チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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145 彼の行き先

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どこまでも続く滑落の跡…、軽傷では済まないだろう…助けに降りるべきなのだろうか?

何をバカな!甘い考えは捨てるんだ。彼は私を連れ去ろうとした罪人。もしも彼が無事ならまた私を捕まえようと追いかけてくるだろう…。そうして万が一捕まれば切羽詰まった彼は私をどうするかわからないのに…


逃げなければ!今のうちに少しでも遠くへ!

なんとかして下山しなければ…。耳に届くのはどこかから微かに流れるせせらぎの音…。そうだ、水は上流から下流へと流れる。沢伝いに沿って歩けばきっと平地に着く。それに水辺であればのどを潤すことも出来る…、ああ…陽のあるうちにドロドロになった身体を清めたいものだ…。


『いい?遭難時は頂上を目指すんだよ。大体みんな下に降りようとするんだけどそれ悪手だから。てっぺんまで行けば視界が広がって進むべき状況が分かるから。沢なんか目指したら危険だらけだから。それに沢の水なんかそのまま飲んだら寄生虫とか大変だから!こんなのクライマーなら常識だから!!』


「はっ!いけない忘れてた。もう少しで沢を探してしまうところだった…。アッシュさんはあれほど上を目指せと言っていたじゃないか…」


頂上を目指しながら日が暮れる前に安全な場所を確保する。アッシュさんは確かそう言った。そして安全な場所で体力を温存して助けを待てと。
常識だと言っていた。それは…彼の故郷では当たり前に行なわれている事だと?つまりすべて経験からの助言⁉ならば あんな小さなアッシュさんに出来た事なら歳は2つ下と言え彼より体格の良い私にも可能なはずだ!


「私の不在に気付けばいつかここにも必ず捜索が来るに違いない。アッシュさんは山の全てを掌握していた。よし!彼を信じて上に進もう。この布と麻袋は持っていくとしよう。私の救世主だ。救援のために目印は必要だろうか…。マツリカの花を…。いや、もしも御者が追いかけてきたら気付かれてしまう…。それより方角を…父上に頂いた懐中時計…良かった。壊れていない」


時計の短針を太陽に向ける。

『12時の文字と短針の真ん中が南にあたる。豆知識、覚えといて』



「もちろん覚えてますよアッシュさん。…でもなんて凄い予測行動だ。転ばぬ先の杖、アッシュさんは何度もそう言っていた…。あの時聞いた話が早くも役に立つなんて彼こそ尊敬すべきお方…あっ、そうだ!」


あの時教えてもらったもう一つの豆知識…私は手元に小石を集めた。







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ボーイたちも隊を組んで西南東の三方を無理のない範囲で捜索してもらう事になった。念には念をだ。一つとして見落としは許されない!

頭から引っ張り出したのは引退した元山岳警備隊長の手記。そこには事細かに捜索の流れが書かれている。
僕はその中から今この場で役に立つ部分だけをピックアップし、この場の全員に絶対厳守だとくどいくらい何度も繰り返す。

「いい?横に並んでローラー作戦だ。何か発見したら現場は保存して誰かを大声で呼ぶんだよ!遺留品等はむやみに触らないで。常に隣の人を意識をして単独行動にならないよう注意をしてね。絶対勝手に隊から離れないで!絶対だよ‼」

「「「「はい!」」」」

「アッシュ、私は君と…」
「聞かないよ!何も言わないで!ユーリとヘンリックさんはここで待ってて。人には立場っていうものがある。何を言われても二人を山には入れられない!僕は独りで北にいく!」

「アッシュ君、だが君は体格だって十分とは言えないのだよ?」
「小柄だからいい場合もある。特にこんな鬱蒼とした山ではね。それに僕は山歩きには自信がある。タピオ兄さんのスパルタは伊達じゃない。僕のスキルは山向きだし、おまけにここに居る誰より豊富な知識がある!登山の心得、山の天気、野生の獣の生息区域に、なんならブッシュクラフトで家だって作れる!この中で一番最適なのがこの僕だ!」

「アッシュ…」


険しい顔でユーリが僕を見据える…。だからと言って公爵閣下であるユーリを危険しかない山中に同行することは出来ない。絶対に!


「…お義母様が言った。あの子は言い出したら絶対聞かないと…。アッシュ、だからといって単独では行かせられない。わかるね?…ならばヴェストとアレクシを同行させよう。アレクシ、何かあればスキルを使って構わない。ロビンを、そしてアッシュを頼む。何があろうと必ず無事で戻すんだ!いいな」
「ええ必ず。」


アレクシさんのスキル。決して誰にも見せてはいけないと言われた鍵となるスキル。それを使って構わないだなんて…、ユーリの気持ち、それこそが僕の勇気となる!


「大丈夫!絶対見つけて全員元気で戻るから!行こう!アレクシさん、ヴェストさん!」





そうして歩く事かれこれ2時間。閉ざされた山中ではヴェストさんのスキルが冴えに冴える。木々の乱れや土のめくれなど、見つけたわずかな痕跡から、さらに僕の洞察力で進行方向を選択していく。

そしてその場所…、滑りやすい粘土質な土に残された大きな足跡。
この北側に分け入ったのはやはり間違いない。真新しい跡がそれを示している。


「大人一人分よりも深さがあります。恐らく担いでいるのでしょう。危険極まりない」
「こんな山中を担いで歩くだと…?馬鹿な…」
「それすら指示かもね。でも今それを言っても仕方ない。さぁ進むよ」


直接危害など加えなくてもその状況さえ用意すれば人を危険にさらすことは容易だ。
いままでも何かあるたびこうしてきたのだろう…。疑惑を自分へと向けさせぬよう自分自身のアリバイは抜け目なく確保しながら。

魔女め…


それにしてもヴェストさんには負けてられないな。僕はスキルを駆使し木々や草花を両脇へと移動させて獣道ならぬアッシュ道を作ってゆく。こうしておけば帰りはずいぶん楽になる。これもまた転ばぬ先の杖。

暫く進むと徐々に急峻さを増していくケモノ道、…道?見ただけでわかるかなりの傾斜、そこは様々な草木に覆われ、その草木さえ傾斜に耐えられず傾いている。滑りやすい地質と言い…危険な場所だ。

直感通り、その先にあったのは…見るも無残な滑落の跡…。



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