チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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ごく普通な農家の息子は勘当息子を溺愛する?②

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「むぐ、そ、それでその親切な人は走って行ってしまって、うっ、ゴホゴホ」

「ほら落ち着け。全部食べていいからゆっくり食え。ほらお茶もあるぞ。弟特製の黒豆茶だ」


明かりの下でよく見た彼は落ち着いたブルネットの髪と茶色い瞳。スラリとして、なのにしっかりした身体つきの、まるで太陽みたいな人だった。
彼は王都の下町にある宿屋まで戻ると、母親が持たせてくれたという芋料理をこれでもか、と、惜しまず全部並べてくれたのだ。


「モグモグゴックン。ズズ…香ばしいお茶ですね。美味しいです。それでその荷物の中に財布が入ってて…、失敗しました…。せっかく泊めて下さるって言ってくださったのに…」

「…お前…。その広場で財布を出したりしたか?」
「え?ええ。残金を確認してボストンの底に仕舞いました。それが何か?」


あ、あれ…?僕は何かおかしなことを言っただろうか…?


「あのなぁ…お前人目のある場所でそんなこと…。そりゃ初めっから狙われてたってやつだ。しっかし…相手も驚きだろうな。こんなあっさり上手くいって」
「ええっ!!そうなんですか?まさか…、でも…、し、親切…、ああー!僕はやっぱりダメダメで…」


何てことだ…、彼は親切な人では無かったのか…ガーン…


「ぷっ、ダメには違いない。それで2日間飲まず食わずか。そりゃ災難だったな。はは。それよりお前、名前は?」
「カミーユって言います。あの、慈悲深い貴方の名前をお聞きしても?」

「慈悲…大袈裟だな。タピオだよ。」
「タピオ様…」
「止めろよ、様とか。タピオで良い。なっ?」
「はい」

「しょうがない。俺が居る間はここに泊めてやるけど…あと数日くらいしか居られないからな。その間に何とかしろよ?」
「ありがとうございます。取り敢えず手持ちのお金を何とかしなくちゃいけませんね」

「どうする気だ?」
「ミルウィ橋のマルシェで似顔絵を描こうかと。僕にはそれしか出来ませんから」ギュゥ

「ああ、大事そうにずっと抱えてるその荷物は絵の道具か。で?お前上手いのか?」
「こ、これを…。橋の下で暇つぶしに描いた手慰みですが…」

「へぇー。上手いじゃないか。画家を目指してるのか?」

「ええ。画家として生きていきたいと言ったら宮廷画家になるかパトロンを見つけるまで帰って来るなと言われ追い出されまして…。…もう一生家には帰れないかもしれませんね…」

「宮廷画家か…。良かったら俺の友達に聞いてやろうか?一人ぐらいなら雇ってくれるかも…」
「タピオさん?宮廷画家って何か知ってます?お城の画家ですよ?農家のあなたにどうして知り合いがいるって言うんですか。何か勘違いしてます?でも気持ちはありがたく受け取りますね。」

「いいのか?ケネスは良いやつだぞ?」
「もうタピオさんってば冗談がお上手ですね。ふふ。ありがとうございます。さ、この話はもう終わり。ところでホントにいいんですか?一緒に寝かせて頂いて…」

「いいよ。カミーユは小柄だしな。そんなに場所も取らない…もしかしてお前寝相悪いのか?」
「え?た、多分大丈夫だと…、だ、大丈夫かな…」

「ま、いいか。俺はもう寝るけどお前はまだ食うのか?いいけど歯は磨いて寝ろよ」
「…あと少しだけ…お母様お料理お上手ですね」

「はは。母さんが喜ぶよ。それからちゃんと毛布肩まで掛けて寝るんだぞ」
「はーい」

「返事の仕方も弟みたいだ…お休み…」


横になって5秒で寝息が聞こえるなんて…寝つきが良いんだな。まだ宵のうちだっていうのに少しびっくり。

この1時間でわかった事、彼は北の僻地にある『マァの村』からやって来た農家の息子で、王都へは友人に会いに来たらしい。
その友人との交友を終え、2~3日土産物などを物色して帰るところだったのだとか。
そして彼は驚くほど面倒見がよく、家族、とりわけ弟さんが大好きなんだってことも…。

たとえ数日でも彼に出会えたのは幸運だった。なんとかその間に多少のお金だけでも何とかしないと。朝から…ううん、朝は商売人しか来ないから、遊山客が増えてくるお昼前くらいに…絵具は足りてたかな…?

絵具の確認をしながら、ふ、と視界に入ったのはタピオさんの横顔。
僕をどん底から救ってくれた彼はなんだか救世主のようで、その涼やかな横顔から目が離せなくて…思わずスケッチを始めてしまったのは絵描きとして本能みたいなものだよね…?






「おいカミーユ。起きろ。朝飯だ」
「う、ううん…朝食…、お腹がもたれて食べれない…」

「夕べ際限なく食べるからだ。しょうが無い奴。ここに置いとくから絵描きに出かける前食ってけよ。」
「タピオさんはどこへ?」

「雨が上がったからその辺少し歩いてくる。ケネスは人の多いとこしか連れて行ってくれなかったからな」
「いってらっしゃ~い」


そうか。彼の友人はケネスと言うのか。この国の王太子と同じ名前を付けるなんてほんとは不敬なのに…。田舎ではそう言うことが知られてないのかな?
でも僕が子供の頃代わった新しい王、ヴェッティ王はとても鷹揚な方だ。なにしろ又甥であられるリッターホルム公爵が平民の、それも男の妻を娶っても祝福されたぐらいだもの。名前くらいのことでお怒りにはならないかもしれない。

彼タピオの友人ならきっと良い方に違いない。いつかお会い出来たらな、なんて思いながら僕は重い身体をベッドから起し、ノロノロ支度をすると衣類を整え、彼の用意してくれた朝食を無理やりお腹に詰め込んでミルウィ橋へと出発した。






雨の上がったミルウィ橋は、それはもう大盛況で僕の似顔絵ですら2人ほどの人が買ってくださった。良かった。値切り倒され大銅貨10枚の事だけど少し懐が温まっただけでもホッとする。温まった…けど…、あれ?むしろ身体が…、身体が熱い…あ…ー…





「おい、おいカミーユ。大丈夫か?しっかりしろ。」
「う、タピオさん…。ここは…?僕は一体…」

「宿屋だ。お前マルシェで倒れたんだよ。様子を見に行って良かった。じゃなきゃまたどうなってたか」
「倒れた…。そう言えば朝からずっと身体が重くて…」

「2日間濡れた身体で居たから風邪ひいたんだ。熱がある。ごめんな、朝気付いてやれれば良かったのに」
「いえそんな。はっ!僕の道具!」
「ちゃんと持って来た。安心しろ」
「上着は?僕の上着!大銅貨!」

「俺が見たときには着てなかったけど、盗られたのか?」
「う…、ひっく。上着には似顔絵代が…、僕はやっぱりダメダメだ…」

「あー…、そうか…、その、俺も一緒に考えてやるから元気出せ。取り敢えず風邪を治すのが先だ。ほら寝ろ。寝ないと熱も引かないぞ」
「タピオさん…グズ…はい…」


おでこに乗せられる彼の掌がやっぱりとても優しくて、僕はいつの間にか彼の手を握りしめて寝てしまった。
しょうがないよね。だって不安で不安で心細くて…


この手を離したらこの世の終わりみたいな気がしたんだから…。




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