僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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新たなる道

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「リオネル、セドリック、ご苦労様。首尾は?」
「はい。万事つつがなく」

投資会社の首謀者たちはリオネルたちがまとめた被害者の一団によって裁判所に突き出された。

そして裁判官の決定により最も被害の甚大だったアシル、もとい代理のおじいさまにその処遇は一任されたのだが、……裏で手を回したことはいうまでもない。

そうして僕は計画通り、奴らから押収した財を被害者に配っていった。もちろんアシルの分は勘定に入れずだ。

「おお!最も大きな被害にあいながらなんという度量!」
「その当事者である婿すら放逐で許したそうだ」

この行いによりますますアランブールの名声は高まり、アシルがアランブールより縁切りされたことも、社交界では「自業自得」と周知された。



訪れた静かなる日々…もうこの屋敷のどこからも、癇に障る甲高い声は聞こえてこない。




後始末に追われバタバタと過ごすうちに僕は十一歳の誕生日を迎えていた。

「あーあ、忙しすぎて今年は領地にお邪魔できなかったな。残念」
「ですがささやかな贈り物が届いております。差出人はフラン。アルデンヌ伯爵のご子息です」
「ああ」

石の愛好家くんね。

「何贈ってきたの?」
「石ですね」
「石か…」

ぶれないな…

「…って、デカイ!」
「どうしましょうか、これ」
「どうもこうも…いや待て」

この色、形…うむ。
領地の山には松もあったはずだ…。良い枝ぶりの松を根付かせ後はどこからかサラサラとした白砂を運ばせれば…

枯山水!

「リオネル、その石だけど庭に運ばせて。それからディディエ、フラン君を呼んでくれる?」




僕と同じ年のフラン君は王都在住である。成年前の彼は王都の外へ自由気ままに出かけることはまだ出来ない。
けれど国中を旅して歩く現当主、父親からの旅土産としてそれぞれの領で採れる石を貰っている。

安上がりだな…

とにかく、その際に父親からそれぞれの石の背景なんかも話を聞いており、ぽやっとしているようで知識は豊富だ。
僕は彼から理想的な庭石の在りか、白砂の在りかを尋ねるつもりでいた。





そして三日後、心癒される真綿のような主従、フラン君とシーモア君が訪れた。

僕からの要請に嬉々としてその知識を披露する石の主。それを微笑ましく見守りながら阿吽の呼吸で相槌をうつ従者。

「それでね、海岸沿いのスカルポン男爵領ならベルナール様がお望みのとても素敵な石が手に入ると思うんだよ」
「ふふ、波によって自然の造形がなされるのですね」
「そう!その通りだよシーモア!」
「博識でいらっしゃいますねフラン様は」
テレ「そう言ってくれるのはシーモアだけだよ…」

「…」ホクホク

うむ。幼いながら完成された主従だ。このままなにものにも染まらず手本のような静の主従として育ってほしい…

すると雑談の中でシーモア君がこんな事を呟いた。

「そう言えばセドリック様は調薬の傍ら化粧品を調剤されているのですね」
「そうだよ。僕の指示でね」

この頃になると、度重なる僕の齢に似合わぬ言動行動のせいで、セドリックもおじいさまも僕に管財人は必要ないのではなかろうか…と考え始めていた。
ついでに言うと先日おばあさまから届いた手紙には、……、要約すると「心強いが可愛げが無い」と書かれていた。実に申し訳ない。

アシル亡き今(死んでない)セドリックの役職〝管財人”とはすでに名目だけだ。彼には大掃除の後、本来の仕事である調薬、化粧品の調剤に専念してもらっている。

そうして出来上がったそれらは〝セドリック美容商会”の名ですでに市場へ出ており、セドリックを助け商会の経営に関わっているのがリオネルだ。
僕はいずれリオネルに持たせたスパイスの商会も含め、それらを統合した大商会を設立しようと考えている。

前世の店は地回り問屋。なれば今世も西から東から名品を集め、行く行くは百の品物を扱う〝百貨”の店をこの王都に構えるのだ!

これぞ富の王エドマンド

…おっといけない、脱線した。

「西のタシェ領では鉛が採れるのですよ。確か白粉の原料は鉛でしたね」
「ええまあ。ですがセドリックの商会では僕の指示で米の粉を白粉に使っています」

「米の粉ですか…」
「母があれはつきが悪いと言っておりましたよ、ベル様」
「それも含めて実験だから」

へちま、ローズマリー、米の粉、紅は紅花、僕が扱うのは自然派化粧品だ。

「では鉛の取引はなさらないのですか?」

「鉛ねぇ…」

うーん、前世の僕は様々な品を扱っていたが化粧品にまでそれほど詳しいわけではない。そもそも僕は白粉に縁のない男だ。
そのため意識が逸れていたが、前の世も今の世も、女性の化粧とは深刻な健康被害を伴っている。

その大きな原因と前世で考えられていたのがこの鉛だ。

この国では未だ問題視されていないようだが、前世の僕が知る限り、秋島津の国では「鉛の白粉は幽霊になる」と、花街界隈から声が上がり始めていた。

幽霊…これは鉛の白粉を使い続けると顔が青白くなり、また手足の末端に力が入らなくなる、との現象から言われ始めた俗伝である。

だが確かにオルガ夫人のご友人も幾らか症状を示し大先生のもとを訪ねていたように思う。つまりこの国、コーニンレイク国でもお白粉化粧をする貴婦人に『幽霊』は多いのじゃないか…

うむ。少し調べる必要がある。

もっとも前世も今世も白粉、紅とは高価なもの。使用するのは富を持つものだ。(庶民は化粧なんぞ大してしない)
言うまでもない事だが富を持つものほど我が強い。そして青白い顔こそ貴族の高貴さを示す。
恐らくそれだからこそ、この世でもそれらはなかなか制限されないのだろう。

だが、もし鉛の有害性が確認されたとして、彼らにそれを止めさせるには代替品が、他の白粉が必要だ。そしてその安全な代替品を先んじて提供したものこそが化粧品販売の覇者となる。

これは…大いなる社会貢献ではないか?事の運びによっては殿おうとの謁見さえ可能…

これぞまさしく、売り手よし買い手よし世間よし、三方よしの商売理念!

幸い僕には鉱石に詳しいフラン、調剤の出来るセドリック、そして医学研究の父、大先生が居る。


勝機は我にあり!








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