チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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98 彼の初顔合わせ

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一昼夜の空旅を終え、やって来たのはマァの村!の手前の村。ここには翼竜便の停泊所があるのだ。
少し進むとマァの村へと入るための関所がある。囲いに囲まれたマァの村。出入口は一か所。けっして素性の知れない余所者が入り込むことは無い。それこそがあののどかさの秘訣なのだ。



「ユーリウス様、初めての空の旅はいかがでしたか?不便はありませんでしたか?」
「いいや、実に快適だった。あれは良い。帰りも使うとしよう。」


そこには先行していたアレクシさんが僕とユーリを待っていた。

ちっとも変わらない。2年半前、決意を秘めここを出たあの時と何も変わらない。
変化が必要なこともある。文明の進化。それはもちろん必要だ。だけど変わらない事が心の支えになることもある。
これこそがまさにそうだ。
この地に一歩足を踏み入れれば、あっという間にあの頃の自分に戻れるのだ。ピュアだったあの頃の自分に…。

だってユーリってば、気圧と高度と感情の抑揚とか意味不明な事ばかり言って、何度も何度も…ゴホン。
可憐な唇が腫れたらどうするのさ。噛まれたし…

しかし…、上空、二人きり、行き場のないその籠の中で、ずぅぅっと密着したまま眠ったりサンドイッチ食べさせ合ったりして過ごしてたんだけど…翼竜の高度とユーリのご機嫌が妙に比例してたのは微笑ましかったな。高いところが好きなのかな?
だからアレクシさんの反対を押し切ってまで、あれほど空路で行きたいと言い張ったのか…。


「ユーリごめんね。ずっと寄りかかっちゃって。重くなかった?」

「いいや。少しも重くなかったよ。それより君がこれに一人で乗って来たのかと思うと…」
「あの時は少しでも早くユーリの顔が見たくて気が逸ってたから…」


嬉しそうに細められるユーリの瞳。それをこの地で見られるなんて…心の中でガッツポーズだ!



そこから少しばかりの移動。馬車から見るマァの景色はいつもと違って見えたりして。徒歩移動しかしたこと無かったからね。ちょっと新鮮だった。
農作業中の知り合いを見つけては手を振る僕。公爵家の馬車に乗る僕にみんなが驚くのも無理はない。

そうして僅かな時間で到着した別荘。凝った模様のアイアンフェンス。その中へ入るのは初めての事。

ロータリーみたいになった表玄関にそびえたつルネッサンス建築。…その脇にある丸い塔屋のついた洋館。元はビリヤードルームだったというこじんまりした建物。案内されたのはそちらだった。



「手を入れて最低限のしつらえは済ませてあります。不都合があれば仰ってください。」
「うむ。そうだな、今はこれでいい。アッシュどうかな?」

「十分すぎだよ。それにしても少し疲れたよね。家に行くのは一休みしてからにしようよ」

「そうだね。身体を清めて、それから服も着替えたい」
「ふぅん。何着てくの?」

「アレクシ、正装一式を」


ちょっと待ったー!何着てくって?冗談でしょ?ユーリが両親に敬意を払ってくれることは実に嬉しい。
でも気持ちだけで十分だ。こんな狭くてのどかな村で、公爵家の正装なんか…悪目立ちでしかない…。

「ユ、ユーリ…双子コーデって知ってる?同じデザインの服を着ていくことだよ。」
「揃いの服…!そうだ!もちろんそうしよう!ああ、何故私はそんなことにも気づかないんだ!」

そんな大げさな…、けど何とか正装は阻止できたみたいで…一安心。






ユーリの手を引いてポテポテ歩く。ここは平和だ。ユーリを脅かすものは何もない。
公爵家の噂、ここでは噂はしても誰も気にしない。何故ならよそ事だと思ってるから。そもそも今の成長したユーリの姿を知る人なんて一人も居ない。
だからこそリッターホルムで未だ出来ないことがここでなら出来る。
顔と顔を見合わせながら細い農道を使ってシュートカットしていく。行き先は僕の家。のどかな農村のなんてことない日常。日常…?え?何あれ?

