チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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235 彼の決断

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取り押さえられたマテアスはそのまま王都の収容場へと運ばれていった。道中の様子を伺い聞くにまともな状態ではなかったらしい。
その眼はくうを見ていたと言う…、ブツブツとアデリーナの名を呟きながら…。


脱走のきっかけとなった強制労働場での落盤事故。巻き込まれたのは事実のようで、マテアスの身体にはたくさんの裂傷や打撲、肋骨にはヒビが入っていた。だけどあの生々しい血だけは他人のもの。落盤で命を落とした他人の血を血糊代わりに木筒に詰めていたのだとか…。

再起不能の廃人…、医者は言った。これでは長くもたないだろう、と…。

当然そんな状態のマテアスが一人でここまで来れるはずは無い。

その協力者とはあの暴走乗合馬車の御者だった。御者はなんと、あの日庭師と共に僕を迎えに来た男!覚えてないよ、御者の顔なんて…。

なんでも伯爵邸を辞し収監を免れていたその御者は、自分をリッターホルムまで届けて欲しいと言う血の滲んだ手紙を受け取り、ついほだされて運んできたのだ。ボロボロの彼を…。

連行されるマテアスを見て逃げ出そうとしたところ、フットマン出身のビョルンさんに鍛えたその俊足で追いかけられて捕まったのだとか。


「どこの御者も忠臣だよねぇ?彼どうなるの?」
「どうかな。大した罪にはならないんじゃないかな…」


そんな会話を交わしながら僕とノールさんはアルパ君のお見舞いに行くところだ。彼は未だ同じ屋敷の中に居る。





「具合はどう?安静にしてる?」
「はい。おかげさまで先ほど診てくださったレッカラン博士にも順調だとそう仰っていただけました」


初の開腹手術を受けたアルパ君だが顔色を見る限りその体調は良好そうだ。
術後のアルパ君には毒素の研究過程から発見された抗生物質も処方された。これで感染症対策もばっちり、思った以上に良い経過だ。


「なにしろ身体を切って開いたんだからね…、油断せず養生するんだよ」
「はいノール様。それより…お仕事お休みしてしまい申しわけございません」

「心配要らないよ。今は輸血や手術に関する事ばかりでね、実は意外な事にエスターが協力してくれて…」
「嬉々として対応してるよね。手術の興奮がまだ抜けないみたい」


あの手術の件がポロリと王都まで出回り、今カレッジには病院への問い合わせが鬼のように来ていると言う…。
室内に居た博士とその助手たちにはオスモさんの箝口が施され、なんとかスキルの流出だけは免れたけどアルパ君に輸血や開腹手術を施術したことまでは防ぎ切れなかった。
それを快くさばいてくれているのが一部始終記録していて、尚且つ口と誤魔化しの上手いエスターなのだ。



あんな事件の後とは思えない穏やかな昼下がり。そこへノックの音とともに入ってきたのはアレクシさんとユーリ、…ユーリ⁉


「ユーリウス様…」
「起き上がる必要はない。寝ていたまえ」
「はい…」


………静かだ…。

見舞いに来たとは言え、ユーリはじっと彼を見るだけで何を言うでもない…。それを受けアルパ君もただ静かに目を伏せている。それでも不思議といやな緊張感は感じない。
僕まで言葉を発しちゃいけない気がして黙って様子を伺う事、かれこれ30分はたっただろうか…ようやくユーリが、その重い口を開き始めた。


「まずは礼を言う。命拾いをした。君のおかげだ」
「いえ…」

「………まったく君の母親には辟易する。マテアス、そしてあの侍女、あれだけ人を狂信的に依存させるとは」
「はい…」

「その力を正しく使えばまた違ったものを。だが彼女は最後まで己の欲望を満たそうとした」
「ええ…」


こんな怪我人の前で嫌みを言いに来たわけじゃないだろうに。多分ユーリは何かを言おうとしている…。


「あんな母親と18年も暮らしながらよく影響されずにきたものだ。君の自制心には恐れ入る」

「臆病だっただけです…。私は自分の殻に閉じこもっていましたから…。母の言葉も父の言葉もうわべだけを聞いておりました…。」


「父か…、私の遺伝子の一端…、だが私はあの男を父親とは認めていない。私の父親は私を支え続けてくれたヴェッティ王だけだ」
「勿論です…」
「当然君のことも異母兄弟と思ったことは無い」
「はい、分かっています…」

