33 / 81
新たなる道
しおりを挟む
「リオネル、セドリック、ご苦労様。首尾は?」
「はい。万事つつがなく」
投資会社の首謀者たちはリオネルたちがまとめた被害者の一団によって裁判所に突き出された。
そして裁判官の決定により最も被害の甚大だったアシル、もとい代理のおじいさまにその処遇は一任されたのだが、……裏で手を回したことはいうまでもない。
そうして僕は計画通り、奴らから押収した財を被害者に配っていった。もちろんアシルの分は勘定に入れずだ。
「おお!最も大きな被害にあいながらなんという度量!」
「その当事者である婿すら放逐で許したそうだ」
この行いによりますますアランブールの名声は高まり、アシルがアランブールより縁切りされたことも、社交界では「自業自得」と周知された。
訪れた静かなる日々…もうこの屋敷のどこからも、癇に障る甲高い声は聞こえてこない。
後始末に追われバタバタと過ごすうちに僕は十一歳の誕生日を迎えていた。
「あーあ、忙しすぎて今年は領地にお邪魔できなかったな。残念」
「ですがささやかな贈り物が届いております。差出人はフラン。アルデンヌ伯爵のご子息です」
「ああ」
石の愛好家くんね。
「何贈ってきたの?」
「石ですね」
「石か…」
ぶれないな…
「…って、デカイ!」
「どうしましょうか、これ」
「どうもこうも…いや待て」
この色、形…うむ。
領地の山には松もあったはずだ…。良い枝ぶりの松を根付かせ後はどこからかサラサラとした白砂を運ばせれば…
枯山水!
「リオネル、その石だけど庭に運ばせて。それからディディエ、フラン君を呼んでくれる?」
僕と同じ年のフラン君は王都在住である。成年前の彼は王都の外へ自由気ままに出かけることはまだ出来ない。
けれど国中を旅して歩く現当主、父親からの旅土産としてそれぞれの領で採れる石を貰っている。
安上がりだな…
とにかく、その際に父親からそれぞれの石の背景なんかも話を聞いており、ぽやっとしているようで知識は豊富だ。
僕は彼から理想的な庭石の在りか、白砂の在りかを尋ねるつもりでいた。
そして三日後、心癒される真綿のような主従、フラン君とシーモア君が訪れた。
僕からの要請に嬉々としてその知識を披露する石の主。それを微笑ましく見守りながら阿吽の呼吸で相槌をうつ従者。
「それでね、海岸沿いのスカルポン男爵領ならベルナール様がお望みのとても素敵な石が手に入ると思うんだよ」
「ふふ、波によって自然の造形がなされるのですね」
「そう!その通りだよシーモア!」
「博識でいらっしゃいますねフラン様は」
テレ「そう言ってくれるのはシーモアだけだよ…」
「…」ホクホク
うむ。幼いながら完成された主従だ。このままなにものにも染まらず手本のような静の主従として育ってほしい…
すると雑談の中でシーモア君がこんな事を呟いた。
「そう言えばセドリック様は調薬の傍ら化粧品を調剤されているのですね」
「そうだよ。僕の指示でね」
この頃になると、度重なる僕の齢に似合わぬ言動行動のせいで、セドリックもおじいさまも僕に管財人は必要ないのではなかろうか…と考え始めていた。
ついでに言うと先日おばあさまから届いた手紙には、……、要約すると「心強いが可愛げが無い」と書かれていた。実に申し訳ない。
アシル亡き今(死んでない)セドリックの役職〝管財人”とはすでに名目だけだ。彼には大掃除の後、本来の仕事である調薬、化粧品の調剤に専念してもらっている。
そうして出来上がったそれらは〝セドリック美容商会”の名ですでに市場へ出ており、セドリックを助け商会の経営に関わっているのがリオネルだ。
僕はいずれリオネルに持たせたスパイスの商会も含め、それらを統合した大商会を設立しようと考えている。
前世の店は地回り問屋。なれば今世も西から東から名品を集め、行く行くは百の品物を扱う〝百貨”の店をこの王都に構えるのだ!
これぞ富の王!
