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127 彼の叡智な彼
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宮殿の後宮にある王太子殿下の私室から、なにやら不穏な気配が漂うある冬晴れの日…。
この私、王宮にて王族方の講師を務めるアンテロは、ともに殿下をお教えするイルマリ男爵と二人、扉の前で待機していた。その部屋から漏れ聞こえる声にじっと耳をそばだてながら…。
…知識の神であると陛下が信じて疑わない…、公爵夫人アッシュ様の博学な言葉の数々。確かに興味深い。だがしかし!
よもや部屋の中であのような状態になっていようとは…
イルマリ先生とアンテロ先生に無理を言って今日はケネスの冬期講習。
今、王子の部屋には【目指せ賢王!】【国民の幸福度50%アップ!】この紙が所狭しと貼られている。
目標を明確にすることは大切だ。僕はそんなの貼ったこと無いけどね。
「王が絶対的な力を行使することを?はい!何!」
「絶対王政…」
「じゃぁ王様を失くして国民みんなで話し合って決めていくことは?」
「き、共和制…?」
「はい、ここまで覚えたね。だからって今いきなりこの国を共和制にして上手くいくと思う?」
「無理だな。…そんなの貴族や豪商たち準貴族が納得しないだろう。それに国を引っ張っていけるだけの頭脳を持った平民なんかおらぬ…」
平民への教育がほとんどすすめられていない聖王国。読み書きすら出来ない者も多いと言った惨状だ。余計な知恵をつけないように、これは代々続くあえての方策だ。過去の王家から引き継がれるくだらないポリシー。まさに愚の骨頂!
そこへいくとマァの村では僕の手による自作の教科書を使い、小学校レベル程度は読み書き計算まで余裕で仕込んである。リッターホルムの領主邸でも同じようにして地道に仕込んできた。僕とノールさんの協力体制により着々と教育は進んでいる。これらは今後、領全体へと拡大する予定だ。使用人や領民の教育を施すことは結果としてユーリに返って来ると知っている。だから僕は手を抜いたりなんかしない。どこかのバカな王様と違って。
だとして彼ら平民にいきなり政治を論じたり出来るか?当然無理だ。彼らの大半は従う方が楽だと分かってるし、面倒なことは全部領主様が、そして国王がやってくれると信じて疑わない。
だからこそ現実的にはすぐ民主主義ってわけにはいかないのだ。
「聖王は〝洗脳”によって心酔させ、そのうえ王子の〝制約”で逆らえないよう民心を縛り付けた。だけど見なよ。こうして全てが白日の下に晒されてスキルが解ければ、貴族も平民もみんな不平と不満で一杯だ。当然だよ、この国には悪法ばかりだ。税率と言い…。このままのやり方で民衆が追い詰められたらどうなると思う?」
「税を下げろと暴動が起きる…」
「窮鼠猫を噛むって言ってね」
「これは他国の例ですが…下手をすれば革命が起きます。殿下、革命下において暴君は罪人となります。断頭台行きです。」
「やっ、やめろ!脅すのは…」
「脅しじゃありませんよ。そうならないように正しき王になりましょう!と言っているのです。大公閣下が代わりを務めてくださっている間が好機なのです。そしてそれはいつまでも、とはいかないのですよ?お分かりですか?それなのに王宮講師の方々から逃げ回るなどと…、嘆かわしい…。立派な王を目指すと私におっしゃったじゃありませんか!このままじゃこれですよ!!」クイッ
ノールさんは御冠だ。相変わらず不真面目なケネスに心底あきれ果てているのだ。
だからと言って、首チョンパアクションは止めてあげて…
「わかった…、真面目に勉強するからこれを解け!前から思っていたが…お前らはいちいち縛り付けないと気が済まないのか!」
「まぁ…なんかこうするのがしっくりくるって言うか…」
「いちいち逃げ出さないよう見張るより確実ですので。」
すでにこの体勢じゃないと落ち着かない。それくらいケネスには蔓薔薇が似合っている。この縛り上げられた状態でも華麗に見えるのはさすが王族。ちょっと感心しちゃうな。
「さぁ、ごちゃごちゃ言ってないで次行くよ!時間は有限なんだ!今日中に立憲君主制まで完全理解してもらうんだから!」
「殿下、お間違えになったらこの、アッシュ君特製サルミアッキを一粒づつを召し上がっていただきます。いいですね」
「な、なんだそれは…嫌な予感がする…、よせっ!近づけるな!止めろ!うわぁぁぁぁ!」
悲痛な殿下の叫び声が聞こえてくるが…、これもまた試練。殿下の為なればこそあえて私は耳を閉ざそう。
しかし立憲君主制…。その言葉は私とイルマリ、両名の頭に残る事となった。
蛇足だが、後ほど説明を受けたところ、法によって王の暴走を抑えた王政だとの事であった。なるほど。殿下を導く先はそこであったか。
大公閣下はご高齢だ。その治世はそうそう長くはあるまい。
ならば我らも心を強く持ちそれに倣わねばならぬ。新しき時代、新しき聖王国の為に。
コンコン
「取り込み中に恐れ入ります。あのアッシュ様、姫殿下の部屋に大司教が来訪中にございます。もしよければこの後少しお話したいとそう申されておりますがいかがいたしましょう?と、ところでこの状況は…」
「大司教っ!会いたいと思ってたところですっ!ありがとうイルマリ先生!こ、これはその…これは気にしないでっ!あの、いますぐ伺うって伝えていただけますか?それからユーリにも同じことを伝えてください。ユーリってば少しでも僕を見失うとすぐご機嫌斜めになるんだから…」
「はっ!束縛する男は嫌われると言ってやれ!」
「どこかの王子は緊縛されてるけどね」
大司教に会うのは今回の目的の一つでもある。後ろで聞こえる文句なんか問題にもならない!この場にはアダマンタイト級鬼教師のノールさんが居る。相棒!後は任せたよっ!
