チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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196 彼は相まみえる

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どうやってユーリに連絡を取ろうか、ユーリからヨルガオに連絡は無いか、アデリーナをどうやって追い込もうか、そんなことを考えながら幾日かが過ぎた。

ああ…ユーリが心配してなきゃいいけど…。あの言葉には気づいてくれただろうか…
あーもうっ!外はどうなってるんだ!
閉ざされた村、それはこんな時少し不便だ。だけどリッターホルムではそろそろ初雪が降ろうかと言う頃、ようやくマァの村が動きを見せ始めた。



「おいタピオ!塀の外で騒ぎだ!加勢に行くぞ!」


兄さんを呼びに来たのは飲み仲間のオラ。村一番の腕自慢だ。


「ちょっとオラ!騒ぎって何?危ないことに兄さん連れてかないでよ!」

「塀向こうの村で誰かが賊に襲われてんだよ。その一人が公爵様のお付きじゃないかって今日の門番が言ってんだ」


この塀に囲まれた村では人の出入りにとても厳しい。こうして日替わりで誰か必ず門番となる。今ではその慣習がどこから来たものだか分かってるけど、子供の頃は随分物々しいなと思ったものだ。

その門番が言う公爵様のお付きって…まさかアレクシさん!?



「に、兄さん…」
「アッシュ、お前はここで待ってろ。来るんじゃないぞ、いいな!」

「気を付けてね、兄さん!」





…分かったとは言ってない。そう。来るなと言われて大人しくしている僕ではない。
だって戦う兄さんの姿が見たいじゃないか。とは言えぬけぬけと顔を出したあげくここに居ることを知られるなんて…、そこまで考えなしなんかじゃない。

僕には昔から使っているのぞき穴があるのだ。そののぞき穴はとても小さく、でも望遠鏡と同じ、苦労して作った拡大レンズがはめ込んである。いわゆるドアスコープだ。


「どれどれ…、ああっ!やっぱりアレクシさんだ!イングウェイさんも居る!剣さばき様になってるじゃん!」


イングウェイさんは元ペンハイム侯爵家が没落してからの入り婿、つまり平民出だけど、ケネスが来るたび護衛の騎士から毎回剣を習っていた。それに僕からも守ってよし攻めてよし『メダリストによるフェンシング入門』を図解入りで渡してある。

兄さんとオラの加勢に力を得たイングウェイさんはアレクシさんを守りながらも一人、また一人と賊を倒していく。
だけど兄さんだって負けてない!素手だって言うのに軽やかなフットワークで…剛腕スキルの拳を打ち込んでいく。

「いけっ兄さん!そこだ!やや内角を狙いえぐりこむようにして、打つべし!打つべし!打つべし!あ痛!!」
「何やってんの!来るなって言われてたでしょうが!全くもう!」


げんこつを落としたのは母さんだった…。痛いよ母さん…母さんに剛腕スキルなんかあったっけ…
でもせっかくだから少しだけ加勢を。えいっ!

小さく結んだ草は次々賊を転がして、その隙に兄さんとオラは賊を縛り上げていく。そして最後の一人を縛り上げたとき…、ようやく僕はアレクシさんと再会出来る事になったんだ。










ようやくアレクシから送られたのは心から待ち望んだアッシュの声。
いつも通りの明るい声にどれほど安堵した事か。人はたかが数日というだろう。だが私には一年にも二年にも感じられる長いものだったのだ…。


「ああ良かった、ユーリの声が聞きた過ぎて死ぬかと思った…」

「アッシュそれはこちらの台詞だ。あの日君と何も話せずただヨルガオから聞こえてくる声だけを聞いてどれほど血の気が引いた事か…」
「そうなの?むしろ気色ばんだって聞いたけど?」


アレクシめ。余計な事を…。


「まぁいいや。ところで森はどうなった?アデリーナはどうしてる?」

「折しも昨日王城から早馬が来た。君が吊るしていった伯爵家の下働きたちはすべて捕えてある。殿下は〝制約”を以て証言を得た。彼らは重要な証人だ。そして伯爵夫人は辺境へと向かったらしい。前王に会いに行ったのだろう」

「へぇ、王子が…。やるじゃん。」


こころなしかアッシュの声が嬉しそうだ…。非常時ゆえ表には出さないが…不快だな。覚えていろ殿下め…。


「考えたんだけど…、あの前王がたった一つしかない毒を、いくら僕を交換条件にされたからと言ってやすやす渡すと思う?いいや、そうは思わない。予備を持ってるね。アデリーナも多分そう考える。」


では夫人は辺境へ毒を奪いに行ったのか…
続けてアッシュは言う。どうにか先回りして身柄と毒を押さえて欲しいと。


「心配はいらない。夫人たちはケーニマルク侯爵領へ迂回していったが殿下は鎮魂の森を抜けて行った。ましてや彼女らは馬車、こちらは騎馬隊だ。どう考えてもこちらのほうが脚が速い。それに女らは殿下が賊を捕らえた事など知る由もない。だが念のため辺境伯には関所で足止めを願おう。」

「そうしたらもう一つ。アデリーナが王都を出たなら都合がいい。戻れないよう締め出して。」
「それはもちろんだ。すでに大叔父上は王都の関所に警吏を手配した」


アッシュの策はこうだ。夫人の進める方角を絞り込めば行動範囲を限定される。私達は彼女の足取りを把握している必要がある。
だが今からリッターホルムは大雪に見舞われ夫人は足止めを余儀なくされるだろう。厳寒の冬を迎えるリッターホルム。それは北の地で生まれた彼女自身が一番よく知ること。



「アデリーナは雪解けを待ってリッターホルムにやってくる…リッターホルムを崩壊の導入部とするために。そこはアデリーナの故郷だ。」

「どうやって入領する。ここの関所はどこよりも厳しいはずだ」

「だからアデリーナは冬の間に斥候を寄こす。偵察、監視、それに内部からの協力者を作るために」

「斥候…、それらを排除するのか」

「ユーリ…、斥候は排除するんじゃなくて利用するんだよ」

「どういうことだ」

「いつどんな時でも情報は命。ここで油断させるんだ!」









「腐食だと!毒素を撒けというのか!」


ヨルガオがビンビン震えるぐらい激しいユーリの声。
まぁそう言うよね。字面だけ見たら僕だってそう言う。けど人の言葉は最期まで遮らずに聴くものだ。僕はそう祖母にうるさく言われてきた。ユーリにも今度よーく言い聞かせておかなくちゃ。


「違うよユーリ。熟成のほう!いい?大公の発酵とユーリの腐食なんて人にとって有益か有害か、それだけの違いなんだよ。ユーリの進化した〝熟成”は〝発酵”も〝腐食”も全てその中に抱えた上位互換みたいなもん。土の熟成っていうのは土の中の枯れ木や枯れ葉を発酵させて堆肥にすることを言うんだ。その過程だけで言ったら腐食と同じ、アデリーナが熟成途中のそれを見たって違いなんか分かりっこない。ユーリは領地を熟成させてどこよりも良質な地を作るんだ!」

「アッシュ…、君が居ないのに?」
「え、あ、その…思い出したら出来るよ。その、いろいろと…って、馬鹿言ってないでこんな時に!」
 

ゴホン
隣でアレクシさんがひとつ咳払い。ほら~…


「領民はどうする…」
「ユーリ、ユーリには自慢の仲間がいるでしょ?僕が選りすぐった自慢の仲間が。」

「そうだな。彼らに聞こう」

「で、ここからが肝心なんだけど…」


WEB小説の終わりはリッターホルムが決戦の地だった。だけどこれは勇者の物語じゃない。僕の物語だ。
それなら決戦の地なんか決まってる。

ユーリを手に入れるのが僕かアデリーナか、雌雄を決するのは始まりの地、それは…


マァの村!







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