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二人目の協力者
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最初は警戒気味だったディディエだが、少し話すと言葉の雰囲気から僕を敵ではないとみなしたのか、僕たちを路地の奥にある彼らの住居、長屋(テラスハウスの庶民版ね)に案内してくれた。のだが…
長屋か…どこかで見たことがあるような…妙な懐かしさを感じる……
まあそんなことはどうでもいいとして。
「入れよ」
「お邪魔するね」
「…ディディエ。ベル様は次期アランブール伯爵となる高貴なお方だ。口の利き方に気をつけたまえ」
「アランブール…ってお前!あの女の主家の子供か!」
「ディディエ!」
「いいよリオネル。話が進まないから今日のところは」
護衛の騎士は長屋の外で不審者が近づかないよう見張っている。つまり今この狭い部屋には、僕とディディエ、リオネルとセドリックの四人しかいない。
僕はいよいよ僕の立ち位置を明らかにすることにした。
「はっきり言うね。ディディエ、僕は君と同じくあの女をあの女と思う立場だ。だからどうか僕のことを信じて欲しい」
「どういう意味だ…」
僕はついに三人の前で話して聞かせた。病に倒れた母親と、書斎で聞いた二人の会話、その悪辣さを。
「ひでぇ…あの女そんなことまで…」
「父は今でもあの時のことを悔やんでいる。だが医師である父はあの時あの場で苦しそうにもがいている若者を見捨てて行くことは出来なかったと仰っていた。だが屋敷には数日前に私が処方した熱さましが置いてあった。本当ならあれ程急激に容体が悪くなるはずはなかったのだ!」
「祖父はあのことで社交界での立場を失ったのです。それが仕組まれた企てだったなんて…何故あの時言わなかったんですかベル様」
「リオネル。この国には法がある。証拠の無い訴えは大体無視されるんだよ。ましてやそれが五歳児の言葉じゃ尚更ね」
「確かにな。こいつより年上の俺の言葉だって誰も信じちゃくれなかった」
「年上って…ディディエいくつ?」
「八歳だ」
大して変わらないじゃん…、言っとくけど年上だからね?それも相当な。
「そ、それよりディディエ、お父さんの身に何があったか教えてくれる?」
ディディエのお父さん、パスカル氏は腕の良い宝飾品の細工職人。といっても安月給で働く工房の下っ端職人だ。
彼らは貧しくも平凡な暮らしを営んでいたが、それを良しとしなかったのが彼の母親ミレイユである。
彼が二歳になる前、ミレイユは贅沢を求めある伯爵家へ勤めに出始めた。因みに伯爵家への紹介状も、ある商会の店主に色仕掛けで書かせたものだとか。
それ以来母親はどんどん派手になっていったという。身につける装飾品も分不相応なものが多くなっていったのだと。
「多分それはアシル氏の贈り物だろうね」
「母さんは初め週に一度休みを貰って帰って来てた。なのにあっという間にそれは二週になり月一になり、そのうち二か月に一度になり…しまいには帰ってこなくなった」
「どれくらい会ってないの?」
「もう四年は会ってない…」
顔を伏せるディディエ。どんな母親だったとしてもこんな話しをするのは決していい気分ではないだろう。
けど彼がこれほど素直に話すのは僕が同じ立場だからだ。
「そうしたら二か月ほど前の晩、父さんが治療院に運ばれたって近所の人が呼びに来たんだ」
「それが股間の…あーゴホ…ンンッ!…強打なんだね?」
何て痛ましい…同じ男として同情どころの騒ぎじゃない。見ろ!セドリック氏が涙ぐんでるじゃないか!
「父さんはしばらく家で静養してた。そうしたらある日教会から修道士が父さんの怪我の具合を確認に来て…」
「それで告げられたんだね。妻からの離縁の申し入れを」
ダン!
