チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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204 彼と鋼の頭脳 ③

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「何だと!シグリットが収監塔に向かったと言うのか!」


ノールに手渡されたペリドットによる私の〝陽光”。勝機を手にした安堵もつかの間、驚くべきことが伝えられた。

姫の身辺を警護していたと言う騎士の報告に声を荒げるケネス殿下。無理も無い…。
あのか細い姫殿下が争いのさなか、よりにもよって反乱者の目的である収監塔に出向いたとは…。
私と共に王族としてのありかたを学び始めた姫殿下によるここ最近の行動力は驚くばかりだ。


「それが…、シグリット姫殿下はご自分が居れば彼らも強引に押し入る事は出来ないだろうと、そう仰って…」
「なっ!何という事だ…。そ、それでまさか一人ではあるまいな!」

「勿論!数名の護衛が付いて参りました。中には最近殿下の筆頭護衛を務めているあのガタイのいい騎士もおります」
「お、おお…あの男か…。あれはおかしな奴だが腕はたつ。あれが側におれば心強い。ヘンリック!急ぎ参るぞ!」


未だ視力の戻らぬ反逆者たちは恐慌を起こし平常心を失っている。
ならばと、彼らの捕縛をヴェッティ王と直属の騎士たちに任せ、私は殿下と共に加勢を急ぐ。その私の後を当たり前のように付いてくるノール。

彼の姿に喜ぶなどと…、未だ争いの中だと言うのに、私と言う奴は…。




そして見えてきた収監塔の入り口ではルーテンバリ侯率いる前王派とぶつかり合う姫殿下の姿があった。


「ここより先には通しませぬ!ルーテンバリ侯!あなたは新興とは言え元老院に籍を置く大家、ご自分が何をしようとしているかお分かりでは無いのですか!」

「それはこちらの台詞だ姫殿下!何故ヴェッティにつかれる。奴はあなた様の父親である聖王を失脚させた男であるぞ。道理が分かるのならそこを開けよ!」

「いいえ!父は人としての道を誤りなるべくしてこうなったのです!どうしてもと言うならばわたくしを押し退けて入りなさい!」

「…ではそうさせてもらおう。騎士よ!姫殿下はご乱心なされた!構わぬ、姫の身柄を拘束し聖王をお助けに参れ!」


ルーテンバリ侯の言葉に血の気が引く。よもや姫殿下に無体を働くとは!


「ならぬぞルーテンバリ!誰かシグリットを助けよ!」
「シグリット姫!」


不毛を極める無秩序な乱闘の中、その上よりにもよってこんな時に…! 苦痛に歪んだ姫の表情、そこには呪いの発作が見て取れた…。

思わず膝をつくシグリット姫。その虚を突いて前王派の騎士の一人が姫殿下を連れ去ろうとしたその時だった。
一人の下働きの青年が姫と騎士の間に割って入り、怒れる騎士からその身に剣を受けたのだ!


「ええい!下働きごときが無礼な!」
「きゃぁぁぁ!」


「姫 ‼ おのれ逆賊、もう加減は出来ぬ!天空の怒りに焼け焦げるがいい『炎天!』」











僕の渡したペリドットではヘリオライトを用いた時ほどの力は発揮できない。それでも十分ヘンリックの〝陽光”そして〝炎天”、二つのスキルは前王派を退ける要となった。

それは本当ならとても喜ばしい事で…、でも僕の心はあれ以来、幾日たっても晴れる事がない…。


「どうしたんだいノール。まだ何か気になる事でも?我々は何か見落としているだろうか…」

「ううん、そうじゃなく、その…ただ少し後悔してて…」
「後悔?」

「君の存在が自分にとってどれ程大切か身に染みて分かった…こんな事ならもう少し早く、君の気持にも自分の気持ちにも逃げないで向き合うべきだった、って」
「ノール、それは一体…」

