チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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130 兄弟模様

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「おっ、いたいたユーリウス!良いこと教えてやろう。」

「殿下…」


今回の滞在から妙に馴れ馴れしくなった王太子であるケネス殿下。系図上では遠縁にあたる。アッシュが何やら調べている呪いの根幹、この国の始まり。その始まりの一族を率いた長の3人の子供が私と殿下と姫殿下の祖先だとか言っていたが…不愉快極まりない。

実のところ私は以前よりこの男が好きではなかった。

いつも違う女性を侍らせて、不真面目で不道徳で、そのうえ王家にありながら治世に無関心で、聖王に言われるがまま〝制約”スキルを展開するときでさえ、その表情を見れば何も考えていないのが見て取れる、そんな愚かな王太子。


そのケネスは何が気に入らないのか、大叔父上と共に参内すればいちいち私の元までやって来てはどうでもいい嫌味を並べ立てた。
忌々しそうに道を開け私を避ける貴族たちと違い、自ら近づき大叔父上まで巻き込んでどうでもいい嫌がらせをしていく迷惑かつ面倒な男。あの頃どれほど放っておいてほしいと思ったことか…。
だが大叔父上は窘めることもなさらなかった。今にして思えば相手にもしていなかったと言う事だろう。

その後いろいろあったわけだが、気が付いたらいつの間にかアッシュはケネス殿下と親しく話す仲に…。アッシュ…何故なんだ!君の寛大さには恐れ入るよ!

先に婚姻を済ませておいて本当に良かった…。この国において不義密通は死罪もあり得る重罪。大叔父上が大鉈を振るう今、たとえ王族であろうと無罪とはいかないだろう…。

そのケネス殿下が私に何の用だというんだ!


「王都の郊外にある水路にかかる橋を知っているか?それからあの橋の上で恋人同士がキスをすると永遠が約束されるという言い伝えを…」

「 ‼ 」

「そしてその橋の欄干に南京錠を掛け、その鍵を水路に投げ込むのだ。愛の儀式として。婚姻したからさして興味はないか?いいや、お前はそんな奴じゃない。どうだ、行きたいだろう。」

「 … 」

「だがその橋はもうすぐ修繕のため一時的に閉鎖される。行くのなら今しかない!」
「そっ…!」

「アッシュを誘って明日にでも行ってはどうだ。善は急げだ!屋台なども出てにぎやかだぞ。あいつは喜ぶんじゃないか?なにしろ田舎者だからな。…それから行くなら…ノールも連れていけ…」


なるほどそういう事か。講義をさぼりたいのだな。なにしろこの1週間。アッシュとノールはつきっきりで、文字通り、本当に椅子に括り付けて殿下に政治を学ばせていた。
時折聞こえる殿下の叫び声に今では誰もその周辺には近寄らなくなったとか…。私も一度覗いたが…、様々な心配は杞憂に終わった。決して本人には言わないが、ノールに𠮟責される殿下に同情したのは否めない。

…いいだろう。


「物言いは気に入らないがその案には乗ってやろう。」








「もう!ユーリウス様まで巻き込んで…殿下ったら。」

「まぁまぁノール。君にも気晴らしにちょうどいいだろう?何しろ殿下の授業と自分の講義で全く休暇がないじゃないか。」
「そうだけど…」

「アッシュ君も言っていたよ。切り替えは大事だってね。せっかくなんだ、楽しもうじゃないか」


サボり魔の殿下がすすめる王都観光。意外にもユーリウス様はその提案をお受けになられた。
今までなら王都へ来ても決して大公邸から出ることなど…ましてや観光などなさらなかったのに。なんという変化だろう。婚姻されてからより一層外に目を向けるようになっておられる。これが愛の力…。愛とはこれほどまでに人を強くするのか…

7歳まで王都で過ごしたとはいえユーリウス様は公爵家の王都邸、その敷地のさらに離れから決して出ることはなさらなかったという。

つまりこれはユーリウス様にとっても初めての王都観光。アッシュ君の手を取り浮足立っておられる。ふふ。微笑ましい。


「アレクシ。お前も好きに見てまわるがいい。ノール、アレクシを頼む」

「いえ、私はユーリウス様のお側に」
「今からゴンドラに乗るんだよ。ユーリがどうしても乗りたいって言うから。くるりと一周してくるからゆっくり見ておいでよ」


水路を巡る小さなゴンドラ。恋人同士の定番中の定番…、ユーリウス様ってば意外と浪漫チック…



「お言葉に甘えていこうかアレクシ。一周だけでも一刻はかかるんだよ、あのゴンドラは」

「仕方ない…、じゃぁ屋台でも見に行くとしよう」


でも…、こうして歩くのも悪くないな。ミルウィ橋の市場。たくさんの屋台が立ち並んで…、父上に手を引かれてガラクタの骨董を見た事、そんな子供の頃を思い出す…。


「あっ、アレクシ!あれ!羊の丸焼きだよ。行こう!」

「あ、ああ。ははは、ノール、今日は随分はしゃいでるんだな。でもそうだな。ここは心が躍る」

「ふふ、そうでしょ。でもなぜ今日はこんなに人が…、あっ、修繕の為の閉鎖!だからこんなに集まって…」

「おや?…ノール、あれ。ロビン君じゃないかい?」
「えっ?本当だ。ロビ、…あれは…」

ロビンの視線の先、そこには母親を連れだった一人のご令嬢が…ロ、ロビンってば…。そういうお年頃なんだね…。
なんだか兄として誇らしいような、手が離れて寂しいような、はたまた先を越されて悔しいような、そんな気持ちを味わいながら後ろから小さな声をかけた。

「兄さん!珍しい場所でお会いしますね。アレクシ様もご一緒と言うことはユーリウス様とアッシュさんも…」
「ああ。今はゴンドラで遊覧中だ。」

「素敵ですね。そう言えば兄さん、今日いらした訳では無いのでしょう?うちには戻られないのですか?」
「王城で殿下の御教育に携わっていてね。時間が惜しいんだ」

「殿下の…。そうですか。そのような大役を…。信頼されているのですね。母上もきっとお喜びでしょう」


ロビンの口から母上の名を聞き、僕はふと考えた。
母とは前回の帰省時にも少し口論になってしまった。母には長子である僕を嫡男として家名を負わせるというお考えがどうしても捨てきれないのだ。
何度も何度も話しているのに…後継にふさわしいのはロビンであると。長子だから、ただそれだけで不適当な者に跡を継がすなど…、アッシュ君の言葉を借りるならならまさに愚の骨頂!

これは好機かもしれない…。

少しリッターホルム式に毒されている気もするが…、穏便に納得していただくのを待っていては機を逃しかねない…。


「ロビン、では母上に伝えてくれるかい。兄は平民の教育に従事し知識水準を高めるよう殿下、そして公爵閣下、…えぇと、それから直に国王となられる大公からも、き、教育主管の大任を仰せつかったと。その為の大きな教育施設をこれからリッターホルムに…作る予定で、…その…と、特別な位を賜るためショーグレンの名は負えません、と。」

「⁉」

「そうなのですね…!す、凄いことです兄さん!」
「ロビン、お前にはショーグレンを背負ってもらわねばならなくなるが…、覚悟は良いね」

「もちろんですとも兄さん。王族方からの信頼篤き兄さんの名を汚す事無いよう、必ずやショーグレンはこのロビンが守って見せましょう!」





ロビンと別れ橋の袂へと戻る道すがら、アレクシが笑いながら問いかけてきた。分かってるくせに…


「いつの間にそんな大層な任を仰せつかったんだい?」





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