日常的じゃないっ!なっ、なにあれっ⁉


「ちょっとユーリ!お中元にしては多すぎない⁉うちの前、大名行列みたいになってるんだけど…」

「馬車10台だろう?少なくないかい?」

「えっ!リッターホルム出発するとき3台しか無かったよね!?」
「道中、少しばかり買い足すよう言っておいた」


ちょっと公爵家の感覚が分からないな…。まったくもって理解不能。
僕はユーリの腕をひっぱって、家の扉を思い切り開けた。


「父さん、母さん、それからタピオ兄さん、久しぶり!元気だった?僕は元気だよ!で、荷物どうする?」

「どうもこうも…、うちにはこんなに仕舞っとけないわよ。持って帰ってくれってさっきから御者さんに言ってるんだけどねぇ…。」

アっ、アレクシさん…の眉毛が限界まで八の字になってる…。ど、どうしたら。

「お義母様、それは私からの気持ちです。何も言わずにアッシュを私の元へと寄こしてくれた、その気持ちへの感謝のしるしと、これからも末永くよろしくという気持ち、どうか遠慮なさらず受け取っていただきたい」

「いやユーリ、遠慮じゃなくてね…。家のサイズよりお中元のほうが多いって…おかしいでしょ!」

「そうか…、それならここを納屋にして母屋を建て増してはどうだろう。アレクシ、この両隣の土地はどうなっている」
「え?は、はい。マァの責任者でもある別荘の管理人に至急確認いたします。」

「ま、待って、待って、ああ…」

困惑する僕たち一家を置き去りにして暴走するユーリとなんの防波堤にもならないアレクシさん。ここにこういう時だけやけに行動の早いヴェストさんが居なくて本当に良かった…。心底そう思う。

「分かった分かった。納屋は俺と父さんで増築するよ。公爵様、せっかくなんでありがたく貰っときますけど母屋はけっこうです。な、いいだろ?父さん、母さん。」

「タピオ…。お前がそう言うなら。」
「じゃあありがたく貰っとくかねぇ。すいませんねぇ公爵様。」


「公爵様などと他人行儀な。お義父様、お義母様、お義兄様、私のことはどうぞ、ユーリウスとお呼び捨てください」


無茶言うな!




なぜかハイになってるユーリを我が家で一番肝の据わった母さんに任せて、僕は父さん、タピオ兄さんと一緒に納屋の増築場所を確認しに外へ出た。
だから知らなかったんだ。そこで母さんの口からユーリに何が語られたか、そして二人の間でどんな約束がなされたか、なんて…。



「ごめんなさいね。あの子ったら公爵さまをほかりっぱなしで…まったくもう。」

「構わない。アッシュの居ないところであなたと話してみたかったのでね」

「私とですか?農夫の女房に一体何の話が…」

「…アッシュのおかげで私は人間らしい心も生活も取り戻すことが出来た…。だが今ならわかる。まだほんの子供のアッシュを私はあなた方から奪った。それがどれほどひどい事か。そして、申し訳ないがこれからも返すことは出来ない。あの品物の数々は、感謝と、…大部分は詫びの印だ。アッシュは私がもらい受ける。ここへはそれを伝えに来た。」

「そうですか。ええまぁ、それは構いませんよ。そんなことだろうと思ってましたし」

「いいのですか?ユ-リウス様のおっしゃる意味は…」

「あの子がリッターホルムに行くと、そう家族の前でハッキリ告げたときに、ついにこの日が来たかと思ったんですよ。思ったよりも早くて、少しばかり戸惑いましたけどね。」

「…彼がいつか家を出ると、あの頃からそうお考えだったと言う事ですか?」

「そうだねぇ…、あの子と一緒に居るというなら聞いておいてもらいましょうかね。あの子の出生にまつわる秘密を…」




「アッシュの秘密…?」




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