チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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211 彼とアレクシ 

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アッシュとユーリウスからの頼み事、それはあの妖艶な魔女を撹乱することだ。それも出来る限り暴虐無尽に、愚かな王子を装って。

ふっ、得意とするところだ。何しろついこの間までその通りだったからな!

ええいっ!そんなことはどうでもいい!これでも緻密な計算によりこの10日間の道中、道化を演じてきたのだ!
今の私はユーリウスをマァの村へと連行する身勝手な王子、だがその詳細はあくまでも曖昧に、聞いた者がどうとでも解釈出来るよう含みを持たせた言い回しを続けてきた。

リッターホルムで行われたある出来事。その出来事に一方的に憤った私は、リッターホルムの当主であるユーリウスを王子の権限において拘束し、ヴェッティ王の許可を得ることも無く、当主の口から説明責任を果たすようマァの村まで引き立ててきた。

アッシュが組み立てたこの筋書きを、時に怒りを滲ませ感情的に、時に辛さを堪え感傷的に、様々な噂が交差するようその時々で使い分け…人々が思った通りの反応を見せるたび、私は不思議な感動を覚え己の演技力に心底震えた…。

あー、ゴホン。いささか面倒なことではあるが再びユーリウスを貶める訳にはいかないからな。
そのためになら道化た真似ぐらい。多少私の評判に響こうが今更…過去の贖罪代わり、とも思ったのだが、…アッシュはそれを良しとはしなかった。

だからこそ、後でいくらでも誤魔化しが効くようにと、印象の固定化を回避してきたのだが…、意外とやりたい放題だったこの10日間…悪くない気分だったことは伏せておくとするか…。


それより印のある場所まであの女を呼び寄せろと言っていたな?ふむ、あそこか。
村の塀までは近からず遠からず、絶妙な位置であるな。

伯爵夫人はどこだ?何処に居る?先に来ているはずであろう?

むっ、居たと思えば薄笑いを浮かべてこちらを見ているではないか。相変わらず不愉快で不気味な女だ。
あの女は一体何を考えて…、一体…、いったい…?何ぃ!一体これはどういうことだ!



「アレクシ!何故ここに来た!!」


開け放たれたその扉からアレクシが走り出て来るではないか!あ奴は隠しておくのではなかったのか!話が違うぞ!


「殿下!すっ、すみません!ですが子供が教会に隠した毒を奪って走り去るのを見かけて、それで…」
「何だと‼」


あいつらは何をやっているのだ!迂闊な!人を散々扱き使っておいてなんという体たらくだ!私の身体を張った頑張りを無駄にするつもりか!


「その毒とはこれの事かしら?残念だったわね、その小瓶はわたくしの手よ。」

「アデリーナ!」
「ペルクリット伯爵夫人!」


あの女が毒を取り戻しただと!馬鹿者どもが!この事態にどう始末をつけるつもりだ!


「賢者が命がけで手に入れたと言うのにね。やすやすと盗まれるなどお馬鹿さん。そう…、あなたがこの毒をここまで運んできたのね。どうやって彼から受け取ったのか知らないけどご愁傷さ…ま…」
「奥様、どうなさいました?」

「あ、貴方?貴方は!」


な、なんだ !? あの女の動きが妙だ。呼び寄せずともじりじりとこちらににじり寄って来るではないか…


「あ、あなた!あなたなの!? もっと近くで顔を見せて頂戴!」
「よ、寄るな伯爵夫人!ええい!一体何だと言うのだ!」


常に妖しくそして禍々しく艶めく瞳が今は何かに憑かれたような狂気を孕んでいる…。背中を伝う汗…、これは冷や汗か…、身体が恐怖に固まっていく…


「奥様!どこまで行きますの!」
「門から中には入ってならないと申されましたのに!」

「お黙り!彼の顔を間直で見るだけよ!貴方…その顔をよくお見せになって?ねえ、貴方なのでしょう?わたくしのために来て下すったのね?そうでしょう?そうだと言って!」


冷静さを欠くその声色が、あの女をアレクシに近づけてはならないと私に知らしめてくる。そして今アレクシを守れるのが私だけなのだと、その事実までも…


「アレクシ!私の後ろに隠れるのだ!」
「は、はい!」

「お退き!馬鹿王子!彼を寄こしなさい!寄こすのよ!」ガッ!

「ついに本性を現したなっ!離せ!この女狐め!」


アレクシに近づこうと一国の王子であるこの私に掴みかかるなど、正気なのか?この女は…
どうする?印の位置にはまだ遠い。このままジリジリとあの場所まで移動を続けるか…


「うわっ!何をする!」
「死にたくなくばその手を離せ!その男はわたくしのものだ!」


夫人は切り裂いたスカートの中から小型だがよく研がれたナイフを取り出し切りつけてきた。王太子であるこの私にだ!

すでに取り繕う気はないのだな…


「…ここで私に一戦交えろというか…、ふざけるな!どうにかしろユーリウス!」


ギ、ギギィ…バタン!!


「何事!今の音は何なの!」


「アレクシ!何をやっているんだお前は!だが夫人、殿下を馬鹿呼ばわりは止めてもらおう。どうであれ殿下は最も重要な大役を務めて下さったのだ。貴女を油断させこの門に近づけると言う大役をだ」

「ユーリウス!? な、何故! では馬車に乗っていたのは…、身代わりか!くっ!よくもやってくれたわね!」

「アレクシ!殿下をこちらへ!」


み、認めたくはないが、ヴェッティにも通じるこの威厳が今は実に頼もしい…。
私とアレクシは言葉通り素直にユーリウスとノールの立つその場へと避難した。


「お笑いだこと!計略の基本もご存じないのかしら?ここで種明かしなど程度が知れるわね。わたくしがその扉をどうしてくぐると思うの?あの忌々しい記憶を忘れたことなど一度も無いわ!仕方がない…出直すわよ!クレメル夫人!油をお撒き!」

「ノール!解除だ!」

「は、はい!」


その声と共に、我々の見ていた塀は徐々に姿を消していき、そして…


「なんと…っ!」


我々の後ろに、その立派な塀はゆらりと姿をあらわした…






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