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落成の日
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彼女なりに思うところがあったのだろう。
ディディエの正体を知ったミレイユからは、解毒もしていないのにすっかり毒気が抜けている。
「オルガ夫人、あとはよろしく頼みます」
「お任せください。ディディエのためにもなんとか助けてみせましょう」
身体の毒も抜いとかないとね。
大先生の見立てでは、一命は取り留めても寝たきりになるだろう、とのことだった。
気の毒だが身から出た錆。
せめて出所後の面倒は…
アシルに年金だけでも出させてやろうと思っている。
僕が出すと思った?まさか!
その治療の傍ら、彼女はディディエ相手に告白を始めた。
公共地区の入札、子供の僕に看破された計画、憤慨した男爵は今度こそ一泡吹かそうと、ミレイユが始めようとしていた美容サロンに水銀薬を持ち込んだ。
男爵はそこを訪れる貴婦人の口伝により、より高位の貴人へ人脈を拡げもっと大きなを商売しようとしていた。そして…
狙い通り、ついに公爵家の侍女がやってきたことに歓喜し、二人で祝杯をあげた事実も。
「これで間違いなく不敬罪、もしくは相当の罪に問えるでしょう」
「そう願いたいよ。で?ディディエの様子は?」
「落ち着いたものですよ。ミレイユの山場も越え一安心と言ったところでしょう。気にしていない素振りを装おっておりますが」
全く可愛い従者である。
男爵は弁護団を雇ったが、無罪放免とはとてもいかないだろう。
サロン開業時点で水銀が違法ではなかったことから、長期の禁固刑は難しいだろうというのが識者の見解である。
だからこそ僕は、実利のある罰金と国外追放を落としどころと推奨しておいたのだが、あとは法務院の判断に任せるのみ。
ミレイユは、牢の代わりに囚人用の救済院に入れられる。
彼女はこちらに有利な証言をしたことで減免されている。
そこで数年過ごした後放免されるのだが、その時ディディエがどうするかはまだわからない。
本人は「あとは知った事か」と嘯いていたが、リオネルが言うにはコリンヌさんに出所後の世話を頼んでいたとかいないとか。
「深入りする気はないようですが…放ってもおけないのでしょう、父親に似て優しい奴だ」
「誰かさんと大違いだね」
「お褒めいただきどうも」
「…」
こうして幕を閉じた男爵の一人芝居。
人々を苦しめる商いなど、たとえお天道様が許しても、天下の商人ベルナール様は許さない。
裁判の行方を見守りながら、気がつけば僕は十六歳になっていた。
「成人おめでとうございますベルナール様!」
「あなたがまだ成年でなかったことに驚きを禁じ得ませぬよ」
「えー?いやだなぁ。こんなに無邪気であどけないのに」キュルルン
「ふっ」
「文句あるのリオネル」
「いえ」
実に生意気な従者である。
「重ねて百貨の店落成おめでとうございます!」
「いやー、ここまでの道のり楽ではありませんでしたよ」
「ダービー男爵の一件ですな」
「ですがようやくここまでこぎつけました。どうか隅々まで見ていってください」
「そうさせてもらいましょう」
ここは王都の貴族街。けれどアランブール邸ではなく公共地区の一角である。そう。つまり百貨の店だ。
本日はベルナール百貨店記念の落成式。(開店前に関係者とゲストを招いてお披露目する会だよ)
僕はここで成人初の誕生日を同時に行おうと思ったのだ。これぞ一世一代の大宴会!
「おじいさまようこそ」
「おお!これはなんという立派な施設だ。ベルナール案内を頼むよ」
「お任せください」
先ずは一階屋外。
ここは国の様々な領地から集めた特産品、名産品を紹介する一角である。
常設でなく一定期間の展示、販売とし、周期的に紹介する領地を切り替える予定だ。
「これによって行かずにしてその土地の郷土料理や文化を体験できる場を提供します。より強く興味を持った人々はその地へ遊山に向かうでしょう」
「ではその領もまた潤うのだな」
「そうです。『物産展』と名付けたここは各領の魅力を伝えるための場所となります。人の移住を促したり、認知度を高めたり」
「なんと素晴らしい試みだ…」
「一階二階の店には品位と高級感を備えた店舗だけを揃えております。これからはここが社交界の流行を牽引します」
「うむ」
「そして三階。こここそが文化芸術の発信地。新進気鋭の芸術家から古き良き伝統工芸家まで、即売の傍ら誰もが様々な美術に触れ心を磨く空間です」
「うむ。伝統的な技を失ってはならん。このような支援はそれらを伝え継ぐに大切なことだ」
「おじいさま、文化には新も旧もありません」
「そうだ。ここは名も無き芸術家の支援とも言える場所なのだな」
「試され得る場所でもありますよ。評価は売り上げと言うシビアな形で出ますから」
「そうだろうとも。だが機会を与える、それこそが大切なのだよ」
「最後が屋上!ここは家族の団欒となる屋上遊園です。この国の貴族は親子の触れ合いが少なすぎると思います。ここで思う存分子供と触れ合っていただきたい」
「ベルナール…」
涙ぐむおじいさま。彼は恐らく、僕がジーンへの思慕でこれを作ったと感じたのだろう。
……まあ、訂正する必要もないことだしそういうことにしておこう。
それよりも僕が気になったのは屋上遊園のベンチに腰掛ける、魂の抜けた一人の青年。
ディディエだ。
ディディエの正体を知ったミレイユからは、解毒もしていないのにすっかり毒気が抜けている。
「オルガ夫人、あとはよろしく頼みます」
「お任せください。ディディエのためにもなんとか助けてみせましょう」
身体の毒も抜いとかないとね。
大先生の見立てでは、一命は取り留めても寝たきりになるだろう、とのことだった。
気の毒だが身から出た錆。
せめて出所後の面倒は…
アシルに年金だけでも出させてやろうと思っている。
僕が出すと思った?まさか!
