チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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229 彼とお姫様

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少し春の訪れが遅いリッターホルム、そんなこの北の地についにシグリット姫がやってきた。

実際これは姫にとって初めての遠征視察。さすがにまだ別荘地のお屋敷は未完成。とりあえず小川沿いの貴族向け宿泊施設にお泊りになるんだけど、その前に当然公爵邸を訪ねて来られる訳で、今このお屋敷は騒然としている。この緊張感はまるで大公を迎える時と同じだ…。ん?王太子のお迎え?…それは置いといて。

朝から子爵とノールさんは二人して調度品の入れ替えに大わらわだ。女性を迎えるにはそれなりに女性向けのものに換えなくてはならない。
それにサーダさんとナッツも女性向けのメニューと言うことで色々と趣向を凝らしている。教えてあげたエディブルフラワーを用意したりして、随分映えそうな予感がする。

なのにユーリとヴェストさんだけはいつも通り全く変わらず、僕なんか邸内の雰囲気にのまれて少し落ち着かないのに…。


「エスターは自分だけスルーで来て良いよね。」
「僕は君の司書であって本来ここの使用人ではないからね。みんな分かって無いようだが」
「そう言えばそうか」
「君の結婚でその境界は有耶無耶になりつつあるね。まあ僕は思う存分書物を集められればどちらでも」

「そうでしょうとも」


僕とユーリは別々に収入源を持っているのでお財布も当然別々となっている。

僕にはここでしか手に入らないスパイスの数々、そして大公領に協力してもらってる米ぬか化粧品をはじめとした発酵食品の利益の半分、それからそれからチョコレートに付随する色々とか。ユーリは言うに及ばずこの公爵領の収入とと、公爵家の繋がりを利用しての他領を巻き込んだ様々な収穫物のロイヤリティ。そうそう、毒に対する12家からの収入が無くなった代わりに黄金の林檎、つまり神殿が奇跡と称するモルヒネみたいな果実の収入があるんだった。

あれって僕の労力も入ってるんだけど…。それを遠回しにエスターにぼやくと、


「彼のスキルはとうに自在じゃなかったかい?君の労力なんて柘榴の種を発芽させることだけだろう?」


あ…っぶな…、エスターに余計な事言うところだった…。
そうだよ!よく考えたら別にアレする必要ないじゃん!よし、断固抗議だ!まぁ結果返り討ちにあうんだけどね。まぁそれは別の話で。





「いらっしゃいシグリット姫。まだ少し肌寒いけどリッターホルムはいかがですか?」

「うふふ、とても素敵ですこと。王都と違い生命力に満ち溢れた山々に囲まれて…、なんでもわたくしに別荘を用意してくださっているとか…、ユーリウス様、嬉しゅうございますわ」

「ほんの婚約祝いだ。公爵家たるものそれなりの事はさせていただく」
「親戚だしね。まだ出来上がってないけど夏には完成するから待っててね。今日の晩餐はとびきり豪華なの用意してあるから期待してて。そうだ、ヘンリックさんはここで泊まるんでしょ」

「ああ勿論。いつものようにお願いするよ」



そんな他愛もない談笑は来客の到着を告げるヴェストさんにより一旦中断された。


「ユーリウス様、アレクシがアルパを連れて参りました」

「ではここへ通してくれ。私は遠慮しよう。姫殿下、ではまた後程」


実はシグリット姫はこのカレッジへの視察に当たってアルパ君との対面を希望した。だからってまさかシグリット姫をそこらに連れまわすわけにはいかないからね。
アルパ君はついにこの公爵邸、つまり実母であるアデリーナの古き生家を訪れることになったのだ。






「あ、あの、シグリット姫殿下、この度のご婚約おめでとうございます。わ、私なんかがこの様な場で、その、祝辞を述べていいものかどうかと思うのですが…」

「いいえアルパ。わたくしが貴方に会ってみたいと無理を申したのです。さあ、緊張しないでそこにお掛けなさい」

「で、でも…」
「アルパ、さあ…」


アレクシさんに促されてようやく座ってもアルパ君の緊張は解けたりしない。無理もないけど…

きっと姫はケネスから何か聞いたんだろう。だってシグリット姫の言葉はあの時アルパ君から聞いた言葉にリンクしている。


「わたくしと貴方はとても似た立場ですわね。正直…、安穏ばかりだったわけではございませんのよ。それでも…人々から見ればわたくしは多くの者を苦しめた前王の娘。そして父に都合よく利用された兄と違い、わたくしは…本当に何も見えておりませんでした…。綺麗な物だけに囲まれて…。ね、似ておりますでしょう。けれど…たとえ全てを知っていたとして何が出来たとも思えません…わたくしは非力ですもの。貴方もですわね、アルパ。だからと言って親の罪に対して知らぬふりも出来ませんわ。辛いこと…」

「はい…」

「たとえ何も出来なくともやはりどこかで知らねばならなかった。耳を塞ぎ目を閉ざした罪は他の誰でもない、わたくしたち自身が背負う罪。それは償わねばなりません。ですが過去にはもう何も出来ませんもの。そうでしょう?ですからわたくし、この国の未来へ償いを返して行こうと思っておりますの。この国を背負って立つ子供たちに。よければアルパ、あなたも力を貸して下さる?わたくしひとりでは大変ですの。いかがかしら?」


消え入りそうな声で返事を一つ。そこからはもう彼は何も話せなかった。アルパ君はアレクシさんに胸を借りて泣きじゃくってしまったから…。
思えば…ここへ来てから一度として涙を見せなかった彼…。どれほど我慢していたのだろう。共感を示してくれた姫の優しい言葉に彼のタガは外れてしまった…。彼の涙は干からびるんじゃないかと心配になるくらい、いつまでも流れ続けた…。





さすがに王族と同席は無理だけど、せっかくだからその後アルパ君にも小ダイニングで食事を振舞うことになった。
教会の食事は規則が多くて清貧なはず。前菜に始まりデザートで終わるフルコースは久しぶりだろう。
通りすがりにチラっと覗き見たアルパ君の目の前にはナッツが座ってて、おしゃべりしながらデザートのティラミスを味わっていた。

だべってる女子高生みたいだな…







すっかり外も暗くなり、シグリット姫は物々しい護衛騎士に守られ宿泊施設へと帰って行った。
それを並んで見送り、そのアルパ君を教会まで送らせるとようやく訪れる安堵のひと時。


「はー、帰った帰った。女性のおもてなしは疲れるなぁ。普段使わない気を遣っちゃったよ。」
「全くだ。アッシュ、パーゴラで飲み直しをしないか?食事の量も今日は少し…」

「姫に合わせて控えめだったしね。ユーリ行こう!」


ヴェストさんに用意を頼み僕たちはそのままお屋敷の外周を回って裏庭へと向かう。その途中で、おっと!これはこれは…ニヤニヤ・・・ヘンリックさんがノールさんを口説いている真っ最中じゃないか。どれどれ…


「アッシュ、盗み聞きは感心しない。二人の事はそっとしておくんだ」
「へ?あ、ああ…」


いいとこだったのに変なところで真面目なんだから…と思ったら角を曲がった先には…アレクシさん…ん?


アレクシさん⁉




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