僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

文字の大きさ
9 / 80

小さな変化

しおりを挟む
いくら離れがおじいさまの持ち物で僕が大家の孫だとしても、彼らが住んでいる以上、そこはすでに使用人の居住区だ。
そして僕は伯爵家のお坊ちゃま。フラフラと頻繁に出入り出来ないのが玉に瑕ってね。(用があれば本館へ呼び付けるものだからね)
そんな理由から、同じ敷地に住まいながらも僕はディディエとそれほど顔を合わせられないでいた。

リオネルは本館三階に寝泊まりしているし、セドリックは本館に顔を出すから会う機会も多いけど…ディディエの顔を見るのは実に一か月ぶりだ。

「ディディエ、ディディエ」
「誰だ!な、なんだよ…お前か」

パシ!

「いって!」
「なんでございますか、でしょう!やり直し!」

なるほど。こりゃ確かに言葉使いは難有りだ。

「もう半年以上たつのにまだこんななの?ヤル気あんのディディエ」
「うるさいな…」

パシッ!
ペシッ!

おお、リオネルまで参加して二連打!

「ベルナール様になんてことを!」
「ディディエ、父親への恩情忘れたのか!」

「いってぇな…、…父さんのことは感謝してる。父さんからはあのことを知られてないアランブールの領地で平和に暮らしてるって手紙が来た」
「僕にもきたよ、お礼の手紙」

平民の親子は読み書きに問題がある。父親は領主邸の上級使用人に頼んで代筆してもらったようだ。そしてあのことはフワッと、子孫繁栄の宝、という表現でぼかされていた。
ということで、目の前のディディエも現在絶賛読み書きの特訓中ね。

…寺子屋にでも通っておけばいいものを…

はっ!寺子屋…?今僕は何を…

ま、そんなことはどうでもいいとして。



「だからって俺を上品な飼い犬に仕上げんのは無理があるだろ!」
「ディディエ…君はあの女に仕返ししたくないのか?」
「そうそう。他力じゃなく自力でさ」
「したいけどよ、こんなことめんどくせぇ。もっと他にあんだろ」

ピン!

「いて!お前までなにすんだよ」

鼻頭を弾いたぐらいで大袈裟な。

「仕返ししてディディエが不幸になるなら意味がないでしょ」
「なんで俺が不幸になるんだよ…」

ディディエは世の中を分ってない。なんだかんだ言ったってミレイユはあれでもすでに一応貴族側なのだ。

たとえ公衆の面前で悪行を全てぶちまけようが、引きずり出され嘲笑されるのはディディエの方だ。
ましてや暴力になんかにでようものなら…、罪に問われてディディエの将来はお先真っ暗。まともな職にもありつけず、物乞いか野垂れ死ぬ未来しか見えない。

そう説明してもなにやらブツブツ言っていたが、なんとなく想像は出来たのだろう。徐々に口調は大人しくなった。

「下品な仕返しは僕の流儀じゃない。もっとスマートにいこうよ」

そう。怒りや憎しみ、負の感情で動いても大抵の場合ろくなことにはならない。僕の経験がそう言っている。だからと言って奴らを赦せるほど僕は聖人じゃない。

「楽しむんだよディディエ。商い、ンン!仕返しは楽しくなくちゃ。生かさず殺さず、手のひらで転がしてほくそ笑むんだよ」
「…そりゃ楽しそうだ」

「ミレイユが君を見ても息子だってわからないぐらいにカッコよくなろう。いつか君の素性を知った時、心底後悔するぐらい魅力的な男に」
「そんで鼻で笑ってやるんだな?惨めに這いつくばるあいつを見下ろして「性悪狐を親に持った覚えはない」って」
「そうそう」
「わかった。……ならお前ももっと顔出せよ」

「は?」

「なんだディディエ。君はそんなことでへそを曲げていたのか」
「そんなんじゃねぇよ!」フイッ

か、かわいいな!

「え?もしかして僕がいないからヤル気出なかったの?」
「…お前が連れてきたんだからお前が責任持てよ!」

「ディディエ!」
「いいやリオネル。ディディエの言う通りだ」

うんそうだな。野良犬だって面倒見れないならエサやるなって言われるぐらいだ。ディディエをオルガ夫人に丸投げするのは僕が間違ってた。

「これから週に一度は来ることにするよ。その代わり試験だ。僕のお茶はディディエが淹れてね。僕は厳しいよ」
「分かったよ…」

自分で言っといて子供みたいで恥ずかしかったのだろうか。ディディエは照れくさそうにフイッとそっぽを向いた。

そのディディエは初めて会ったと比べてかなり磨き上げられている。…外身だけは。
父親の顔は見そびれたが、何てったってあのミレイユの息子だ。ディディエの容姿はそれなりに整っている。

明るい茶髪はあれからさらにスッキリと両側が刈り上げられ、真ん中部分は前髪にかけてクルクルと元気そうに踊っている。
前髪がやや目にかかっているのは顔を隠す意味があるのだろう。

缶詰だった肌はすっかり日焼けが抜けて白くなっているが、ほんのり残った赤い頬が彼の快活さを一段と引き立てている。

サラサラとしたブルネットを右から左に流し、後ろで小さな尻尾を作ったリオネルの髪もオルガ夫人の整髪だって話しだし、彼女とはイイ男の定義が似ているのかもしれない。

美男子予備軍二人が従者…ホクホク…

あ、あれ?そう言えば僕はどうしてイイ女ではなくイイ男にばかり目が行くのだろう?
前世の自分には間違いなく妻が居た。ならばこれは転生してからの現象…

う、うん。これはきっと僕がまだ幼児だからだ。かっこいいお兄ちゃんに、「あんな風になりたーい」みたいな憧れを抱いているだけだろう。そうに違いない。

その時感じた違和感こそが僕のセクシャリティを密かに予言していたのだが、それは一旦置いといて…も、いいかな?





しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しい私の話

あんど もあ
ファンタジー
王太子が真実の愛とか言って婚約破棄を宣言。廃太子と決まりました。おかげで妹の私に王太子になれと言われたのですが、不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しくて政略結婚の役にも立たないと言われていた私がですか?

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】恋ではなくなったとしても

ねるねわかば
恋愛
没落した貴族家の令嬢アリーネは、家族を支えるため王都の社交サロンで同伴者として働いていた。 十一年前、彼女は婚約者イアン・ハイモンドに切り捨てられ、家もまた鉱山問題によって没落の危機に陥った。 時が流れ、社交界で再会した二人は、依頼主と同伴者という関係で再び顔を合わせることになる。 接客のプロとして振る舞おうとするアリーネだが、整理したはずだった感情が騒ぎはじめ、揺れている心を自覚する。 一方イアンは、壮年の男爵に寄り添うアリーネを見て何を思うのか。 諦念、罪悪感、同情。長い年月を経て変質せざるを得なかった二人の想いが、再会によってまたその形を変えていく。 2万字くらいのお話です。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

【短編】『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました

あまぞらりゅう
恋愛
婚約者の王太子を、いつも待ち続けてきたシャルロッテ侯爵令嬢。 だがある日、彼女は知ってしまう。彼には本命の恋人がいて、自分のことを都合よく放置していただけなのだと。 彼女が待つのをやめた瞬間、追ってきたのは隣国の皇太子だった。 ※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています ★小説家になろう2026/1/29日間総合8位異世界恋愛7位 ★他サイト様にも投稿しています!

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜

あめとおと
恋愛
王太子から「魔法が何も起こらない役立たず」と断罪され、婚約破棄された伯爵令嬢リリア。 追放された彼女の能力は―― 魔法の“意味”を読み解き、術式そのものを理解する力《魔力翻訳》。 辺境の魔導研究所でその才能を見出された彼女は、 三百年解読不能だった古代魔法を次々と再生させていく。 一方、彼女を失った王都では魔法事故が連鎖。 国家結界すら崩壊寸前に――。 「戻ってきてほしい」 そう告げられても、もう遅い。 私を必要としてくれる場所は、 すでに別にあるのだから。 これは、役立たずと呼ばれた令嬢が 本当の居場所と理解者を見つける物語。

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

処理中です...