…おっといけない、脱線した。
「西のタシェ領では鉛が採れるのですよ。確か白粉の原料は鉛でしたね」
「ええまあ。ですがセドリックの商会では僕の指示で米の粉を白粉に使っています」
「米の粉ですか…」
「母があれはつきが悪いと言っておりましたよ、ベル様」
「それも含めて実験だから」
へちま、ローズマリー、米の粉、紅は紅花、僕が扱うのは自然派化粧品だ。
「では鉛の取引はなさらないのですか?」
「鉛ねぇ…」
うーん、前世の僕は様々な品を扱っていたが化粧品にまでそれほど詳しいわけではない。そもそも僕は白粉に縁のない男だ。
そのため意識が逸れていたが、前の世も今の世も、女性の化粧とは深刻な健康被害を伴っている。
その大きな原因と前世で考えられていたのがこの鉛だ。
この国では未だ問題視されていないようだが、前世の僕が知る限り、秋島津の国では「鉛の白粉は幽霊になる」と、花街界隈から声が上がり始めていた。
幽霊…これは鉛の白粉を使い続けると顔が青白くなり、また手足の末端に力が入らなくなる、との現象から言われ始めた俗伝である。
だが確かにオルガ夫人のご友人も幾らか症状を示し大先生のもとを訪ねていたように思う。つまりこの国、コーニンレイク国でもお白粉化粧をする貴婦人に『幽霊』は多いのじゃないか…
うむ。少し調べる必要がある。
もっとも前世も今世も白粉、紅とは高価なもの。使用するのは富を持つものだ。(庶民は化粧なんぞ大してしない)
言うまでもない事だが富を持つものほど我が強い。そして青白い顔こそ貴族の高貴さを示す。
恐らくそれだからこそ、この世でもそれらはなかなか制限されないのだろう。
だが、もし鉛の有害性が確認されたとして、彼らにそれを止めさせるには代替品が、他の白粉が必要だ。そしてその安全な代替品を先んじて提供したものこそが化粧品販売の覇者となる。
これは…大いなる社会貢献ではないか?事の運びによっては殿との謁見さえ可能…
これぞまさしく、売り手よし買い手よし世間よし、三方よしの商売理念!
幸い僕には鉱石に詳しいフラン、調剤の出来るセドリック、そして医学研究の父、大先生が居る。
勝機は我にあり!
「はい。万事つつがなく」
投資会社の首謀者たちはリオネルたちがまとめた被害者の一団によって裁判所に突き出された。
そして裁判官の決定により最も被害の甚大だったアシル、もとい代理のおじいさまにその処遇は一任されたのだが、……裏で手を回したことはいうまでもない。
そうして僕は計画通り、奴らから押収した財を被害者に配っていった。もちろんアシルの分は勘定に入れずだ。
「おお!最も大きな被害にあいながらなんという度量!」
「その当事者である婿すら放逐で許したそうだ」
この行いによりますますアランブールの名声は高まり、アシルがアランブールより縁切りされたことも、社交界では「自業自得」と周知された。
訪れた静かなる日々…もうこの屋敷のどこからも、癇に障る甲高い声は聞こえてこない。
後始末に追われバタバタと過ごすうちに僕は十一歳の誕生日を迎えていた。
「あーあ、忙しすぎて今年は領地にお邪魔できなかったな。残念」
「ですがささやかな贈り物が届いております。差出人はフラン。アルデンヌ伯爵のご子息です」
「ああ」
石の愛好家くんね。
「何贈ってきたの?」
「石ですね」
「石か…」
ぶれないな…
「…って、デカイ!」
「どうしましょうか、これ」
「どうもこうも…いや待て」
この色、形…うむ。
領地の山には松もあったはずだ…。良い枝ぶりの松を根付かせ後はどこからかサラサラとした白砂を運ばせれば…
枯山水!
「リオネル、その石だけど庭に運ばせて。それからディディエ、フラン君を呼んでくれる?」
僕と同じ年のフラン君は王都在住である。成年前の彼は王都の外へ自由気ままに出かけることはまだ出来ない。
けれど国中を旅して歩く現当主、父親からの旅土産としてそれぞれの領で採れる石を貰っている。
安上がりだな…
とにかく、その際に父親からそれぞれの石の背景なんかも話を聞いており、ぽやっとしているようで知識は豊富だ。
僕は彼から理想的な庭石の在りか、白砂の在りかを尋ねるつもりでいた。
そして三日後、心癒される真綿のような主従、フラン君とシーモア君が訪れた。
僕からの要請に嬉々としてその知識を披露する石の主。それを微笑ましく見守りながら阿吽の呼吸で相槌をうつ従者。
「それでね、海岸沿いのスカルポン男爵領ならベルナール様がお望みのとても素敵な石が手に入ると思うんだよ」
「ふふ、波によって自然の造形がなされるのですね」
「そう!その通りだよシーモア!」
「博識でいらっしゃいますねフラン様は」
テレ「そう言ってくれるのはシーモアだけだよ…」
「…」ホクホク
うむ。幼いながら完成された主従だ。このままなにものにも染まらず手本のような静の主従として育ってほしい…
すると雑談の中でシーモア君がこんな事を呟いた。
「そう言えばセドリック様は調薬の傍ら化粧品を調剤されているのですね」
「そうだよ。僕の指示でね」
この頃になると、度重なる僕の齢に似合わぬ言動行動のせいで、セドリックもおじいさまも僕に管財人は必要ないのではなかろうか…と考え始めていた。
ついでに言うと先日おばあさまから届いた手紙には、……、要約すると「心強いが可愛げが無い」と書かれていた。実に申し訳ない。
アシル亡き今(死んでない)セドリックの役職〝管財人”とはすでに名目だけだ。彼には大掃除の後、本来の仕事である調薬、化粧品の調剤に専念してもらっている。
そうして出来上がったそれらは〝セドリック美容商会”の名ですでに市場へ出ており、セドリックを助け商会の経営に関わっているのがリオネルだ。
僕はいずれリオネルに持たせたスパイスの商会も含め、それらを統合した大商会を設立しようと考えている。
前世の店は地回り問屋。なれば今世も西から東から名品を集め、行く行くは百の品物を扱う〝百貨”の店をこの王都に構えるのだ!
