チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
176 / 277
連載

193 彼と途絶えた声

しおりを挟む
「アッシュ君が泉に…」
「あ、あ、アッシュ君…」

アレクシのスキルを通じ、一方的に届けられるアッシュと魔女の緊迫したやりとり。
水音を最後にアッシュの声は搔き消えた…


「一体どうなったんだ…アッシュはどうした…、まさか泉に…アレクシ!ヨルガオはどうだ!反応はないか ‼」

「その…」
「言え!」

「水音だけが…」


ザワリ…

気色ばむ私に、一瞬で総毛だつアレクシ達。だが湧き上がる感情を抑える事などどうして出来る!

アッシュが泉に沈んだ…、そんなことが…
あってはならない…、そんなことはあってはならないのだ!


「ユーリ君、こんな時に暴走するのは止めるんだ!大体あのアッシュがこんなにあっさり諦めるものか。彼はいつも自分で言うじゃないか。「僕はあきらめの悪い男だ」ってね。」


冷静なエスターの声すら私の心を逆なでする。


「エスター!ならば証明して見せろ!アッシュの無事を!」

「無茶言うね、全く…。証明…になるかどうか…。だがアッシュの最後の言葉は不自然だと思わないかい?」
「最後の言葉…?」


「『たとえ逆さづりにされても逃げてみせる。再会したら甘々のラムで乾杯…だったか、で、ユーリ君、約束したのかい君?甘々のラムで乾杯するって」

「い、いや…」

「アルコールを受け付けないアッシュが再会の乾杯をラム酒でするって?不自然極まりない。それに不自然ならもう一か所だ」
「それは何だ?」

「〝逆さづり”、あの状況下でその選択はないだろう。泉を前にした拷問なら他に最適がある」

「水攻め…」


確かにそうだ…。アッシュの言葉の不自然さ…、それすら見過ごすほど私は冷静さを欠いていたのか…
ならばこの言葉は私へのもの。エスターに指摘を受ける己がふがいない…


「エスター、こんな時に勿体付けないで!」

「急かさなくてもノール、君ならわかるはずだ。もっとも不自然な個所を逆さづりにするんだね。そうすれば答えは明白だろう。」

「甘々…まあまあ、ラム…むら、まあまあのむら…、マァの村!それだけじゃない!不自然なのはねじ込まれた〝妻”という強調…。妻…僕は妻…、待つ。僕は待つ!」

「よく出来ました。文字の守護者が合格点をあげよう」


ノールの言葉にアレクシ、そしてヴェストが詰めていた息を吐く…。安堵したのはこの私だ。


「エスター、〝マァの村で待つ”…、アッシュはそう言っているというのか?」
「恐らくね」

「だがその手段は?」


冷静になれば少しの安心と共に別の疑問が生まれだす。
あの状況下でどうやってアッシュはマァの村へ?


「…いや待て!そうだ…アッシュは言っていた。考えていることがあると…そして分かり次第教えるとも…。もしやあれが何かの手段…」

「ユーリウス様、アッシュ様は出発時タピオ様からの手紙を受け取っておいででした」

「マァの村…、タピオ君がアッシュになんらかの方法を示唆したと言う事か…」

「分かったらそのおかしなオーラを引っ込めてくれないかい。これじゃぁ君に近づけやしない」


私を責めるようなエスターの声色。まるで未熟者とたしなめられているようだ…。




「ならばヴェスト、今すぐマァの村に手紙を!」

「待ってくださいユーリウス様、アッシュ君はいつも手紙を警戒していました。王からの勅使はともかくこの屋敷と領外を往来する手紙、魔女は何らかの手段で閲覧しているのでしょう。少なくともアッシュくんを賢者と見立ててからは…」

「そうです。だからこそ殿下へのヨルガオも献上品として贈ったのです。出すのならば直接誰かに運ばせるほうが良いかと」

「アレクシ、お前はその誰かが狙われるとは思わないか」


いくら話し合いを重ねた所で安全の裏付けなどあるはずもなく、結局危険を承知でマァの村までの使いを引き受けたのは、家門の再興を願う従士であるイングウェイとアレクシ。
アレクシの不在により王都と連絡の手段を失うのは痛手だ。だが従士だけでマァの村への入村が出来るかどうか…。
平時ならいざ知らず、魔女が動き出したことを知ればその門は固く閉ざされるかもしれない…。

