チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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123 彼といにしえの…②

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「アッシュ殿、ここに着いてから我らも多少話し合ったのだよ。手間は省くに越したことは無いのでな」
「なにか分かりました?」

「それがこれと言って…現状分かる唯一の共通点は、そのほとんどが秋から冬にかけて発症し、春を待たずに亡くなっていると言うことくらいか。だが病の大半は冬場に流行る。そこから読み取れることなど…うぅむ、解らぬ!」

「う~ん、一応考慮に入れとこうかな」


初めから一筋縄でいくとは思ってないけどね…、そもそもそんな分かり易い共通項なら誰も苦労などするものか。


「あの…イングウェイ様、元ペンハイム侯爵家の使用人に話を聞くことは出来ましたか?」
「ええなんとか。ですが芳しくは…。そもそも断絶した6家に関しては古い話ですからね、生きている者も少ないのですよ。」


焦れたノールさんは直接質問することにしたようだ。
とは言えイングウェイさんの言うように遡れるのは限度がある。所詮はこの数世代くらいのことしか分からないのだ。この聖王国の成り立ち、あの呪術師との闘いから今が何十世代と考えたら何もわからないに等しい…。無茶な話し合いなのは百も承知だ。



「では直近のユングリング侯爵にお伺いしますね。発症の直前訊ねてきた見知らぬ者、特に裏口から出入りする初見の行商などはおりませんでしたか?新しく買い入れた小さな雑具などはいかがですか?消耗品でもかまわないのですよ?」

「うぅむ…。使用人にも全員確認したが…新たに買い入れたものも見知らぬ行商も訪れてはおらぬ。誰も心当たりはこれと言って無いと言っておる。お前もそうであろう?トールヴァルドよ」
「ええ父上。倒れる前も普段と特に変わりない日々を送っておりました。午前はいつもの従士と共ににいつもの鍛錬を行い、午後はやはりいつもの差配人からいつもと同じに報告や要望を聞き…そんな代わり映えの無いいつも通りの日常を。」


ふむふむ。従士…、従士ねぇ…。領地かいしゃに忠誠を誓うエリートサラリーマンってとこか。しかしわりと参考になるな。うちは差配人すら屋敷には来ないからなぁ。でも要望ったってどの程度まで?何でもって訳にはいかないよね?


「報告や要望って例えばどんな?」

「要望は…、そうだな。あの時は…、その年の収穫に対する農具の不足や肥料などの補充、揉め事の仲裁などだったか。報告は…、確かあの日はユールボックビアを納めに来たのだ。」

「ユールボックビア?」
「ユールに飲む祝いのビールだ」

「ユール…冬至のお祝いのことだっけ?マァの村にはルーチァのお祭りがあるからユールはよく知らないんだよね。」

「アッシュくん、君が知らないのも無理はないよ。リッターホルムでは事情が事情だったし寒い地っていうのもあって、領都で細々としか行われていなかったもの。南の領土では一般的にユールは領全体をあげて盛大に行われるんだよ。11月の新月から12月の新月迄、約一か月間ずっとユールボックと呼ばれるビールを飲んでお祝いするんだ。」


え?すごい…。なにその肝臓の強さを確かめ合う祭り…。年の暮れに死屍累々って事?サイテーだな…


「ノールが言うよう一年で最も盛大な祝いでね、領民もみなその日を心待ちにしているんだ。そのためユールボックビアの醸造は夏ごろから順次始められる。何しろ相当な量が必要なのでね。そして初醸造品は出来栄えの確認のために領主邸に献納される。父も初醸造品を味わうのを毎年とても楽しみにしておいでで…」

「ヘンリック待つのだ。確か祖父もあの前日ユールボックビアを手にしておったような…。父と今年のビールは色が良い、と笑い合っておったような記憶が……、そうだ!子供心にいつか自分もと思ったのだ!翌日倒れられた祖父の姿がそれはそれは衝撃で…。ビールなど水代わりに口にするもの故、ユールボックビアとて特に気にも留めなかったが…まさか…」

「なんと!それは本当か?」


さざ波のようにざわめきが起こる…


「秋から冬にかけて発症…。…時期的には符合する。まさか…」
「いいや、焦るでない。ユールボックの献納はその時期であればどの領でも見られる当たり前の光景。断定するにはもっと確証が欲しい。他にはおらぬか?」

「…分からぬ。が、10年前父が倒れた時…、言われてみれば確かにその時分差配人がビールを持って来ておった気がするな…。」


思わぬ展開だ。冬至を祝うユールボックビア。その初出しが呪いの引き金トリガーだって?


「…ちょっと待って。ヘンリック手伝って!」


マナーにうるさいノールさんがヘンリックさんの腕を掴み思わず小走りに部屋を出ていく。どうしたんだろう…?
だけどその間も止まる事無いディスカッション。


「では差配人が…?」
「差配人は関係ないだろう!」
「皆古くから土地に住む馴染みの者だぞ」
「関係あるとしたらビールではないか?」
「だがビールは領地中に振舞われているであろうが!」

「ビールは呪いを振りまかないってば!さっき結論は出たじゃないか。呪いは絵画を通して転移するって!」


 大混乱だ。





「お待たせ!やっぱりそうだった。分かったよ!」


息を切らしながらも少し興奮気味のノールさんは、ヘンリックさんと手分けして一枚の絵画を持ち込んだ。

「何が分かったって?」

ヘンリックさんと頷き合うノールさん。その顔はきゅっと引き締められた。


「よく見て、この絵画の壷。目を凝らしてみるとうっすらと模様があるでしょう?」
「ああ、あるね。木?の模様みたいな…」

「今ヘンリックとも確認したんだよ。あの壁画の壷にもかすかに模様が描かれてた。これ…、多分〝命の木”じゃないかなって…、父上どう思われますか?」
「ふむ…、根…幹…これは…葉に何か文字が…小さすぎて読めぬが…」

「ちょ、誰かエスター呼んできて!」


命の木…前世の世界、様々な国の宗教話に形を変え名前を変え、その持つ意味さえ変えてことごとく登場する生命の樹。

だけどここでノールさんがいう命の木とはこの聖王国のシンボルマークの事。描かれるのは2本の木。一つは冬の木。一つは春の木。
冬になれば生命力を失い、春になれば若葉が芽吹く、そんな植物の生活環を図形化したのがこの国のシンボルマーク。
ん?生命力を失い…?

「ノールさん、もしかして…」
「そうだよ。冬の木が示すのは〝冬になれば生命は枯れる”って事だよ。じゃぁ冬の訪れの合図は何?」

「冬至…」


なんてことだ…

「その冬至の準備がユールボックビア。そしてその意味は命を枯らす準備…」




僕の呆然とした声だけが響く広い室内…。その場にいる全員が今指ひとつ動かせないでいる…。



当初は壷でダイレクトに。その後は絵画に描かれた壷を通じて。そのトリガーとなるのがその年のユールボックビアの献納。
じゃぁあの壷の中身はユールボックビア…


「恐らくだが、その年、一番早く献納を受けた領地の当主か嫡男が…」
「ではユールの祝いを止めると言うか。領民は納得すまい!」
「け、献納だけを止めると言うのは…」

「一時しのぎじゃ意味ないんだってば!呪いは封印するんじゃない!根絶するんだ!」




収拾がつかない中、ようやくエスターが姿を現す。
待ってました!真打登場だ!




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