僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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新しき人生の始まり

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彼女は神様の言った通り、コーニンレイクと呼ばれるある国の、貴族と呼ばれる地位ある家に産まれたようだ。
そこはアランブールと呼ばれる伯爵家で、彼女は第二子。この家にはすでに三歳上の男の子が居るようだった。

ジーンと名付けられた彼女は魂だった時の記憶を消去されている。

『おーいジーン、聞こえないのー?』

内側から話しかけても反応はない。だけど、予期せぬハプニングによる影響なのか僕の記憶は何故かそのまま残っている。

『世界が見えるだけ虚無空間に居るよりかなりマシだな』

未だ魂でしかない僕は、ジーンの五感を通じて全てが共有できる。そんな状態で僕は彼女の成長を見守り続けた。

愛情深い両親と優しい兄。裕福な家庭に生まれた彼女に不自由はない。
無邪気に庭を駆け回る五歳…はじめてポニーに乗った七歳…髪を巻き始めた十歳…そして彼女が十四歳の時だ。彼女を愛し、小さな騎士として護り続けた最愛の兄が落馬によってその命を散らしたのは。

最愛の息子を亡くし嘆き悲しむ両親。そして大好きな兄を失い沈み込むジーン。

けれど伯爵家の嫡男だった彼の死は他にも大きな問題をもたらした。そう。後継者の問題だ。
長男の死から一年ほどたったある日、当主であるジーンの父親は重大な決断を迫られていた。

「ジーンや。まだ年若いお前を嫁に出すのは忍びない。だが一年たっても母は次の子を身籠ることが出来なかった。無論まだ諦めたわけではないが、私はこのアランブール家の当主として次代のことを考えねばならぬ」

「お父様。わたくしに何をお望みでしょうか」
「すまぬが早急に婿をとってほしい。お前の産む子が男の子ならばその子こそがこのアランブールの後継者となろう」
「かしこまりました」

おおっ!ついに出番か!

『おじい様、その選択は正解だよ。だって産まれるのは僕だもん。それも一撃必殺!』

こうしてジーンは一年の婚約期間を経て、婚姻可能な十六になってすぐ結婚することとなったのだった。



結婚相手アシルはアランブール伯爵家より家格の低い男爵家の三男で、歳は二十五歳。容姿も愛想も非常に良いが、どこはかとなく軽薄さを感じる非常に浮ついた男だ。

『あの装飾品…男爵家三男にしては高級品だな…』
『なるほど。こいつは自分の容姿が武器だと自覚があるのか…』

なぜ父親がこんな男を選んでしまったのか…
それは幾つかの釣り書きを見て、ジーン自身が「この方素敵」と一目ぼれしてしまったからだ。
結婚を急かしたことに後ろめたさがあったのだろう。父親は「せめてあの子が気に入った相手を」とその男を婿に選んでしまった。だが…

ピュアな少女に戻ってしまったジーン含め、育ちのいい伯爵家の面々はアシルの軽快な口車で気付いていないが、前世で庶民の、それもやり手の商売人だった僕には手に取るようにわかる。

この男アシルは財産目当てで間違いない。それに多分相当の女好きだ。
とは言え、まだまだ少女の域を出ないジーンには何の興味もないのだろう。
一年の婚約期間、彼は一か月に一度ジーンを連れ出しては貴族街のカフェに行き、帰り際、自分からねだるでもなく、非常に自然な流れでとして時計やシガーケースなどの高価な物を贈られ帰っていくだけのお粗末さ、いや、見事な手際だった。

それでもジーンは男に微笑みかけられるだけで嬉しそうだったから…
だから僕も敢えて色んなことを見てみぬふりをしていた。メイドの一人に色目使ってることとかね。



そうして迎えた結婚の日、貴族の結婚式とは初夜こそが最も重要な儀式である。

クン!

あ、なんか引っ張られる。こ、この気配は…

来たー!

ついに待ちに待ったこの日が来たんだ!

元双子の妹、ジーンの初夜についてはさすがにちょっと…
けれど、うっかりこの時共有してしまった体験が、僕のセクシャリティに後々影響を及ぼすのだが、それは一旦置いといて…

とにかく僕は神様との約束通り、ついにお腹の中の赤ん坊として形を得たのだ。


さて、結婚と同時にアランブールの王都邸へと入った婿アシル。
当時はまだ僕の祖父母でもある当主夫妻が年の半分は屋敷に居たため、あの男も被った猫を完全に脱ぐことはなく、困った点と言えばせいぜい金遣いがやや荒い、程度のこと。裕福な祖父は寛大な心で目を瞑っていた。

そうして僕が産まれ…

無事後継者となる男の子が産まれたことで安堵と大歓喜に湧く伯爵邸。これほど歓迎されると僕も産まれた甲斐があったというものだ。

「まあー!旦那様によく似た麗しいグリーンアイに透き通るようなブロンド」
「奥様の愛らしいお鼻と花びらのようなお口も受け継いでおられてよ」

それが僕の容姿ね。なかなかの造作だよ。

「なんてお可愛いベルナール様」
「将来がたのしみですわ」

ベルナールと言う大変綺麗な名前を頂き、花よ蝶よとチヤホヤされること数年。
僕が三歳になる頃、病を抱えたことで衰えを感じ始めた祖父は、王都邸へ来ることが極端に少なくなっていた。

もちろん屋敷には多くの使用人が居る。頼れる執事ももちろんいる。
若夫婦だけでもなんとかなるとお考えだったのだろうが、それこそがアシルの狙い!アシルはじっとこの時を待っていたのだ。

あの男はジーンを軽く手玉に取り、伯爵家の財を我が物顔で湯水のように使い始めた。
そしてまた、アシルとデキてるメイドのミレイユ、彼女もまた屋敷の中でどんどん横柄に振舞い始めた。

巧妙な二匹のキツネに、「幼子は母を恋しがるから」、そんな理由で養育部屋のある静かな離れに追いやられたジーン。
それすら優しい夫の赤子への気遣いと信じていた彼女は人を疑う事など知らない真白な天使だ。

執事は若い入り婿の暴走を抑えんとかなり善戦していたが、女主人が自ら庇いだてするのだから手に負えない。
執事は領地に居るご祖父に事情を話し王都邸の予算に上限を設けた。

それでもアランブールの名は容易に借財を許す。ジーンは家名を汚すまいと、婚姻時に曾祖母から受け継いだ巨額の私財、そこからそれを支払っていく。まさにいたちごっこ。

その当時、ヨチヨチ歩き始めた僕は偵察気分でよく本館の方にまで出向いたものだ。
さすがのキツネたちも幼児の僕に警戒はしない。
そして知ったのだが、ミレイユには夫も子供もいた。つまりこれはダブル不貞だ。

けどそれは一つの事実を示している。ミレイユがジーンの立場を脅かす事は無いということ。
だから僕は、奴らが贅沢程度で満足しているのなら放っておこうと思っていた。


あの時までは。




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