アレクシはあの村に知己を得ている。そしてアレクシが居れば…、アッシュの無事は即座に届けられる。

私にとって…それこそが何より重要なのだ。



「アレクシ、出発前に殿下へ連絡を。まだ奴らは森に居るだろうか。そして至急辺境に人を出すよう伝えよ」

「殿下、殿下、…駄目です。近くにいないようです…」
「では繋がるまで続けるのだ。聖王の身柄を確保させよ!」

「殿下に捕縛を指揮させるのですか !?」

「そうだ!聖王の行い…、それが何を引き起こしたのか。何を意味するのか。殿下が真実王太子足れば…」

「おのずと前王への処遇は厳しいものになるでしょう。それが最善です」

「父親に極刑を科す…、惨い…」


今となってはあの殿下に恨みはない。あれも前王に踏みつけられた哀れな王子。そうとも。思い返せば殿下だけはいつでも自ら私に近づいて声を掛けたのだ。
ふっ、くだらない難癖…、その程度のことだが…。

目も合わさず顔を歪めて後ずさる者たちを思えば、あの前王の統治する王宮にあって彼は唯一私を人として扱った…たとえそれがしつこい嫌がらせでも…。



「言うなノール!殿下はこの国を背負って立つ者。これは殿下への試金石となろう!」












あれからゆうに10分は経つ。例え呼吸の長い海士であってもここまではもつまい…、先ほど大きな泡が一つ吹き出し、そのまま湖面は静かになった…。水底に沈んだか…。
しかし賢者め!ようやく手に入れた毒を道連れに…とは。やってくれる…。だが…最大の障害だけは取り除けた。最悪の形ではあるが…。

これ以上は言っても詮無い事…。


「あらあら、とても残念。どうやら公爵夫人は泉で溺れてしまったようね。だから言ったのよ、こんな季節に水浴びなどおよしなさいと。ねぇあなた、あなたもわたくしの制止を聞いていたわね?」

「えっ?え、ええ!そうですとも!奥様があれほどお止めになったのに公爵夫人ときたら無理やり…」
「そうよそうよ!身勝手な方でしたもの。溺れ死んでも自業自得だわ!」

「あなた方、人の不幸にそんな口をきくのはおよしなさいな。さっ、おいたわしいけどわたくしたちにここで出来ることは何もないわね。そうだわ。気散じに辺境へでも出かけましょうか。そうと決まれば急ぐわよ」

「奥様、庭師などの下働きはどうします?私たちではとてもあの高さを助けることは…」
「どうにもならないでしょう。放っておきなさい」

「お、奥様!ですが!」

「それとも誰かあの木に登るというの?あなたたち、どうにかして自力で帰ってらっしゃいな。それが出来ないならば誰かが来るのをそこで待つのね。いい事、救助されてもわたくしの名前を出してはだめよ。あなたたちは野草でも茸でも何でもいいわ、何かを取りに忍び込んだ。聞かれたらそう答えなさい。」



この森は女性王族のための森。そうそう人は来ない。ましてや冬に入ろうかというこの季節、誰が泉になど来るものか…。
クク、飢えて死ぬのか…それとも寒さで死ぬのか…、いずれにしてもここまでね。

逃げ出せる知恵があるならもうしばらく使ってやろう。そうでないなら…、使い捨ての駒などいくらでも替えは居る…。




「さようなら賢者…、大いなる力を持ちながらあなたの末路はいつも哀れね。愚かな賢者…永遠にお別れよ。そう。もう復活は無い、貴方も…、そしてわたくしも…」







しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまいネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙にはAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。 校正も自力です(笑)

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。 本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました! 心よりお礼申し上げます。 ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。 よければお時間のある時にお楽しみくださいませ

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃がはじまる──! といいな!(笑) 本編完結済、ロデア大公立学園編、はじめました! 本編のあと、恋愛ルートやおまけのお話に進まずに、すぐロデア大公立学園編に続く感じです。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。