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学習の日々
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古城に出資者と書いてカモ、を集めての投資会社主催の勉強会は非常に上手くカモの背にネギを乗せたのだろう。王都邸へと戻った僕に、アシルは満面の笑みで追加融資を願い出ていた。
「なるほど…。ところで積みあがった融資額はすでに大変なことになってますが、お父様…これ以上増やして大丈夫ですか?」
「ん?ああ、そのことか。何も問題はないよ」
「問題無いですか…」
「あと数年でお前には借りたものどころか倍の小遣いをやろう」
「はぁーい。お小遣いかぁ…楽しみだなぁ」
それって差し押さえのこと?足りないよ?
「ははっ、無邪気なものだベルナール」
その言葉、そっくりそちらにお返ししよう…
そして古城での避暑で虚栄心を満たしたミレイユも今まで見たことないくらいご機嫌だ。
ホウ…「ベルナール様もいらしたらよかったのに。本当に素敵でしたのよ」
「…」
こういっちゃなんだが、アランブールに招待されたことのないお前さんは知らないだろうが、アランブールはもっと豪華な城なのだよ。
野暮なこたぁ言わないが…
「ホホホ、残念でしたわね」
「えー、そうなんだぁー、僕も行きたかったなぁー」
代りにこう言っておく。
そんな夫婦をしり目に僕たちは千秋楽に向けてボチボチ準備を始めていた。
アシルは腐っても僕の父親であり今後も親子関係は継続される。
そう、たとえ「投資に失敗した愚か者」とどれほど社交界で笑いものになったところで、罪人ではないため岡っ引きに連れていかれるわけでも島流しにあうわけでもない。ここが厄介なところだ。
「ふむ…どうやって屋敷から追い出すか…」
「おや?意外ですね。そんなことをお悩みですか」
「うん。どの演出が一番愉快かと思って…」
「ああ、そういう…」
「こう…粋な感じにしたいんだよね」
「イキ…、よくわかりませんが、ボストンに着替えをつめ玄関から外へ追い出し扉を閉め鍵をかけるのではいけませんか?他になにが必要でしょう」
リオネル、彼は効率主義なのが玉に瑕である。良くも悪くも。
このアシルだが、ろくでなしには違いないが、唯一の美点…といっていいのかどうかはわからないが、小心者の優男なのが幸いして粗暴なマネをしない男だ。
アランブールの名誉に関わるため、僕たちはこれまでもその点には留意をしてきたのだが、荒くれ者を雇って陰で悪事を働く…というどこぞのバカ旦那お決まりの真似もしなければ、使用人に手をあげる、といった胸の悪くなるような真似もアシルはしない。そういうことをしそうなのはミランダのほうだ。
…もっともそのミレイユの目を盗み綺麗な女性使用人に手を出そうとするのは日常茶飯事だったが。
とにかく。アシルは女と黄金色のお菓子が好きな、どこまでも軽薄が持ち味の男なのである。
おかげでお奉行に訴えることが出来そうにない。
「だからね、悪し様に罵って追い出す、って言うのもなんかこちらの品位が欠けるみたいで」
「なるほど」
殿上人としての気品を保ちながらぎゃふんと言わせる最も効果的な演出は何だ…
「リオネル、アシルが最も堪えるのはなんだと思う?」
「そうですね…、私の考えですが真の馬鹿とは己の不幸にすら気が付かないものです」
一理ある。根拠のない楽観視、それがアシルの八割を形作っている。
「アシル様の場合ですが、彼は無一文になることよりも女性から見向きもされなくなることこそ堪えるのではないでしょうか」
「はぁ?いくらなんでもまさか…」
待て!違うと言えるだろうか…
「いや、そ、そうなのかも…」
「なのでこんなのはどうです?」ヒソヒソヒソ
「ふんふん。じゃあこんなのは?」コソコソコソ
「さすがですベルナール様。まるで人生二度目かのように深い考察。勉強になります」
