僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

文字の大きさ
58 / 81

落成の日

しおりを挟む
彼女なりに思うところがあったのだろう。
ディディエの正体を知ったミレイユからは、解毒もしていないのにすっかり毒気が抜けている。

「オルガ夫人、あとはよろしく頼みます」
「お任せください。ディディエのためにもなんとか助けてみせましょう」

身体の毒も抜いとかないとね。
大先生の見立てでは、一命は取り留めても寝たきりになるだろう、とのことだった。
気の毒だが身から出た錆。
せめて出所後の面倒は…

アシルに年金だけでも出させてやろうと思っている。
僕が出すと思った?まさか!


その治療の傍ら、彼女はディディエ相手に告白を始めた。

公共地区の入札、子供の僕に看破された計画、憤慨した男爵は今度こそ一泡吹かそうと、ミレイユが始めようとしていた美容サロンに水銀薬を持ち込んだ。

男爵はそこを訪れる貴婦人の口伝により、より高位の貴人へ人脈を拡げもっと大きなを商売しようとしていた。そして…

狙い通り、ついにがやってきたことに歓喜し、二人で祝杯をあげた事実も。

「これで間違いなく不敬罪、もしくは相当の罪に問えるでしょう」
「そう願いたいよ。で?ディディエの様子は?」
「落ち着いたものですよ。ミレイユの山場も越え一安心と言ったところでしょう。気にしていない素振りを装おっておりますが」

全く可愛い従者である。



男爵は弁護団を雇ったが、無罪放免とはとてもいかないだろう。

サロン開業時点で水銀が違法ではなかったことから、長期の禁固刑は難しいだろうというのが識者の見解である。
だからこそ僕は、実利のある罰金と国外追放を落としどころと推奨しておいたのだが、あとは法務院の判断に任せるのみ。

ミレイユは、牢の代わりに囚人用の救済院に入れられる。
彼女はこちらに有利な証言をしたことで減免されている。
そこで数年過ごした後放免されるのだが、その時ディディエがどうするかはまだわからない。
本人は「あとは知った事か」と嘯いていたが、リオネルが言うにはコリンヌさんに出所後の世話を頼んでいたとかいないとか。

「深入りする気はないようですが…放ってもおけないのでしょう、父親に似て優しい奴だ」
「誰かさんと大違いだね」
「お褒めいただきどうも」
「…」




こうして幕を閉じた男爵の一人芝居。
人々を苦しめる商いなど、たとえお天道様が許しても、天下の商人あきんどベルナール様は許さない。

裁判の行方を見守りながら、気がつけば僕は十六歳になっていた。





「成人おめでとうございますベルナール様!」
「あなたがまだ成年でなかったことに驚きを禁じ得ませぬよ」

「えー?いやだなぁ。こんなに無邪気であどけないのに」キュルルン

「ふっ」
「文句あるのリオネル」
「いえ」

実に生意気な従者である。

「重ねて百貨の店落成おめでとうございます!」
「いやー、ここまでの道のり楽ではありませんでしたよ」
「ダービー男爵の一件ですな」
「ですがようやくここまでこぎつけました。どうか隅々まで見ていってください」
「そうさせてもらいましょう」

ここは王都の貴族街。けれどアランブール邸ではなく公共地区の一角である。そう。つまり百貨の店だ。

本日はベルナール百貨店記念の落成式。(開店前に関係者とゲストを招いてお披露目する会だよ)
僕はここで成人初の誕生日を同時に行おうと思ったのだ。これぞ一世一代の大宴会!


「おじいさまようこそ」
「おお!これはなんという立派な施設だ。ベルナール案内を頼むよ」
「お任せください」



先ずは一階屋外。
ここは国の様々な領地から集めた特産品、名産品を紹介する一角である。
常設でなく一定期間の展示、販売とし、周期的に紹介する領地を切り替える予定だ。

「これによって行かずにしてその土地の郷土料理や文化を体験できる場を提供します。より強く興味を持った人々はその地へ遊山に向かうでしょう」
「ではその領もまた潤うのだな」
「そうです。『物産展』と名付けたここは各領の魅力を伝えるための場所となります。人の移住を促したり、認知度を高めたり」
「なんと素晴らしい試みだ…」

「一階二階の店には品位と高級感を備えた店舗だけを揃えております。これからはここが社交界の流行を牽引します」
「うむ」

「そして三階。こここそが文化芸術の発信地。新進気鋭の芸術家から古き良き伝統工芸家まで、即売の傍ら誰もが様々な美術に触れ心を磨く空間です」

「うむ。伝統的な技を失ってはならん。このような支援はそれらを伝え継ぐに大切なことだ」

「おじいさま、文化には新も旧もありません」
「そうだ。ここは名も無き芸術家の支援とも言える場所なのだな」

「試され得る場所でもありますよ。評価は売り上げと言うシビアな形で出ますから」
「そうだろうとも。だが機会を与える、それこそが大切なのだよ」

「最後が屋上!ここは家族の団欒となる屋上遊園です。この国の貴族は親子の触れ合いが少なすぎると思います。ここで思う存分子供と触れ合っていただきたい」

「ベルナール…」

涙ぐむおじいさま。彼は恐らく、僕がジーンへの思慕でこれを作ったと感じたのだろう。
……まあ、訂正する必要もないことだしそういうことにしておこう。

それよりも僕が気になったのは屋上遊園のベンチに腰掛ける、魂の抜けた一人の青年。

ディディエだ。









しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しい私の話

あんど もあ
ファンタジー
王太子が真実の愛とか言って婚約破棄を宣言。廃太子と決まりました。おかげで妹の私に王太子になれと言われたのですが、不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しくて政略結婚の役にも立たないと言われていた私がですか?

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

虐げられた令息の第二の人生はスローライフ

りまり
BL
 僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。  僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。  だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。  救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。  お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。        

処理中です...