これぞ富の王!
…おっといけない、脱線した。
「西のタシェ領では鉛が採れるのですよ。確か白粉の原料は鉛でしたね」
「ええまあ。ですがセドリックの商会では僕の指示で米の粉を白粉に使っています」
「米の粉ですか…」
「母があれはつきが悪いと言っておりましたよ、ベル様」
「それも含めて実験だから」
へちま、ローズマリー、米の粉、紅は紅花、僕が扱うのは自然派化粧品だ。
「では鉛の取引はなさらないのですか?」
「鉛ねぇ…」
うーん、前世の僕は様々な品を扱っていたが化粧品にまでそれほど詳しいわけではない。そもそも僕は白粉に縁のない男だ。
そのため意識が逸れていたが、前の世も今の世も、女性の化粧とは深刻な健康被害を伴っている。
その大きな原因と前世で考えられていたのがこの鉛だ。
この国では未だ問題視されていないようだが、前世の僕が知る限り、秋島津の国では「鉛の白粉は幽霊になる」と、花街界隈から声が上がり始めていた。
幽霊…これは鉛の白粉を使い続けると顔が青白くなり、また手足の末端に力が入らなくなる、との現象から言われ始めた俗伝である。
だが確かにオルガ夫人のご友人も幾らか症状を示し大先生のもとを訪ねていたように思う。つまりこの国、コーニンレイク国でもお白粉化粧をする貴婦人に『幽霊』は多いのじゃないか…
うむ。少し調べる必要がある。
もっとも前世も今世も白粉、紅とは高価なもの。使用するのは富を持つものだ。(庶民は化粧なんぞ大してしない)
言うまでもない事だが富を持つものほど我が強い。そして青白い顔こそ貴族の高貴さを示す。
恐らくそれだからこそ、この世でもそれらはなかなか制限されないのだろう。
だが、もし鉛の有害性が確認されたとして、彼らにそれを止めさせるには代替品が、他の白粉が必要だ。そしてその安全な代替品を先んじて提供したものこそが化粧品販売の覇者となる。
これは…大いなる社会貢献ではないか?事の運びによっては殿との謁見さえ可能…
これぞまさしく、売り手よし買い手よし世間よし、三方よしの商売理念!
幸い僕には鉱石に詳しいフラン、調剤の出来るセドリック、そして医学研究の父、大先生が居る。
勝機は我にあり!
641
あなたにおすすめの小説
【完結】恋ではなくなったとしても
ねるねわかば
恋愛
没落した貴族家の令嬢アリーネは、家族を支えるため王都の社交サロンで同伴者として働いていた。
十一年前、彼女は婚約者イアン・ハイモンドに切り捨てられ、家もまた鉱山問題によって没落の危機に陥った。
時が流れ、社交界で再会した二人は、依頼主と同伴者という関係で再び顔を合わせることになる。
接客のプロとして振る舞おうとするアリーネだが、整理したはずだった感情が騒ぎはじめ、揺れている心を自覚する。
一方イアンは、壮年の男爵に寄り添うアリーネを見て何を思うのか。
諦念、罪悪感、同情。長い年月を経て変質せざるを得なかった二人の想いが、再会によってまたその形を変えていく。
2万字くらいのお話です。
不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しい私の話
あんど もあ
ファンタジー
王太子が真実の愛とか言って婚約破棄を宣言。廃太子と決まりました。おかげで妹の私に王太子になれと言われたのですが、不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しくて政略結婚の役にも立たないと言われていた私がですか?
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【短編】『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました
あまぞらりゅう
恋愛
婚約者の王太子を、いつも待ち続けてきたシャルロッテ侯爵令嬢。
だがある日、彼女は知ってしまう。彼には本命の恋人がいて、自分のことを都合よく放置していただけなのだと。
彼女が待つのをやめた瞬間、追ってきたのは隣国の皇太子だった。
※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています
★小説家になろう2026/1/29日間総合8位異世界恋愛7位
★他サイト様にも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる