チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
180 / 277
連載

197 彼と王太子殿下

しおりを挟む
「父上…、こんなことになろうとは甚だ残念。なぜこのような真似を!」


権威にしがみつかんとする浅ましい父上の姿…。
実際がどうであれ、私はこの父を長い間恐れ敬って来たのだ、アッシュが王城へ訪れたあの日までは…。

父王の甘言に誤魔化され、私は一切の重要な政務から引き離されて過ごした。王太子でありながら、と、今なら思う。
が、あの時までは父の言葉を無条件に信じた…。

「王太子たるお前が頭を使う必要がどこにある。お前は指図するだけでよい、全て家臣に考えさせればよいのだ。それこそが王族たる振舞い。そしてお前はこのわしがより多くの尊敬を集められるようそのスキルを以て手助けするがいい。この国の安寧を願うのならばな」

そうして私は享楽だけを、そしてシグリットは清浄だけを見つめ続けたのだ。
だが私の恐れたこの王は…獣皮の王であったのだな…、見せかけだけの王…。



「ケネスよ分からぬのか!王位はこの高貴なる王の直系であるわしからお前へと引き継がれるものであると。ヴェッティなどに好きにされおって…。伯爵夫人は言ったのだ。あの女は呪いの根源、呪術師の末裔!死を司る邪術すら操るのだと!そして賢者の心臓さえあれば不死は約束される…。これでわしはシグリットを失うことは無いのだ!」

「そして何十年か先、不死者となったシグリットを残して逝くのですか?まさかそんなこと。父上、あなたはご自分も不死者となり治世を取り戻そうと、そうお思いなのですね。…よもや母上も⁉」

「ケネス…」

「あなたの支配する国に世継はもう必要ない。わたしはまたも都合よく搾取され、永遠の王太子として嘲笑されながら死んでいくのか…、そんなのはもうごめんだ!」

「ケネスよ馬鹿を申せ。お前のことは勿論良きように計らうとも。さあ、わしの眼を見るのだ。ケネスこちらを見ぬか!」

「父上…、私にはもう〝洗脳”は通用しない…、しないのですよ。私は真に恐怖すべき相手を知った。真に敬慕すべき王を知った。そして…真に模範とし私を先導する師を、友を得たのだ。父よ…何ひとつあなたには与えられぬものだ!!」

「こ、この道化ごときが偉そうに何を言う!ならばよい!お前はユーリウスと共にこの地に眠るがいい。姫と王妃はわしが連れて行く。どうせお前など初めから眼中になかったのだ!」


白日の下に晒される父の本心。やはりそうであったか…。今さら落胆などせぬが僅かな虚しさを感じるのは仕方なかろう…。
だがそんな震える私の手をそっと握りこむ者が居た。元王妃である。私の母だ。


「王…、シュノルド、わたくしは共に参りませんよ。そして…姫も決してそれは望まないでしょう。不死などと、なんという神への冒涜。あなたが真実ミーミル様に恭順し、己を顧みて過ごすのであればどのような苦難であれ付いて行こうと決めておりましたのに。それが王妃であったわたくしの最後の責務であると。お分かり無いのですか?呪術師の末裔であると言うことはシグリットを苦しめる者の末裔ということなのですよ?シュノルド!ああ…何という…」

「母上…私と共に参りましょう。ヴェッティは母上に良きよう取り計らってくれるでしょう」

「馬鹿を言うでないケネス‼王妃よ!わしと共に来るのだ!何故だ!何故分からぬ!ああ何故だ…」


「騎士団長、王を捕縛せよ!隠された毒を見つけ次第王都へと戻る!…丁重に扱ってやれ。その者はこの気の毒な女性の夫でもあるのだ。今はまだ…」










雪の舞う中、この冬教授の居住はこの関所の隣に設けられた小さな館となる。
アッシュからの頼みだと伝えれば教授は面白そうにかつ快くその依頼を引き受けてくださった。


「ここで入領者を見張れば良いのだな。私の剣、スヴァルトと共に。良い良い、ここで一本論文を書き上げるとしよう」

「ああ。父さんすまないね。だがこの山を越えれば父さんには好きなだけ研究に没頭する天国の様な毎日が待っている。それにだ。呪のまさしく渦中にいるのだと思えば少しは有意義だろう?頼んだよ。僕にはもう少しだけ取り組むべき事があるんだ」


教授への取成しをと同行をたのんだエスターだが、彼の取り組むべき事…、エスターにはアッシュから極秘の指示でもあるのだろうか…?



