チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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174 彼の知らないところで

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あれから拍子抜けするほど何事もなく静かに日々は過ぎていき、カレッジは秋の訪れを待つことも無く本格的な運営が開始された。

とは言え平民の学生と、貴族の学生、彼らはまだ別カリキュラムによる学力レベルの擦り合わせをしている真っ最中だ。
そうして秋からはなんとか同じ講堂で講義を受けられるようにと…、平民の彼ら、そして教授や講師の皆さん方にはいささか大変な夏ではあるが、明るい未来のためにぜひ乗り越えてもらいたい…。




そんな中今日はユーリと二人そろって偉い教授の歴史の授業を聴講に行く。
この教授は聖王の統治下、歴史書の改ざんを厭って干されていた頑固者だ。
負の面も包み隠さず伝えて欲しい、そう言うと二つ返事で着任を決めてくれたのだ。ありがたいことに。


「ユーリ、さっきの話面白かったね。」
「あの教授は前王が好きではないんだろうね。随分辛辣だった」

「我の強そうな教授だから王様の洗脳が弱かったんだよ。ブッケ教授と同じ。教授ってそう言う人多いから」
「ふふ、嫌いではないよ、ああいう人は。その前王は辺境で大人しくしているようだね」

「あれは蟄居というより優しい幽閉だもん。なにも出来ないよ」


そんなたわいもない話をしながら今僕とユーリは学食に居る。
初めて使う学食。僕ってばなんだかリア充みたいじゃない?そのうえ横に居るのがこんなにキレイなユーリだなんて…、こんなに幸せでいいんだろうか。幸せ過ぎて怖いっ!


「何笑ってるのユーリ?」
「君が嬉しそうだなと思ってね。もしかしてアッシュ、君は学術院に行きたかった?君には必要無いじゃないか。君は何でも知ってるだろう?」

「何でもは知らないよ。分かる事しか分からない。でも嬉しいのはユーリとこうしているからだよ。ねぇ、秋のユーリの誕生日なんだけどここで祝おうよ。」
「ここでかい?」

「秋と言ったら学祭しなくちゃ。学生みんなが各々催し物をして、それを僕とユーリ、一緒に見て回るんだよ。ねぇいいでしょ?わがまま言っても良いって言ったじゃない」
「ふふ、確かに言った。良いよ、君がそうしたいなら。」





そんなふうに過ごす平穏な日々は、ある日もたらされた一通の手紙によっていとも容易く打ち破られる。






「アッシュ様ですか?ペルクリット伯爵夫人よりお手紙を預かっております。」

「ペルクリット夫人…?」




アレクシさんは最近、荘園の巡回途中で学食に寄るのがお決まりだ。
そんなアレクシさんに同行して一緒にカレッジへと向かったある日、カレッジの正門付近で僕を待ち受けていたのは一目で庭師とわかるオドオドとした一人の男。

その男に不躾に呼び止められ何事かと思ったら…、予想外の展開だ!アデリーナから僕に手紙だって⁉

それを渡してきたのはペルクリット家の庭師。待てよ、この顔には見覚えがある。レセプションパーティーでトピアリーを整えていた臨時雇いだ!

やられたな…


「アッシュ君、これは…。すぐユーリウス様に報告を!」

「いえ、あ、あの、ふ、夫人はこの件は公爵閣下の耳に入れてはならないと仰いました。アッシュ様に目を通してもらい返事をもらったら急いで戻るようにと。」

「アレクシさん待って。一回目を通してみる…」




どうしよう…、嫌な予感しかしない…
深呼吸をして、心の準備もして、そうして開いた手紙に僕は絶句した…。




小さな子供、お前が賢者だと言うことはもう分かっているのよ。お前もわたくしが誰なのかをすでに看破しているのでしょう?
ならばもうこれ以上の隠し立てはお互い必要ないわね。
良いこと?わたくしには今度こそ成したい大願があるのです。今回ばかりはその邪魔をさせるつもりは微塵も無くてよ。

ユーリウスから今すぐ離れなさいな。

ユーリウス…、あれはわたくしの、いえ、わたくしの里の最高傑作、そろそろ返して下さらない?
そして賢者よ、あなたはすぐにでもわたくしのもとに来るというのはいかがかしら。
多くの因縁で結ばれたわたくしたちだとというのに親しくお話しした事は無かったわね。一度じっくり話してみたいと思っていたのよ。
ああそう言えば、オーケソン家での夜会で少しお話ししたかしら。あれは僅かな時間とは言え、とても刺激的で楽しいひと時でしたわ。


確かにわたくしに以前のような厄災をふりまく呪力は無い。けれども打てる手ならいくらでもあるのよ。
伊達に長生きはしていない。わたくしに心酔する捻じれた者などいつの時代にでも存在するわ。
賢いあなたならもうわかるでしょう?

そして今わたくしの手中には先の王、洗脳のスキルを持つ聖王が居る。あれは今だって十分有用なスキルなの。
そして彼の隠し持っていたユーリウスの忌まわしい小瓶、呪われた毒の小瓶がわたくしの手元にあることをご存知かしら。

大公閣下、いえ、今はヴェッティ王と呼ぶべきかしらね。彼の晩年を安寧なものしてあげたくはなくて?そして彼の手腕によって、ようやく平穏を手にしたこの国の民を、祝福したいとはお思いにならないかしら?

言っている意味は解るわね?
簡単な事よ。あなたが思うよりずっとわたくしの手は長く大きいの。その事をよく覚えておいて。

賢者たるあなたに決断までの時間など必要無いでしょう?
使いの男には折り返しすぐ戻るよう言い聞かせてあるわ。余計な小細工はあまり良い考えとは言えないのではないかしら。

あなたのすべきことは選択することだけ。
ユーリウスか、それともヴェッティ王、しいては彼が治めるこの国か。



美味しいお茶とお菓子を用意してお待ちしているわ。


ああ、評判のリッターホルム製の焼き菓子にはかなわないかも知れないわね。許して下さる?








おもわずぐしゃぐしゃに丸められる薔薇の香りを纏った手紙。

大公…

聖王…が、何だって?隠し持って…、ユーリの毒を?ユーリの毒を隠し持ってたっていうのか!
ならアデリーナはユーリの毒で大公を…ダメだ!それだけは絶対ダメだ!そんなことさせちゃいけない!


「アッシュ君…何が…」


あの愚王め!心を入れ替えたとか言ってろくなことしない。
ああ…一体どうすれば…。
考えろ、考えるんだ!僕は諦めの悪い男。簡単に言いなりになんかなったりしない!


「…返事を書いてくる。少しだけここで待って。」




渋る庭師をそこで待たせ、僕は正門を入ってすぐの守衛室へと飛び込んだ。理事長特権ってやつはこういう時便利だな。
僕に付いてこようとするアレクシさんには庭師の見張りを頼んでおく。
これ以上ここで、僕の聖地で、おかしな真似などされたくない。

ああ…、全部僕の失態だ…。カレッジに浮かれて警戒を怠った僕の失態…


ならこのツケは自分で払わなくてはならない。




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