僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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遊山の日々

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穏やかに過ぎる領地での日々。
側近くに汚物が存在しない、醜悪なものが視界に入らない、それだけの事がこれほど心の安寧につながるとは…

誕生パーティは十日後、次期当主である僕は領地のことを熟知しなければならない。であれば貴重な空き時間は領内を散策するなどして使うのが良いのだろうが、今の僕は七歳児。先ずは遊びでしょうが。

そこで僕たちは勉強と称し山に入って狩りの真似事をしたり乗馬の訓練をしたりしながら充実した日々を送っていた。

先ず真っ先にしたのが屋敷の裏手側にある山中で遊ぶことだ。そこにはちょっとした滝や川があったりする。

となればすることは一つ。

「せーの!」
「止めろディディエ!ああっ!」

バッシャーン!

「いい加減にしろ!」
「いいだろ別に。なんだよリオネル。泳げないのか?」
「馬鹿を言うな!わっぷ!かけるな水を!」

水に戯れる二人の従者。絶景かな。良き良き。

この頃にはすっかり、『男同士の熱き友情、固き絆』を好ましく思う、自分の特殊な嗜好を認めるに至っていたのだが、認めてしまえばこれほど風雅なものはないとも感じていた。

「残念だったなベル様。足しか濡らせないなんて」
「仕方が無いよ。でも十分楽しんでるからおかまいなく」

二人が着用しているのは水着と呼ばれる下ばき一枚。いいぞ!もっと触れ合え!

「よーし、二人とも向こうの岸まで競争ね」

「ほう?いいですよ。子供のディディエには負けられませんね」
「なんだと!こっちこそ頭でっかちなリオネルには負けねーよ!」

「勝った方には御褒美ね。ヨーイドン!」

勝者はともかく、一番の御褒美を貰ったのは僕自身、ってね。

それから乗馬だ。
狩りは出来ても出来なくても困らない。だけど馬には乗れなきゃ現実問題非常に困る。

領地は広い。足がなければ話しにならない。けどいちいち馬車を出すのも面倒だ。
となれば小回りきくのは馬でしょ。

「かっ!こっ!こわっ!たかっ!」

「大丈夫ですか、ベル様」

用意してもらったのは一番小さな馬。それでもそれなりの高さだ。

王都のもやしっ子である僕に乗馬の経験はない。
だが荘園を管理する領主としては馬の一頭や二頭、乗りこなせなくてどうする!

と言うことで特訓中なのだが…

「リオネルは…」
「私は王都邸で教えていただいていますので」

そういえばそうだった。
「ご一緒に」と言われ、慎んでお断りしたっけ…

ディディエ…は同じ穴のムジナか…

「う、うわ!おち、落ちる!」

「ププ!ディディエ、どっちが先に乗りこなすか勝負ね」
「はあ?いいぜ、いいですよ。言っておくけど負けませんよ」

「これは面白い。ではあちらのかしの木をゴールと言うことで」

「は?」

「今日の競争はお二人でどうぞ」
「リオネルなに言って、待ってよ!」
「いいぜ!ベル様、負けませんよ!」

「よーい…スタート!」
「いくぜ!」

ああー!始まってしまった!

と、言ったところで…

ポク…ポク…ポク…

…これ歩いたほうが速いな…

パカッパカッパカッ

「お先に!」
「ディディエ!」

くっ!商売人たるもの易々と敗けは認めん!
そ、そうだ!ポケットの中には昼食のサラダから抜き取った人参が!

「大黒!これをやるから走れー!」

大黒、これは僕が命名した僕用の馬の名である。

「ヒヒヒーン!」

釣れた!やっぱり馬と犬はエサで釣るに限る!

パカッパカッ!

「おおっーと!前方に落馬中のディディエ発見!大黒抜かせー!」

「あっ!くそ!ランティス急げ!」

ここではっきりさせておこう。
全速力の二頭の馬。ずいぶん白熱した競争にみえるだろうが…これはリオネルが乗る馬の速足より遅いということを…

「ディディエ、ベル様、ゴールはもうすぐですよ。頑張ってくださいね。先に行って待ってますから」

パカラッパカラッ!

く、悔しい!

「先輩!俺はベル様に一銀貨!」
「なら俺はディディエだ!」

ご、護衛さん?
あほかー!主人で賭けるんじゃない!

抜きつ抜かれつの最終ライン!その差ほんの頭一つ分!

「あとちょっと!大黒負けるな!」
「ランティス!いっけー!」


「ゴール!勝者、ディディエ!」

「あああああ!」


と、頭を抱えて落ち込んだおかげで乗馬を克服したっていうね。


その数日後。

「今日は荘園をぐるりと見に行くんですね」
「ああ。私が案内しよう」

広い広いアランブールの荘園巡り、僕たちはおじいさまを筆頭に馬に乗って廻ることになった。

うーん、開放的!うん?おや?

「おじいさま、あれって…米ですか?」
「うむ、レッドライスのことか」

レッドライス…赤米か!
よく見れば穂先が赤い。

「あれは家畜の餌に育てているのだよ」

なに!もったいない…栄養価高いのに…
こう、白い飯に少ーし混ぜて炊きあげるとこれがなかなか…

はっ!僕は今何を…

だが身体が、本能が叫んでいる!白い米の飯を食べたいのだ!…と。
それもできたら茶色いなにがしかの液体で煮込んだ大根や里芋で…

僕は僕の勘を信じる!

「おじいさま、あの…ところで白い米は作らないのですか?」
「白いライスか。あれは異国から入ってきたばかりの希少なものでな」

異国伝来の大変珍しい食材、それがホワイトライスだ。
おじいさまは王宮の晩餐会でそれを食したことがあるという。
王宮のシェフはそれをクリーミーなリゾットにしていたらしいが…、僕はどちらかというともっちりした食感で食べてみたい。

「種籾があれば作れるんじゃないですか?」
「ライスが気になるのか?」
「ライスもですけど…」

欲しいのはその副産物だ。
米から得られるアレ…

米ヌカ。

あれは最高の自然派化粧水…断言してもいい。ぜったい売れる!馬鹿売れ確定だ!

はて…何故そう思うんだろう?でも何故か知ってるというか…売ってた…?


後に僕の希望を叶えてくださったおじいさまにより、このアランブールでは白い米がつくられることになる。そしてそれは『アランブールライス』としてこの領の特産品となり、この領地をますます潤すことになる。

また米ヌカを使った化粧水は、貴族の白い肌を甦らせる救世主とまで呼ばれ売れに売れて、精製したセドリックと出資者の僕に大いなる恵みをもたらすのだが、それはまた別のお話。




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