「あ、そう?参考になった?」
「ええ。下品になることなく派手な動きでなく、ですが最良を引き出すためには手間も暇も惜しまない。良いことを聞きました」
「…」
何か違う含みを感じるのは気のせいだろうか…
ま、まあいい。
気を取り直して、お次はディディエだ。
彼にはミレイユの持つ宝飾品に対し、父であり母でもあるパスカルの手で、一つづつ模造品を造らせていた。
「どれ。領地から届いたの見せて」
「どうだ?」
「おおー!」
「父さんは腕が良いんだ。それに王都の流行り物は父さんの居た工房で作られてた。意匠に覚えがあるってさ」
ミレイユが持つ宝飾品はそれほど高いものではない。
それでも庶民であれば手に出来なかったものであり、それらは全てアシルに嫁いでから夫の小遣いで買い入れたものだ。
当然アシルが破産すれば差し押さえになるわけだが、姑息なミレイユのことだ。どうにかして隠し持つんじゃなかろうか。
だが僅かな質草すらこの女には与えたくない。
それにディディエやパスカルにだって直接的な仕返しは必要だろう。
特にパスカルは自分の作った模造品でミレイユが窮地に陥ったとなればどれほど溜飲が下がるか。
だから僕はディディエに、ミレイユの持つ宝飾品の中でも値の張るものから順に模造品と取り替えていくよう命じたのだ。
が、これはディディエの教育を兼ねている。
一石二鳥。真の商売人とは一手でいくつもの利を計算するものだ。
ミレイユの宝石箱から一時的に品を取り出し模造品を作らせるために、ディディエはまずミレイユ付きのメイドたちを取り込み上手く使わねばならない。
これは執事の必須能力である人心掌握へとつながるだろう。
そして次に、その品をオルガ夫人、元子爵令嬢だったリオネルの母に見せ、大まかにだが価値を分別してもらわねばならない。
これは貴重品を扱う執事にとって審美眼を鍛えるいい勉強になるだろう。
またそれらをスケッチすることで美術の素養も磨かれるし、目録を作成することで在庫管理の基礎も学べるはずだ。
日々是修行、ディディエの先はまだまだ長い。
「なるほど…。ところで積みあがった融資額はすでに大変なことになってますが、お父様…これ以上増やして大丈夫ですか?」
「ん?ああ、そのことか。何も問題はないよ」
「問題無いですか…」
「あと数年でお前には借りたものどころか倍の小遣いをやろう」
「はぁーい。お小遣いかぁ…楽しみだなぁ」
それって差し押さえのこと?足りないよ?
「ははっ、無邪気なものだベルナール」
その言葉、そっくりそちらにお返ししよう…
そして古城での避暑で虚栄心を満たしたミレイユも今まで見たことないくらいご機嫌だ。
ホウ…「ベルナール様もいらしたらよかったのに。本当に素敵でしたのよ」
「…」
こういっちゃなんだが、アランブールに招待されたことのないお前さんは知らないだろうが、アランブールはもっと豪華な城なのだよ。
野暮なこたぁ言わないが…
「ホホホ、残念でしたわね」
「えー、そうなんだぁー、僕も行きたかったなぁー」
代りにこう言っておく。
そんな夫婦をしり目に僕たちは千秋楽に向けてボチボチ準備を始めていた。
アシルは腐っても僕の父親であり今後も親子関係は継続される。
そう、たとえ「投資に失敗した愚か者」とどれほど社交界で笑いものになったところで、罪人ではないため岡っ引きに連れていかれるわけでも島流しにあうわけでもない。ここが厄介なところだ。
「ふむ…どうやって屋敷から追い出すか…」
「おや?意外ですね。そんなことをお悩みですか」
「うん。どの演出が一番愉快かと思って…」
「ああ、そういう…」
「こう…粋な感じにしたいんだよね」
「イキ…、よくわかりませんが、ボストンに着替えをつめ玄関から外へ追い出し扉を閉め鍵をかけるのではいけませんか?他になにが必要でしょう」
リオネル、彼は効率主義なのが玉に瑕である。良くも悪くも。
