はアッシュよりも先にやり遂げて見せる!」
「は?はぁぁ?何言っちゃってんの?僕の方が先に決まってるじゃん。なにしろマァの村のトネリコの木にリンゴを探しに行くだけなんだから」
「馬鹿を言うな!トネリコにリンゴは生らん。そんな空想の林檎を探すなど…、私の方が先に決まっている!」
「ふ、ふ~ん、なら賭ける?」
「いいとも」
今思えば馬鹿な賭けだと、そう思う…。
先に始めてるサーダさんの方が分が良いに決まってるじゃないか。下手したら僕がマァの村に出発するよりも先に、…ああ…。
しかもサーダさんが勝ったら、何故か「ナッツの言う事をひとつ聞いてやれ」なんて…、ナッツめ、ちゃっかりしてるよな。
別に負けたからってなんてことないけど…、悔しいじゃないか!やっぱり負けたら…。
と言うことがあったために、今僕は燃えているのだ。
うっかり思い出し後悔を噛みしめてたら、こちらをじぃぃっと見つめるユーリの視線。
「アッシュ…そろそろどうかな?ここは私たちのリッターホルムだ」
「あれだよね?その…、激しいのはまだちょっと…」
「どうして?約束したじゃないか」
怪訝そうなユーリの表情…
イケナイ!ユーリと僕の信頼関係、それに約束の履行は重要なファクターだ。男たるもの約束を破ることはできない!できないがっ、…引き延ばすことは可能だ!
「ま、マァの村で…、き、記念すべきあそこで…、そ、そうだよっ!あそこで記憶の上書きを!ユーリの中のマァの村への関連付けを良いものにしなくちゃ。ユーリの中の例の記憶を僕とのすごい…その…濃厚な…」
ユーリの為になら何だってしてあげたい。けど、僕は無節操な男ではないのだ。どこかの王子様と違って…
色んなことを思いきるには、僕にだって理由が必要だ。
自制心の特訓でもあるキスまがい…、多分あれとは違う、ユーリのしたがっているのは…大人のキス。
お、大人か…。いつかはしたいと、いや、しなければならないとすら思っていた大人のキス。
そのキスのお相手が、まさか…ユーリになるとは…。想定外だ。でもよく考えたらそうだよね。ユーリが心を開ける相手なんてそう多くは…。だからといって…
「アッシュ、何考えてる?」
「別に。その、ユーリが僕以外の誰かとするのは嫌だなって…」
「すごく濃厚で激しい終わりの無いキスのこと?しないよ。馬鹿だね君は。要らぬ心配だよ」
「そっ、そう。…それならまぁ…」
「それにしてもマァの村か…いい考えだ。アッシュ、それはとても素晴らしい。そうだね。あそこを二人の記念の地にしよう。早く出発したいな。屋敷に戻ってヴェストに早まらないか確認しよう」
なんか余計な単語が混じってたような…。でも2年半ぶりだ。早く帰れるのならそれもまた良し!
マァの村へ同行するのは言わずと知れたアレクシさん。
僕がリッターホルムを留守にするその間、エスターは王都の中央、聖神殿にバイトに行くらしい。
なんでもヴェストさんのお父さんに古い古い巻物の修繕を頼まれたのだとか…。まぁお付き合いは大事だしね。
ついでだからエスターには、ノールさんへの手紙を届けてもらう事にした。
こちらへ戻ってからの日々のあれこれ。心配性なノールさんが安心するように。
ユーリとアレクシさんには、僕がちゃんと『経営RPG 徹底攻略』で覚えた領地繁栄のコツをドヤ顔で披露しておいたことや、これからマァの村へと行くにあたって、ユーリがカルロッタさんを憐れんでみせたこと、だから何も心配いらないよって、手紙にはそう記した。
早く夏になればいい。またみんなで楽しい時間を、下らないことを話してどうでもいい事で笑って、そんな時間を過ごしたい。
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※別名義で連載していた作品になります。
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