その治療の傍ら、彼女はディディエ相手に告白を始めた。
公共地区の入札、子供の僕に看破された計画、憤慨した男爵は今度こそ一泡吹かそうと、ミレイユが始めようとしていた美容サロンに水銀薬を持ち込んだ。
男爵はそこを訪れる貴婦人の口伝により、より高位の貴人へ人脈を拡げもっと大きなを商売しようとしていた。そして…
狙い通り、ついに公爵家の侍女がやってきたことに歓喜し、二人で祝杯をあげた事実も。
「これで間違いなく不敬罪、もしくは相当の罪に問えるでしょう」
「そう願いたいよ。で?ディディエの様子は?」
「落ち着いたものですよ。ミレイユの山場も越え一安心と言ったところでしょう。気にしていない素振りを装おっておりますが」
全く可愛い従者である。
男爵は弁護団を雇ったが、無罪放免とはとてもいかないだろう。
サロン開業時点で水銀が違法ではなかったことから、長期の禁固刑は難しいだろうというのが識者の見解である。
だからこそ僕は、実利のある罰金と国外追放を落としどころと推奨しておいたのだが、あとは法務院の判断に任せるのみ。
ミレイユは、牢の代わりに囚人用の救済院に入れられる。
彼女はこちらに有利な証言をしたことで減免されている。
そこで数年過ごした後放免されるのだが、その時ディディエがどうするかはまだわからない。
本人は「あとは知った事か」と嘯いていたが、リオネルが言うにはコリンヌさんに出所後の世話を頼んでいたとかいないとか。
「深入りする気はないようですが…放ってもおけないのでしょう、父親に似て優しい奴だ」
「誰かさんと大違いだね」
「お褒めいただきどうも」
「…」
こうして幕を閉じた男爵の一人芝居。
人々を苦しめる商いなど、たとえお天道様が許しても、天下の商人ベルナール様は許さない。
裁判の行方を見守りながら、気がつけば僕は十六歳になっていた。
「成人おめでとうございますベルナール様!」
「あなたがまだ成年でなかったことに驚きを禁じ得ませぬよ」
「えー?いやだなぁ。こんなに無邪気であどけないのに」キュルルン
「ふっ」
「文句あるのリオネル」
「いえ」
実に生意気な従者である。
「重ねて百貨の店落成おめでとうございます!」
「いやー、ここまでの道のり楽ではありませんでしたよ」
「ダービー男爵の一件ですな」
「ですがようやくここまでこぎつけました。どうか隅々まで見ていってください」
「そうさせてもらいましょう」
ここは王都の貴族街。けれどアランブール邸ではなく公共地区の一角である。そう。つまり百貨の店だ。
本日はベルナール百貨店記念の落成式。(開店前に関係者とゲストを招いてお披露目する会だよ)
僕はここで成人初の誕生日を同時に行おうと思ったのだ。これぞ一世一代の大宴会!
「おじいさまようこそ」
「おお!これはなんという立派な施設だ。ベルナール案内を頼むよ」
「お任せください」
先ずは一階屋外。
ここは国の様々な領地から集めた特産品、名産品を紹介する一角である。
常設でなく一定期間の展示、販売とし、周期的に紹介する領地を切り替える予定だ。
「これによって行かずにしてその土地の郷土料理や文化を体験できる場を提供します。より強く興味を持った人々はその地へ遊山に向かうでしょう」
「ではその領もまた潤うのだな」
「そうです。『物産展』と名付けたここは各領の魅力を伝えるための場所となります。人の移住を促したり、認知度を高めたり」
「なんと素晴らしい試みだ…」
「一階二階の店には品位と高級感を備えた店舗だけを揃えております。これからはここが社交界の流行を牽引します」
「うむ」
「そして三階。こここそが文化芸術の発信地。新進気鋭の芸術家から古き良き伝統工芸家まで、即売の傍ら誰もが様々な美術に触れ心を磨く空間です」
「うむ。伝統的な技を失ってはならん。このような支援はそれらを伝え継ぐに大切なことだ」
「おじいさま、文化には新も旧もありません」
「そうだ。ここは名も無き芸術家の支援とも言える場所なのだな」
「試され得る場所でもありますよ。評価は売り上げと言うシビアな形で出ますから」
「そうだろうとも。だが機会を与える、それこそが大切なのだよ」
「最後が屋上!ここは家族の団欒となる屋上遊園です。この国の貴族は親子の触れ合いが少なすぎると思います。ここで思う存分子供と触れ合っていただきたい」
「ベルナール…」
涙ぐむおじいさま。彼は恐らく、僕がジーンへの思慕でこれを作ったと感じたのだろう。
……まあ、訂正する必要もないことだしそういうことにしておこう。
それよりも僕が気になったのは屋上遊園のベンチに腰掛ける、魂の抜けた一人の青年。
ディディエだ。
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