チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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198 彼と厨房のおしどり

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剣を追った子爵がまさか始まりの壷を持ち帰ったとは、驚くべきことだ。
あれほど探しても見つからなかったその壷は、マァの村とナッツの故郷の間に位置する小さな男爵領、そこの古びた教会に保管されていたと言うのだ。


「あの古美術商はそこで病死したということでしたな。彼の持ち物は売り払われ教会に寄進されたが、例の壷だけは勘の良い神父が嫌な気を感じるからと教会で封じていたらしい…気休め程度の護符なのだがね」
「呪いは残っていなくとも何がしかの残滓があったのやもしれんな。病死というのも何かにあてられたか…」


「それにしても子爵は何故その領に?雪のちらつく中よもや北の地経由で来られるとは…、来訪はもう少し先になるかと思っていたのですが。」

「あの領には翼竜便があるのでね、早く参ったほうが良いかと思いましてな。それに私も一度乗ってみたかったのですよ。しかしやはりあれは冬に乗るものではございませぬな。綿入れを重ねて着たのだがそれでも凍えてしまいましたぞ」

「無茶をされる…」


そして私は教授、子爵とともに剣を取りに地下道へと向かう。
あの時アッシュが決して私を近づけなかった地下道。あの時すでに私はアッシュに護られていた…、その事実に心が綻ぶ。


子爵は例の壷を封じられた木箱のままこの地下道へと持参している。目を離したすきに屋敷で何かあってはならないからと、そう言ってあの場に置き去りにすることを躊躇ったのだ。
そこで教授はその壷を魔剣のあった場所へ封じることを思いつかれた。魔剣が置かれていた場所であれば問題なかろうとそう仰って。

そして目的の場所へと到着すると子爵は白い剣を剣置きから持ちあげ念のためその場から遠ざかっていった。
そして残ったのは呪力への耐性がある教授と既に呪われた私のみ。
そこに全てお見通しとでも言うように、アッシュからの呼びかけが聞こえてきた。


「ユーリ着いた?剣はどう?」
「剣は子爵が抱えて一足先に地上へ戻られたよ。今から例の壷を開封する。」


教授の持つ剣、スヴァルトで封を切り木箱からその壷を出したその時だ。そのスヴァルトが尋常じゃないほどの輝きを放ったのは。


「おおっ!どうしたスヴァルト!この壷に何かあるのか!いや!だが呪ではない!何なのだ…!」
「これは一体どうすれば…、教授、私に出来ることは…」

「あるよ!ユーリ!サーダさん呼んで!それで状態変化と状態分離の合わせ技で原材料に戻してみて!素材にまで戻せば何かわかるかも!」


ヨルガオから思いがけないアッシュの指示が飛ぶ。


「状態変化と状態分離の合わせ技だと?」
「そうだよ。ユーリよく料理食べながら素材当てるじゃん?あれの具現化バーション、名付けて〝状態復元”!」



そしてコーディーに迎えに行かせ一刻待ったその後、胡乱気な顔で連れて来られたサーダと後ろからは怯えながらもナッツが顔を出している。
そしてアッシュからの指示を簡単に説明するとサーダはいとも容易くその意図を理解した。










「〝状態変化”と〝状態分離”の複合…、完成品から食材とスパイスを当てるように…」

「アッシュ~、壷を一回バラバラにしそこから素材ごとに分ければいいの~?」
「ナッツ!そうそう。それで異物が混入してないか確認して。ああ…早く帰ってナッツのお菓子が食べたいよ。うちの母さんは何度言っても甘みをケチるから」



マァに着いてからすぐの連絡、僕の声を聞いたナッツはヨルガオの向こうで号泣した。
僕はどれほどサーダさんとナッツのお弁当に助けられたか、あれでどれだけ命拾いしたか、心からの感謝を二人に捧げた。
ナッツは震える声で…、でも少しだけ誇らしげに、「役に立って良かった…」そう言ったんだ。
あれ以来僕とナッツの友情はますます深まった気がする。いや、気のせいじゃないな、深まった!