「なんでお屋敷から帰ってこないあの女が父さんのケガを知ってるんだよ!」
「そりゃぁ…仕組んだ本人だからだよ」
「クソ女!」
「全く以って同感だ」
「それで君の父親は?」
「今も仕事に行ってるよ。俺を食わせなきゃならないからって。けど工房でもここいらでもあれ以来笑い者にされて…うぅ…父さんが可哀想だ」
これは僕の出番かな。
「セドリック。おじいさまに連絡してパスカル氏をアランブール領地の鍛冶室で雇ってもらって」
「わかりました。ですがパスカル氏だけでよろしいのですか?」
「ディディエは僕が屋敷で雇う」
「なんですって!」
「い、いいのですかベル様…彼は息子ですよ?」
どうせ彼らはもう四年も会っていないのだ。四歳のディディエと八歳のディディエ。少し整えたらきっとミレイユには分からない。
彼女の知るディディエは貧しい庶民のチビガキでしかない。ディディエには気の毒だけど、四年も会いに来ないってのはそもそも関心が無いって事だよ。
「うんと磨いちゃおっと」
「ちょい待てよ。お、俺を屋敷で雇うのか…?」
「うんそう。仕返ししたくない?」
「仕返し…?ふ、復讐するのか…?」
「復讐と言うか…。僕はジ、…お母様の代わりにあいつらが何もかも失って惨めな人生を送るところを見届けたい。ディディエは?」
「…あの女が自慢にしてるあの顔が台無しになるところも見れるのか?」
「その予定。どうする?」
「お屋敷に行く。俺はあの女を絶対許さない」
僕はこの日、更なる手足を手に入れた。
長屋か…どこかで見たことがあるような…妙な懐かしさを感じる……
まあそんなことはどうでもいいとして。
「入れよ」
「お邪魔するね」
「…ディディエ。ベル様は次期アランブール伯爵となる高貴なお方だ。口の利き方に気をつけたまえ」
「アランブール…ってお前!あの女の主家の子供か!」
「ディディエ!」
「いいよリオネル。話が進まないから今日のところは」
護衛の騎士は長屋の外で不審者が近づかないよう見張っている。つまり今この狭い部屋には、僕とディディエ、リオネルとセドリックの四人しかいない。
僕はいよいよ僕の立ち位置を明らかにすることにした。
「はっきり言うね。ディディエ、僕は君と同じくあの女をあの女と思う立場だ。だからどうか僕のことを信じて欲しい」
「どういう意味だ…」
僕はついに三人の前で話して聞かせた。病に倒れた母親と、書斎で聞いた二人の会話、その悪辣さを。
「ひでぇ…あの女そんなことまで…」
「父は今でもあの時のことを悔やんでいる。だが医師である父はあの時あの場で苦しそうにもがいている若者を見捨てて行くことは出来なかったと仰っていた。だが屋敷には数日前に私が処方した熱さましが置いてあった。本当ならあれ程急激に容体が悪くなるはずはなかったのだ!」
「祖父はあのことで社交界での立場を失ったのです。それが仕組まれた企てだったなんて…何故あの時言わなかったんですかベル様」
「リオネル。この国には法がある。証拠の無い訴えは大体無視されるんだよ。ましてやそれが五歳児の言葉じゃ尚更ね」
「確かにな。こいつより年上の俺の言葉だって誰も信じちゃくれなかった」
「年上って…ディディエいくつ?」
「八歳だ」
大して変わらないじゃん…、言っとくけど年上だからね?それも相当な。
「そ、それよりディディエ、お父さんの身に何があったか教えてくれる?」
ディディエのお父さん、パスカル氏は腕の良い宝飾品の細工職人。といっても安月給で働く工房の下っ端職人だ。
彼らは貧しくも平凡な暮らしを営んでいたが、それを良しとしなかったのが彼の母親ミレイユである。
彼が二歳になる前、ミレイユは贅沢を求めある伯爵家へ勤めに出始めた。因みに伯爵家への紹介状も、ある商会の店主に色仕掛けで書かせたものだとか。
それ以来母親はどんどん派手になっていったという。身につける装飾品も分不相応なものが多くなっていったのだと。
「多分それはアシル氏の贈り物だろうね」
「母さんは初め週に一度休みを貰って帰って来てた。なのにあっという間にそれは二週になり月一になり、そのうち二か月に一度になり…しまいには帰ってこなくなった」
「どれくらい会ってないの?」
「もう四年は会ってない…」
顔を伏せるディディエ。どんな母親だったとしてもこんな話しをするのは決していい気分ではないだろう。
けど彼がこれほど素直に話すのは僕が同じ立場だからだ。
「そうしたら二か月ほど前の晩、父さんが治療院に運ばれたって近所の人が呼びに来たんだ」
「それが股間の…あーゴホ…ンンッ!…強打なんだね?」
何て痛ましい…同じ男として同情どころの騒ぎじゃない。見ろ!セドリック氏が涙ぐんでるじゃないか!
「父さんはしばらく家で静養してた。そうしたらある日教会から修道士が父さんの怪我の具合を確認に来て…」
「それで告げられたんだね。妻からの離縁の申し入れを」
ダン!
「なんでお屋敷から帰ってこないあの女が父さんのケガを知ってるんだよ!」
「そりゃぁ…仕組んだ本人だからだよ」
「クソ女!」
「全く以って同感だ」
「それで君の父親は?」
「今も仕事に行ってるよ。俺を食わせなきゃならないからって。けど工房でもここいらでもあれ以来笑い者にされて…うぅ…父さんが可哀想だ」
これは僕の出番かな。
「セドリック。おじいさまに連絡してパスカル氏をアランブール領地の鍛冶室で雇ってもらって」
「わかりました。ですがパスカル氏だけでよろしいのですか?」
「ディディエは僕が屋敷で雇う」
「なんですって!」
「い、いいのですかベル様…彼は息子ですよ?」
どうせ彼らはもう四年も会っていないのだ。四歳のディディエと八歳のディディエ。少し整えたらきっとミレイユには分からない。
彼女の知るディディエは貧しい庶民のチビガキでしかない。ディディエには気の毒だけど、四年も会いに来ないってのはそもそも関心が無いって事だよ。
「うんと磨いちゃおっと」
「ちょい待てよ。お、俺を屋敷で雇うのか…?」
「うんそう。仕返ししたくない?」
「仕返し…?ふ、復讐するのか…?」
「復讐と言うか…。僕はジ、…お母様の代わりにあいつらが何もかも失って惨めな人生を送るところを見届けたい。ディディエは?」
「…あの女が自慢にしてるあの顔が台無しになるところも見れるのか?」
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僕はこの日、更なる手足を手に入れた。
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