「姫の窮状にあれほど怒りを露わにするんだ、本気なんだね。じゃあ僕は祝福しなくちゃいけない、友人として」


ヘンリックの息をのむ音まで聞こえそうな礼拝室。そこには今、僕とヘンリックの二人だけだ。


「それはいいんだ。君が幸せであるなら。ただ僕は…、君を大切だと思うなら自ら答えを出すべきだった。それがどんな選択でも。そう思ってね。それを悔やんでる。僕は意気地なしだ」


「ノール…、今私がどれほど嬉しいかわかるかい?」
「何を言って…、ヘンリック!何を笑ってるの!酷いよ!僕の苦悩を笑うなんて⁉」

「まさか…。ノール、ノール、怒らないで聞いて。私と姫はそんな仲じゃない。姫の想い人はあの日背中を切られたあの下働きの青年だ」
「ええっ!」


姫の想い人があの青年 !? だって彼は書簡を届ける伝令の青年で…お仕着せすら身に着けていないのに…まさか…。
じゃぁヘンリックは…?それじゃぁ僕は思い違いを…?こ、これは恥ずかしい…


「真っ赤にはにかむ君を見るのは初めてだ。ノール、私はね、姫と取引をしたのさ。」
「と、取引…?」

「私も姫も公にはできぬ恋心を秘めている。もしも互いの想いが実るのならば、その時私たちは形ばかりの夫婦として互いの立場、そして互いの相手が矢面に立って非難されぬよう、守りあおうと…。」


明かされるヘンリックと姫の特別な秘め事。僕は今どんな顔をしているのだろう…


「卑怯だと思うかい?だが…私たちにはどうしても捨てられぬものがある。そしてそれはこの国の行く末に関わる責務だ。だからこそ彼女に王家は捨てられない。私も家名を捨てることは出来ない。」

「勿論だよヘンリック…」

「こんな狡い私をどうか許しては貰えないだろうか。真っすぐな君がこれを良しとするかしないか…、それはもちろん君次第、無理強いなど出来ない…だがそれでも私は君を諦めきれない」

「…普通ならそんな不誠実な事とても受け入れられない…。だけど…」
「だけど何だい?」

「これがシグリット姫殿下とあの青年にとっても救いになるなら…。そんな言い訳を自分に許しても良いんじゃないかと少し思ってる…」

「ノール、では…」
「誤解しないで。まだ僕はその…自分の中の友情と愛情の違いもよくわからなくて…」



「十分だ。君が私の想いを拒んでいない、今はそれだけで…」









ヘンリックの二つの光が瞬いたあの日から1週間ほどたっただろうか、ようやく王都各所で起こった騒動は鎮まりつつあるそんな時。

その様子を見てそろそろリッターホルムへ戻ろうかと訊ねた王の居室。そこで改めてヴェッティ王に問われたのだ。封蝋環、あれはお前のスキルなのかと。

人払いの済んだその部屋で王に説明をして見せるのは心情的に容易ではなかった。なにしろ非常時とは言えスキルにより神器を複製し、スキルにより小さな傷を偽造した、などと、不謹慎な行為を口にするのは僕にとって耐えがたい事だったから…。


「ヴェッティ王、現物を纏う私の〝造形偽装”は所有者が望めばいつでも解けます。そして〝造形複製”によって生み出されたものは本物と同じ。どちらを残しておかれるかは王がお決めください。」

「ふっ、そうか…。ならば仮初の王にはこの複製品が良かろう。現物はケネスに渡してやるがいい」




その殿下はヘンリックのスキル〝炎天”の熱によって渡されたその現物を溶かしてしまわれた…。


「どうせ持つならノール、お前のスキルで作られたものの方が私にはふさわしい。私はいずれヴェッティよりそれを受け取る。それはまるで合格印のようではないか。そうであろう」



つぶやかれたその言葉に思わず泣き崩れた事はヘンリックにも口止めしておこうと思う…。





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