チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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175 彼の苦悩

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とにかくこのまま大人しく言いなりになる気は毛頭ない。


「なにが選べだ!ふざけんな!」


どっちを選んだって結局この国を滅亡させるのは既定路線だ。その結末に向かう選択肢しか提示してないくせによく言うよ!

大公を選んで僕を失えば間違いなくユーリは病む。それはもう、毒を振り撒き荒れ狂うユーリがありありと目に浮かぶ。
かと言って僕を選べば…


ユーリにとって唯一の頼れる存在だった大公。両親から得られぬ愛情を大叔父として祖父として父として与え続けたただ一人の肉親。大公という盾がなければ幼いユーリの傷はもっと深く刻まれただろう。

その大公をよりにもよって自分の毒で殺めるようなことがあればユーリは…

その展開ならWEB小説で何度も見た!
ユーリを深淵へと堕としたのはいつだって自分の毒で誰かの命を奪った事実。
ましてやその相手が大公だなんて、そんな、そんな事…それだけは絶対にあってはならない事だ!


これが八方ふさがりと言うやつか…参ったな…。
このお茶会のご招待は僕を生かしては帰さない…。

ああ…前世の記録は更新できなかったか、身長も、年齢も…。


………


バカ言うな!こんなとこで諦めて良いわけあるかっ!何が不死の魔女だ!こちとら転生農家の息子だっつーの!

かといって大公が王都に居る以上こちらは全てが後手に回る。それに対して僕の持つアドバンテージなんか小説を知っている事、それしかない。

…だが何よりもデカいアドバンテージだ!

頭の中のインデックスを僕は恐ろしい速さで探っていく。
何か…何かあるはずだ。今の僕を助ける何か…、どれだどれだどれだ…ああっ!時間がない!

「…そうかっ!あれだ!」









「アッシュ君!あの手紙には何が書いてあったんだ!そして今渡した紙は何だ!」

「アレクシさん、あの手紙は茶会の招待状だ。来なきゃ大公を殺すって書かれてた、それもユーリの毒で…」

「ユーリウス様の毒で…」

「かと言って招待を受ければ僕が渡るのは南北を隔てる川じゃなく二度と戻れない三途の川だ」


2人になるとアレクシさんは手紙の内容を知りたがった。仕方ないので要点だけをかいつまんで説明する。
すると、そこから起こり得る惨状を正確に想像してアレクシさんは血の気を失っていく。


「渡した返事は時間稼ぎだ。アデリーナは恐らくそれを引き延ばしとわかってても飲むと思う。その間に今後の為の備えをしなくちゃ。アレクシさん、まだユーリには言わないで。タイミングは僕が決める」

「いや、だが…、…分かった。そうしよう。」





ここからは時間との戦いだ。一分一秒がどれほど貴重か。稼いだ時間は十分じゃない。
交通網も連絡網もないこの世界では何をするのも時間がかかる。急いで何をすべきか考えなくてはならない。

くそっ!アデリーナめ、やってくれたな!





自室へと戻ればそこにはすでにエスターが居た。
アレクシさんは真っ先にエスターへとレシーバーで連絡したらしい。


「それで?アデリーナはなんて?」
「それだけどね…、参ったよ、実はね」


「待って!はぁっ、はぁっ、アッシュ君!その話僕にも聞かせてくれるよね!」
「ノールさん!カレッジはいいの?授業は?」

「ランナルに頼んできたよ。それどころじゃないもの」





僕は手紙の内容と、そこから考えられる最悪の未来、ついでにアデリーナの大願とやらもこの際だから二人にはぶちまけておいた。
アデリーナは一族どころかこの国の滅亡を望んでいるのだと…。


「ユーリウス様の毒でこの国全てを腐食させる?それはまるで魔女の振り撒く疫病と同じじゃない!人が死に土地は汚染される…何も変わらないよ!」

「それより酷い…、ううん、それより酷い有り様にするためユーリを苦しめようとしてるんだ。」

「また蟲毒か。蠱毒、蠱毒、蟲毒!度し難い!」

「全ては自分自身が招いたことなのに!」

「きっとアデリーナは長く生き過ぎたんだ。歪んでしまったんだよ。元から歪んでただろうけどね、更に歪んで…、もうその性質は歪すぎて真っ黒な深淵になってしまった。とにかく僕はこの国を滅亡なんてさせたくない。それもユーリによって引き起こされるなんて…、あっちゃいけない!」



人であり人ならざる者
狭き世界のものを4人集めよ 
彼らは助言を与えるだろう
深淵には不死が寄り添う
望むものよ 不死を捕らえよ



エスターが小さく石板の文言を口にする。
この小説の全ての要約。物語はここから始まる。そうだ。この石板を手にした時から僕の物語は始まったんだ…。


「二人は僕の秘密を知りたがってたよね。聞いて。僕は本当に賢者じゃない。魔女の抗体として産まれてくる賢者なんかじゃないんだ。僕の生まれてきたことにもしも何か意味があるなら…、それはユーリの救済だ。」


そうだ。僕の生きがいだったWEB小説。文才の無い僕の投稿はいつだって少しも反映されなかった…毒公爵に関することを除いては。

でもそんな僕を投稿者たちは笑いもせず、「好きなものはしょうがない」って、僕の投稿ページに毒公爵のイラストまで差し込んでくれたんだ。

人間関係を少しばかり怠った僕がようやく見つけた仲間の居る場所。顔も見たこと無い仲間達だったけど僕にとっては世界の全てで…

そのWEB小説の世界に転生したと言うならその意味なんか一つしかない!


「ユーリを救ってこの世界を護る。それが僕がここに居る意味の全てだ。…ううん、本当はそうじゃなかった。僕はスローライフを楽しむただの農家の息子で…、けどフラグは立ってしまったから…ユーリを護る、その為にアデリーナを倒さなきゃならないなら…どれ程困難でもやり遂げてみせる!僕はユーリの濃紫の瞳を二度と曇らせたりなんかしない!!」



「アッシュ、つまり君はユーリ君を護りこの国を救う使命を持つ。そう言う事かい?」

「じゃぁ君を助ける使命の僕たちもその意志を共有しなくちゃね。ユーリウス様を護る。そしてこの国を救う…。ふぅ…信じられないな。大きな話になったね…、僕こそ普通の、ただの学籍を失った子爵家の息子だったのに…」

「それを言ったら僕なんか職にあぶれた文無しになる寸前だったよ。滅亡を待たず滅びるところだった」

「私も…、私も居場所を失い人生という迷路を彷徨うところでした。」


「「ヴェスト!」」
「ヴェストさん…」







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