「吞み込めた。まずは試しにナッツ、ポケットに入れた菓子を出せ。」
「はぁ~い」
「ふむ、『状態復元』」


「サーダさん、どう?」

「アッシュ、大丈夫だよ~。ちゃんと分かれてる。粉と砂糖とオリーブと~。あ、野菜の切れ端が混ざってた」
「そんな感じで壷にもなにか混ざってるかもよ?それよりナッツ、材料それだけ?卵は?」
「これは余った材料で焼いた僕のおやつだから~」

「アッシュ、ナッツ、無駄話は後だ。サーダ、イメージは掴めたな。では本番だ」


無駄話…一刀両断だな。だけどヨルガオの向こうではサーダさんのスキルがすでに展開されている。


「何種類もの茶色い土と…、なんだこれは?黒い土の中にあるのはどす黒く乾いた小さな塊…」

「これは…なにかの心臓だな…。豚の心臓に似ている」
「し、シェフ…、ねえ、だ、大丈夫なの?それ…」

「ナッツ!し、心臓って…心臓って…、そんなの北の賢者の心臓しか無いじゃないか!」


怯えるナッツと同じくらい今僕は動揺している。けどそれを聞いて教授は叫んだんだ。


「スヴァルト!これはお前の欠片なのだな!? 」


後でユーリは教えてくれた。その心臓は煙立つとゆっくりスヴァルトへと吸い込まれていったんだって。
そして最後の一筋まで吸い込まれると剣はまるで生き物のような生気を放ったって。


『ようやく話せるようになった。やぁブッケ。君と語り合いたいと常々思っていたのだよ。君の呪物への考察は実に興味深い』

「なんと!!」
「話した…」
「シェフ!シェフっ!こわい~!いやぁぁぁん!」
「ナッツ!私の後ろに隠れるのだ!」


それぞれが驚愕に声を上げる、その中にあってナッツの声に恐怖は一切感じられなかった…。


だけどこれは…、インテリジェンスソード!ファンタジーの定番中の定番じゃぁないかっ!
ああー!僕のバカっ!この目でその瞬間を見そびれたのは痛恨の極み!ぐあぁ!僕としたことがっ!


『心臓を封じたこの壷に残る私の残滓をかき集めようやく声を取り戻すことが出来た。そして私の血骨の宿る3本の剣をこのスヴァルトに集約することで眼を取り戻した、感謝する』


教授がスヴァルトと名付けた一番短い剣、それの指示に従いサーダさんによって残った2本の剣からすべての血骨を抜き取るとスヴァルトは更に吸収したらしい。
そして残った2本はただの切れ味のいい剣になっていると言う…

…魔剣が減ってしまった…

だが聖剣が出来上がった!プラマイゼロだ!


『話しは剣の中で聞いていた。手を焼いているのはヘクサの娘か。あの子は当時から随分と独善的だった。あの子のあの気質をヘクサは呪術師の里においては統率力になると言ってきかなかったが…、あの子がこうなるのは必然かもしれぬ。』

「賢者様、それ以外の部分はその…賢者さんの心臓は、あの…」

『分かっている。身体などたとえ残っていたとしても2000年の時をもって風化していよう。これらは封じられる事でむしろ守られたのだ。何も言うな。聞かずとも全て知っている。あの子が不死となるために私の心臓を欲したこと、そしてあの子の願いは叶えられ、壷に滲みこんだ心臓の残骸が…恐ろしい企て、呪いの媒体となったことも。』

「それゆえその壷であったのか…」


賢者の心臓がしみ込んだ壷。賢者には残骸でさえそれほどの力があるっていうのか…

…賢者ってうっかり名乗らなくて良かった…


『助けてくれた礼、そして北の里の住人として詫び代わりだ。私は力になれるだろう。だから何も心配せず君たちは君たちのすべきことをするがいい。』


な、仲間が増えた…、のか?






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