「だが君の身体に流れる血はあの日全て入れ替わった。聞いただろうか。君の身体から一体どれほどの血が流れ出たかを」
「聞いております。輸血が無ければ死んでしまう量の血が流れ出たと…」


「あの男は自身の手によって君に流れる己の血を消し去ったのだ。」
「そう…ですね…」
「では今君の身体に流れる血は誰のものだと思う」
「ユーリウス様が血をお分けくださったと聞いております…」

「そうだ。君の身体に今こうして流れる血、それは私の血だ。それがどういうことか分かるか」


ユーリが言おうとしている事、僕の考えが間違っていなければそれは…
だけどアルパ君は困った顔をして申し訳なさそうにシーツの端を握りしめるばかり…


「…その…ど、どうお返しをすれば…」
「ア、アルパ君!ユーリはね、君を兄弟と認めるって言ってるんだよ。そうでしょユーリ?そういう事だよね?」


その言葉に「まさか…」と言ったきり目を見開いてユーリの顔を見つめ続けるアルパ君。そして黙っていられなかった僕をやれやれと言う顔で見てくるユーリ。でも…観念したかのように…ユーリの口からはついにその言葉がハッキリと告げられたんだ!


「…君を公爵家に迎えよう。ようこそアルパ」


その言葉に室内に居た全員が滂沱の涙。涙腺の機能は崩壊した…ああ…なんて感動的、世紀の雪解け…ユーリ、僕は嬉しいよ!





と思ったのに…





私室に戻ったユーリは何故かノールさんでなくヴェストさんに事務方の仕事を任せている…怪しい…


「ヴェスト、元老院に提出する書類の準備は良いか」
「整えてございます。」


ふんふん、正式にアルパ君を弟とする届け出を出すのね…


「例の資料はどうだ。集まったか」
「いくつか取り揃えてございます」

「ん?ちょい待ちヴェストさん、例の資料とは?」
「アッシュ、君は気にし」

「アルパ様の婚姻相手にふさわしいご令嬢方の釣り書きです」


チッ!って聞こえたんだけど…、いやそれよりも今何て言った⁉


「こ、婚姻相手!? ユーリどういう事?アルパ君は結婚するの?」
「…アルパにはいずれ妻を娶ってもらう。そして奥方となる女性には子を生してもらわねばならない。」
「え?なんで…?」

「リッターホルムの後継者とするためにです。最初の子はユーリウス様とアッシュ様の子としてこの屋敷でお育てします。」

「あ、そっ…そういう…そう言う事なの⁉」

「アルパの身体に私の血を入れると君が言った時から考えていた。古より続く末子の血。だがこれでアルパは真の血族…みたいなものだ。ならばその子も後継たるに問題ない。」


こ、こじつけ臭い…。そ、そう言えば公爵家と王家だけは血族直系男子しか継承権はないんだったー!他家は血がつながろうがどうだろうがOKなのにっ!

だからユーリはあんなに悩んで…そうだったのか…。


「で、でもアルパ君が可哀想じゃない?」
「アルパは貴族教育を受けた嫡男だった。婚姻とはそういうものだと考えるだろう。」

「だけど…」
「私は秘めた恋にまで口をはさむつもりはない。彼に意中の者がいるなら密かに後押ししてやってもいいとさえ思っている」
「ひ、秘めた恋って…後押しって…」

「ヘンリックや姫殿下と言う前例がこのリッターホルムにはあるだろう。」


そう言えばあったな…おかしな前例が…

ユーリにとってこれは渡りに船。あのオペの最中にそんなことを考えてただなんて…。どうりで途中からやけに素直に採血に協力してると思ったよ。そんな思惑があったなんて…ユーリってば…ユーリってば…僕の感動を返してっ!




だけど…動揺する僕を追いかけてきたヴェストさんがコッソリ教えてくれた。


「アッシュ様。ユーリウス様がどうアルパ様を受け入れたところでとやかく言うものは必ず現れます。公爵家の後継に連なり確固たる絆が確保される…、それはアルパ様にとっても恐らく最善です」

「あ…、ならそう言えばいいのに!」

「あれは照れ隠しです」


照れ隠しをするユーリと感情を読んだヴェストさん


僕はどっちに驚けばいいのー⁉







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