このアシルだが、ろくでなしには違いないが、唯一の美点…といっていいのかどうかはわからないが、小心者の優男なのが幸いして粗暴なマネをしない男だ。
アランブールの名誉に関わるため、僕たちはこれまでもその点には留意をしてきたのだが、荒くれ者を雇って陰で悪事を働く…というどこぞのバカ旦那お決まりの真似もしなければ、使用人に手をあげる、といった胸の悪くなるような真似もアシルはしない。そういうことをしそうなのはミランダのほうだ。
…もっともそのミレイユの目を盗み綺麗な女性使用人に手を出そうとするのは日常茶飯事だったが。
とにかく。アシルは女と黄金色のお菓子が好きな、どこまでも軽薄が持ち味の男なのである。
おかげでお奉行に訴えることが出来そうにない。
「だからね、悪し様に罵って追い出す、って言うのもなんかこちらの品位が欠けるみたいで」
「なるほど」
殿上人としての気品を保ちながらぎゃふんと言わせる最も効果的な演出は何だ…
「リオネル、アシルが最も堪えるのはなんだと思う?」
「そうですね…、私の考えですが真の馬鹿とは己の不幸にすら気が付かないものです」
一理ある。根拠のない楽観視、それがアシルの八割を形作っている。
「アシル様の場合ですが、彼は無一文になることよりも女性から見向きもされなくなることこそ堪えるのではないでしょうか」
「はぁ?いくらなんでもまさか…」
待て!違うと言えるだろうか…
「いや、そ、そうなのかも…」
「なのでこんなのはどうです?」ヒソヒソヒソ
「ふんふん。じゃあこんなのは?」コソコソコソ
「さすがですベルナール様。まるで人生二度目かのように深い考察。勉強になります」
「あ、そう?参考になった?」
「ええ。下品になることなく派手な動きでなく、ですが最良を引き出すためには手間も暇も惜しまない。良いことを聞きました」
「…」
何か違う含みを感じるのは気のせいだろうか…
ま、まあいい。
気を取り直して、お次はディディエだ。
彼にはミレイユの持つ宝飾品に対し、父であり母でもあるパスカルの手で、一つづつ模造品を造らせていた。
「どれ。領地から届いたの見せて」
「どうだ?」
「おおー!」
「父さんは腕が良いんだ。それに王都の流行り物は父さんの居た工房で作られてた。意匠に覚えがあるってさ」
ミレイユが持つ宝飾品はそれほど高いものではない。
それでも庶民であれば手に出来なかったものであり、それらは全てアシルに嫁いでから夫の小遣いで買い入れたものだ。
当然アシルが破産すれば差し押さえになるわけだが、姑息なミレイユのことだ。どうにかして隠し持つんじゃなかろうか。
だが僅かな質草すらこの女には与えたくない。
それにディディエやパスカルにだって直接的な仕返しは必要だろう。
特にパスカルは自分の作った模造品でミレイユが窮地に陥ったとなればどれほど溜飲が下がるか。
だから僕はディディエに、ミレイユの持つ宝飾品の中でも値の張るものから順に模造品と取り替えていくよう命じたのだ。
が、これはディディエの教育を兼ねている。
一石二鳥。真の商売人とは一手でいくつもの利を計算するものだ。
ミレイユの宝石箱から一時的に品を取り出し模造品を作らせるために、ディディエはまずミレイユ付きのメイドたちを取り込み上手く使わねばならない。
これは執事の必須能力である人心掌握へとつながるだろう。
そして次に、その品をオルガ夫人、元子爵令嬢だったリオネルの母に見せ、大まかにだが価値を分別してもらわねばならない。
これは貴重品を扱う執事にとって審美眼を鍛えるいい勉強になるだろう。
またそれらをスケッチすることで美術の素養も磨かれるし、目録を作成することで在庫管理の基礎も学べるはずだ。
日々是修行、ディディエの先はまだまだ長い。
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