この私、王宮にて王族方の講師を務めるアンテロは、ともに殿下をお教えするイルマリ男爵と二人、扉の前で待機していた。その部屋から漏れ聞こえる声にじっと耳をそばだてながら…。
…知識の神であると陛下が信じて疑わない…、公爵夫人アッシュ様の博学な言葉の数々。確かに興味深い。だがしかし!
よもや部屋の中であのような状態になっていようとは…
イルマリ先生とアンテロ先生に無理を言って今日はケネスの冬期講習。
今、王子の部屋には【目指せ賢王!】【国民の幸福度50%アップ!】この紙が所狭しと貼られている。
目標を明確にすることは大切だ。僕はそんなの貼ったこと無いけどね。
「王が絶対的な力を行使することを?はい!何!」
「絶対王政…」
「じゃぁ王様を失くして国民みんなで話し合って決めていくことは?」
「き、共和制…?」
「はい、ここまで覚えたね。だからって今いきなりこの国を共和制にして上手くいくと思う?」
「無理だな。…そんなの貴族や豪商たち準貴族が納得しないだろう。それに国を引っ張っていけるだけの頭脳を持った平民なんかおらぬ…」
平民への教育がほとんどすすめられていない聖王国。読み書きすら出来ない者も多いと言った惨状だ。余計な知恵をつけないように、これは代々続くあえての方策だ。過去の王家から引き継がれるくだらないポリシー。まさに愚の骨頂!
そこへいくとマァの村では僕の手による自作の教科書を使い、小学校レベル程度は読み書き計算まで余裕で仕込んである。リッターホルムの領主邸でも同じようにして地道に仕込んできた。僕とノールさんの協力体制により着々と教育は進んでいる。これらは今後、領全体へと拡大する予定だ。使用人や領民の教育を施すことは結果としてユーリに返って来ると知っている。だから僕は手を抜いたりなんかしない。どこかのバカな王様と違って。
だとして彼ら平民にいきなり政治を論じたり出来るか?当然無理だ。彼らの大半は従う方が楽だと分かってるし、面倒なことは全部領主様が、そして国王がやってくれると信じて疑わない。
だからこそ現実的にはすぐ民主主義ってわけにはいかないのだ。
「聖王は〝洗脳”によって心酔させ、そのうえ王子の〝制約”で逆らえないよう民心を縛り付けた。だけど見なよ。こうして全てが白日の下に晒されてスキルが解ければ、貴族も平民もみんな不平と不満で一杯だ。当然だよ、この国には悪法ばかりだ。税率と言い…。このままのやり方で民衆が追い詰められたらどうなると思う?」
「税を下げろと暴動が起きる…」
「窮鼠猫を噛むって言ってね」
「これは他国の例ですが…下手をすれば革命が起きます。殿下、革命下において暴君は罪人となります。断頭台行きです。」
「やっ、やめろ!脅すのは…」
「脅しじゃありませんよ。そうならないように正しき王になりましょう!と言っているのです。大公閣下が代わりを務めてくださっている間が好機なのです。そしてそれはいつまでも、とはいかないのですよ?お分かりですか?それなのに王宮講師の方々から逃げ回るなどと…、嘆かわしい…。立派な王を目指すと私におっしゃったじゃありませんか!このままじゃこれですよ!!」クイッ
ノールさんは御冠だ。相変わらず不真面目なケネスに心底あきれ果てているのだ。
だからと言って、首チョンパアクションは止めてあげて…
「わかった…、真面目に勉強するからこれを解け!前から思っていたが…お前らはいちいち縛り付けないと気が済まないのか!」
「まぁ…なんかこうするのがしっくりくるって言うか…」
「いちいち逃げ出さないよう見張るより確実ですので。」
すでにこの体勢じゃないと落ち着かない。それくらいケネスには蔓薔薇が似合っている。この縛り上げられた状態でも華麗に見えるのはさすが王族。ちょっと感心しちゃうな。
「さぁ、ごちゃごちゃ言ってないで次行くよ!時間は有限なんだ!今日中に立憲君主制まで完全理解してもらうんだから!」
「殿下、お間違えになったらこの、アッシュ君特製サルミアッキを一粒づつを召し上がっていただきます。いいですね」
「な、なんだそれは…嫌な予感がする…、よせっ!近づけるな!止めろ!うわぁぁぁぁ!」
悲痛な殿下の叫び声が聞こえてくるが…、これもまた試練。殿下の為なればこそあえて私は耳を閉ざそう。
しかし立憲君主制…。その言葉は私とイルマリ、両名の頭に残る事となった。
蛇足だが、後ほど説明を受けたところ、法によって王の暴走を抑えた王政だとの事であった。なるほど。殿下を導く先はそこであったか。
大公閣下はご高齢だ。その治世はそうそう長くはあるまい。
ならば我らも心を強く持ちそれに倣わねばならぬ。新しき時代、新しき聖王国の為に。
コンコン
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「大司教っ!会いたいと思ってたところですっ!ありがとうイルマリ先生!こ、これはその…これは気にしないでっ!あの、いますぐ伺うって伝えていただけますか?それからユーリにも同じことを伝えてください。ユーリってば少しでも僕を見失うとすぐご機嫌斜めになるんだから…」
「はっ!束縛する男は嫌われると言ってやれ!」
「どこかの王子は緊縛されてるけどね」
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