僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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はじめてのおつかい

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離れを侍医一家にお貸ししたことで、僕は本邸の三階に居を移していた。
さーて、ここからがジーンの敵討ち本番である。

「ベルナール。お前はまだ幼い。母親の代わりが必要だ。そこで私はすでに馴染みのあるメイドの一人、ミレイユを妻に迎えることにした。母と思い存分に甘えるがいい」

まだあれからほんの一か月、追悼ミサが終わったばかりだというのに…コノヤロウ…
ということは、なーるほど。どうやらミレイユは無事に夫と離縁出来たらしい。ふむ…


「僕は次期伯爵です。平民位の女性を母とは呼べません。おじいさまにも叱られます」

そもそもお前も平民みたいなものだからな?

アシルは男爵家ので、伯爵家の婿でしかない。身分を問われれば一応貴族になるだろうが、正式な爵位は何ひとつ持ってない。この国ではお城の晩餐会に招待される資格だってないんだから!

「…それもそうだな。だが何かあれば言いなさい。母性の強いミレイユは幼いお前を助けてくれよう」

それ…は、あの巨大なオッ…パイのことかな?

「心配無用です。大先生のご家族が離れを使うことになりましたから。祖父、母、父、兄、疑似家族の代わりなら四人もいます。あっ、いっけなーい、お父様はここに居ましたね」

「…ベルナール、それなのだがどうしてお前はドクターの息子、セドリックを監査人になど指名したのだい?」

苦虫をつぶしたような顔。くぁー!いいねぇ。その顔見たかったよ。

「おじいさまから聞いてませんか?僕が家政の、特に財務の勉強をするためです。セドリックは経理に強いですから」

「言えば私が教えてやったものを…」
「おとうさまが教える?何をですか?」
「…」

おっとしまった。ついうっかり。

「だってぇ~、そういう細かいことはお母様の仕事ってお父様言ってらしたじゃないですかぁ~」
「そ、そうだったね」
「事務仕事なんてお父さまには似合わないですよぉ~」
「…そうだね…」

これでよし。


これはまだジーンが居た頃の、微笑ましい親子の会話だ。

「ねぇお父さまぁ?どうしてお父様は書斎にいてもお酒を飲む以外何にもしないんですかぁ?」

と聞いた僕に、

「それはね、お父様の仕事は社交場で人脈を作る事であって、ああいった細かく地道な仕事はお母様の仕事だからだよ」

と答えたアシルは

「わぁ!だからお父様はいつもきれいに着飾ってらっしゃるんですねぇ!」

という僕のイヤミに気付きもしないでドヤ顔をさらしていたっていう…馬鹿め。


と言う事で、奴らはこれでさらなる姑息な手段を考え出すだろうから、僕も負けじともう一つ盾を用意したいと思う。

その第二の盾とは…

ふっ、共通の敵を持つ人物。その名もミレイユの元夫だ。

離縁した、と言う事は、彼は不能の烙印をおされた気の毒な人物と言う事に他ならない。
え?決めつけるなって?

だって偶然彼が結婚無効にできるほどの近親者でした、っていうのは無理があるでしょ。
ならミレイユがとった方法は自ずと一つに絞られる。

ってことで…



この別館を侍医一家に貸し出すにあたり、ブルネットの髪が少し知的なリオネルは僕の従者へ昇格している。元よりそのつもりだったので、おじいさまがそう言い出した時には手を叩いて喜んだものだ。

「リオネル。行きたいところがあるんだけど連れてってくれないかなぁ」
「ベル様。行きたいところってどこでしょうか?貴族街の焼き菓子屋とかですか?」
「ううん。庶民街」
「えっ!何をしに行かれるのか聞いても?」
「うーんと…見聞を広げるため、ってことで」

幸いにして僕は雇用者だ。ジーンの管理していたメイドの紹介状をみれば、ミレイユの元住所なんか丸わかりだ。

「それは…許可が出ないと思います。他のところではだめでしょうか?」
「リオネル。僕は次期伯爵ベルナールだよ。許可なんか必要ない。行くって決めたら行けるように計らうのが従者リオネルの役目だよ」

「わかりました。父さんに相談して来ます」

商人の子だった前世と違い、貴族の子である今世では、おいそれと庶民街へ出向くことは出来ないのが現実である。そこを何とかするための手足、それが彼らだ。

「ベル様。護衛を二人、それから父もついていくそうです」
「まあ仕方ないよね。それでいい」

「…ベル様って五歳でしたよね」
「そうだけど何?」
「いえ。私が知る五歳児とはかなり違うなと思いまして」
「リオネルはいくつだっけ?」
「十二です。ですがベル様は私よりも年上に感じられます」

…勘良いなリオネル。胡散臭げな視線。嫌いじゃないよ、そういうの。


そんなわけでやって来ました庶民街。
前世で僕が生きていたのはこの国じゃない。
だけど、貴族とかっていう名称じゃなくても身分制度はあったし、庶民街なんてのはどこへ行ってもそれほど大差はないものだ。

どこか懐かしさを感じる…埃っぽくて雑多な街の風景。
ぼんやりとした記憶。消えかかっていた過去がなんとなくだが思い出される。

そう言えば僕は上に二つ、下に五つの球がついた長細いなにかでお金の計算をしていた気がする…、あれは何だったんだろう…

まあそんなことはどうでもいいとして。

「リオネル、そこで停めてもらって」
「ここですか?あっ!ちょっと待ってください!ベル様降りないで!」

スタスタ「すみませんご婦人」
「なんだね貴族の坊ちゃん」
「この住所ってこの辺で当ってますか?」
「ああそうさね」
「じゃあパスカルって言う名の細工職人ご存じないですか?」
「パスカル!ククク…」

なに!この意味深な笑い!

「玉無しパスカルならその先の長屋に居るよ。なんだい坊ちゃん。パスカルに何の用だい?」

玉無しパスカル!!!

なんつーヒドイ呼び名…、こ、これが離縁の原因か…

ご婦人に銅貨を一枚握らせて話を聞いたところ、どうやらある晩パスカルは暴漢に襲われてひどく…その…ひどく急所を…つまり股間を…なんだ、思いっきり蹴り上げられたそうだ。おぉう!

いっせいに痛ましい顔つきになる護衛騎士とセドリック。わかるよ…今はまだ使い物にもならないこの僕にもあの辛さはわかるよ…

「父さんのことを笑い者にするな!」

大声で叫んだのは明るい茶髪が良く似合う一人の少年。歳は…僕とリオネルの中間ぐらいだろうか。けれどその拳はぶるぶると震えている。

「なんだいディディエ。笑い者になんかしちゃいないさ。本当のことを話しただけだろう」
「あれはあの女の仕業に決まってる!」
「ディディエ!あんた仮にも母親のことをあの女だなんて…」

「あの女はあの女だ!」

何たる幸運!この少年はミレイユの息子か!

「ちょっと君、まさにその女について話を聞かせてくれないかな」
「なんだお前…」

これが僕とディディエの出会いだった。





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