チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
218 / 277
連載

228 彼の忙しい日々

しおりを挟む
二日間ほど目一杯スキーを楽しんでケネスは王都へと戻って行った。最終的にタピオ兄さんと親友みたいな状態になっていたのには何をどう言っていいのかも既に分からない…。

そしてここは公共区域の大きな広場。ナッツのメレンゲお渡し会の会場だったところだ。そこに今僕と兄さん、そしてアレクシさんの三人はいる。


「それでアレクシ、もういいのか?」
「いいのかって…何がだい?」

「あれからもうじき一年だろう?領内の事とかお前の事とか、もう平気か?」


兄さんそんな直球…
転移の男の生まれ変わりがアレクシさんだったってこと、それはこの一年地雷案件としてみんな口には出さなかったのに…


「荘園は上手くいってる。リッターホルムはアッシュ君のおかげで比較的早くから土壌作りは進んでいたんだ。ユーリウス様の熟成でより一層栄養価の高い土になってね。収穫物の品質が飛躍的に向上して運営は至極順調だ」

「へぇー、マァも負けてられないな」
「マァの村はどこにも負けないよ兄さん!」

「はは、それに切り開いただけの固い土壌も熟成のおかげで手っ取り早く新たな農地と出来たんでね。これなら自由農民の移住をもっと進められる。」

「じゃあ領民が増えてもっと栄えるんだなリッターホルムは。」
「そうだよ兄さん!」


今日は兄さんと過ごす最後の日。僕たち三人で実は大きな雪像を作っているところだ。
鼻が滑り台になった大きな像ならぬ象。これは僕の作った雪だるまを見た兄さんの発案で、ここに来た記念に置いて行くんだって。解けるけど。それまではきっと子供たちのいい遊び場になることだろう。

手を動かしながらの取り留めのない雑談。だけど兄さんの聞きたかったメインはそういう事じゃないみたいだ。


「で、お前は?」
「…私か…。それなりに上手くやれてるつもりだ。転移の男、その残滓はアデリーナの消滅と共に不思議と胸から消えた。彼女に寄り添って逝ったんだろうか…?養父と公爵家の関係もエスターが色々と家系書を調べてくれてね。」

「あれか。ヴァッソン家のことは寓話の書にも神殿の記録にも出てこないから大変だってエスターが言って、ノールさんが現存の6家から家門の歴史書借りて複製しまくってたよ。」

「ヴァッソン侯爵家は4世代ほど前に断絶したのだと記されていた。だが準王族であるリッターホルム公爵に仕える家令が無爵位では体裁が整わないと、当時のヴァッソン家当主は断絶後、領地を失い名ばかりとなった没落貴族、バーリント伯爵家から一人娘を妻に貰いうけたそうだ。養父はすでに何代か継承されたバーリント伯であったため私はヴァッソンの名を聞いたことは無かったんだが…」

「じゃあ今はアレクシがバーリント伯なのか?」

「やめてくれ。それを言われると身の置き場がない。父は公爵家に仕えるために爵位を温存していただけで…、領地も無ければ屋敷すらない。その上私はまともな貴族社会を見ていない。貴族学院で学んだこともないんだ。伯爵などと…名ばかりでも気が引ける…」

「そうなのか?まあ俺の聞きたかったのはアレクシの失恋のことだけどな」
「なっ!」


に、にいさーん!そんなド直球!それはもっと地雷でしょーが!


「…ニイサンチョット……」
「…あ、ああ、もう平気だ。ノールは良い友人で、むしろこれで良かったと最近では思っている。私とノールは似た部分があるんだ。だから側に居て居心地が良かった。だがそれはもしかしたら愛ではなく安心していただけなのかもしれないと考えていたんだ」

「それって潜在意識が平穏を求めていたのかも…ほら、遠い過去色々あったみたいだし…」
「ならもう安心を必要としなくなったって事だな。良いことなんじゃないか?刺激が無きゃ心が老けるだろ。まあ当分俺が遊んでやるよ。」

「タピオ…、君の遊びは体力が要るんだが…」
「アレクシ、お前はもっと体力つけろよ。いいから早く翼竜乗れるようになれって。そうしたらちょこちょこ来れるだろ」

「マァの村にかい?頑張っては見るが…、いやこれも挑戦だな」
「そうだよアレクシさん!マァの村とリッターホルムは連動してるんだから!飛び石領地だけどあそこもアレクシさんの管轄みたいなもんだからね!」


そうこう言っているうちに僕たちの周りには暇を持て余した領民が同じように雪像作りを始めていて、気が付いたら札幌の雪まつり会場みたいな有様になっていたのには驚いた。いつの間に…







そうして兄さん初の一人旅、リッターホルムへのスキー旅行はユーリが用意したたくさんのお土産と共に一週間ほどで終わりを告げた。兄さん、うぅ…、また来てね…


「さあアッシュ、雪が解けたら次は姫殿下の登場だ。やれやれ、いつになったら君と静かに過ごせるのか…。」
「5月になったら開校祭もあるんだから。静かになんかならないよ。だって人生は有限、やるべきことはやっておかないと。悔いが残らないように」

「やるべき事か…」


いやぁ…、僕が言うと実感がこもるなぁ、なんて思った横でふと遠い目をするユーリの姿。
ポツリと呟くユーリには、何か悔いでもあるんだろうか…?


「さて、私は講義のあるアッシュ君に付き合ってカレッジへ行きますがユーリウス様はどうされますか?」

「たまにはユーリも一緒に行こうよ。午前でお仕事は終わらせたんでしょ?誰か面会の約束でもあった?」

「いや…。ではアッシュ、君の講義が終わったらカレッジ内のカフェでコーヒーでも飲もうか。それまではノールのところで待つとしよう」
「いいねそれ」


今ではリッターホルムの中核をなす領立カレッジ。

そこにはレッカラン博士による医学の講義があったり常に剣に向かって話しかけるヤバイ教授による考古学の講義があったり、でも今一番ホットなのは、臨時講師である僕を交えた造船の為の講義だ。
そう!講義とは参加する側ではなく教壇に立つ側なのだ。

今まで日陰に甘んじた力学、工学の専門書がついに陽の目を見る時を迎えた。『グローバス社会における生産業』あの子がついに登板とは…ジー…ン…

あの大河は不毛の地を抜けその向こう側にある海へと流れつく。遊覧船事業が軌道に乗ったらいつかは漁猟船も!一攫千金を狙う漁船に乗りたがる漢は必ず居るだろう。ああ!憧れの海の幸!


その辺の話し合いにもエライ人達を巻き込まなくては。
そのため僕は開校祭でその為のプレゼンをすることになっている。ふっ!得意分野だ。




「あ、アッシュ様…」
「あれぇアルパ君まだ居たの?アレクシさん迎えに来てるよ。会わなかった?」

「あの今、丁度礼拝堂へ御用があって行っておりましたので。アッシュ様は講義ですか?」
「そう。ユーリと来たんだよね。後で学食行こうと思って」

「ユ、ユーリウス様と…。では急いで帰り支度をしますね。失礼します。」

「あ、アルパ君…待って、行っちゃった…」


アルパ君がここへ来てすでに半年以上がたつというのに、実はユーリとアルパ君は今だ打ち解けていない…。
まぁユーリは基本誰に対してもそうだけど…

アルパ君には魔女やら不死やら…の件は伏せてあるから両親がユーリにした仕打ちしか彼は知らない。それでも耳に入って来るのは非道な話ばかりで、…アルパ君はユーリの名前を聞くだけで申し訳なさからひどく恐縮する…。



この問題もいつか解決できる日がくるんだろうか…








しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。