そしてその後半月の間に捕らえられた夫人の配下は呆れたことになんと5人にも及んだのだ。


「見境が無いな…。何を急ぐ」
「積雪が浅い内に入領を果たしたいのでありましょうな。おや…?」


何かに気付いたブッケ教授が振り返った方向を伺うと、そこに居たのは関所の役人に案内されたショーグレン子爵、ノールの父親その人であった。



「おお!イェルドではないか!よくぞ来た!」
「ブッケ教授。お久しぶりです。ここで見張りの真似事ですかな?ふふ、良く似合っておりますぞ」

「しかしあの女の手、思ったよりも伸びているな。雑魚ではあるが世に不満を持つ者ばかり見事なものだ。ヴェッティ王が世直しをされている最中とは言え、権威社会への積年の恨み、駒には事欠かぬか」
「そうでございますなぁ」

「お二方とも、関所はじき閉門の時間。続きはぜひ屋敷で。子爵、ノールも喜びましょう」


こうして親友同士は顔を合わせたのだが、まさかこの後あれほど驚く事になろうとは…。




「父さん、ああ…ご無事で良かった…。ところで王都の家は、母上やロビンは大丈夫でしょうか。ここからは手紙を出すのも躊躇われる状況で…」

「うむ。私の不在に際しコーネイン家のご子息が護衛騎士を寄こしてくれたのだ。安心しなさい」
「え…、ヘンリックが…」

「うむ。それでだ、アッシュ君とはいつ話せる?重大な話があるのだよ」


重大な話、それはアッシュが依頼したと言う勝利の剣に関する事なのだろう。

アッシュと私はいま朝昼夕と、時間を決め連絡を取り合っている。
周囲を気にしなければならなかった伯爵邸と違い憂いはないが…、思うように愛を囁き合えぬのは物足りぬものだ。
一日も早くこの腕にアッシュを抱きたい…。

ああ…、彼が恋しい…








「アッシュ君、伯爵家の祠には君の言う剣は残念ながらなかったのだ。そこにあったのはマゴロクと書かれたタガーによく似たどっしりとした剣。あれはあれで素晴らしい品だと思ったがね。そして本来の剣は領都の質屋に売り飛ばした記録があった」

「な、なんだってー!マゴロクだとっ!勇者の仕業か!プータローめ!」


夕の定期連絡で子爵から報告されたのはまさかの内容。孫六って…、そりゃ名品ではあるけど、それってあれだ。
WEB小説の投稿者の一人、無口な(ネットだって言うのに)文学さんが王都の鍛冶師を描写するときにどうしてもとねじ込んだ一品じゃないか。いや逸品だけど。

プ、プータロー…許すまじ…


「待ちなさい。君が言った白い宝飾の素晴らしい剣だが…、私に心当たりがある。」


僕の憤慨を抑えるようにかけられた子爵の言葉。心当たりだって?


「以前君に渡した剣があったろう?ほら、〝救世の剣”だ。」


子爵がずいぶん前、教授に奪われた魔剣の剣置きが淋しかろうとプレゼントしてくれた白い剣。そういえばたしかに白かったけど装飾なんて一個も、あれは飾り気のないシンプルな剣で…って、まさか!


「金銀、宝石ははぎとられたのかもしれん」

「くっそ勇者!でもいいや。あれなら地下道にある。」

「それからひとつ朗報だ」
「朗報…?」



「例のあの壷。呪いの基となったあの壷をようやく見つけのだよ」









しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。