僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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明かされる時

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「聞いたかいコリンヌ。これからは『水銀』の扱いは全て禁止だとよ」
「もちろん知ってるわ。貴婦人たちがサロンから一斉に姿を消したもの。現金なものよね」

王からの勅命である『水銀の全面禁止』。そのお達しを受けミレイユ様のサロンはとうにクローズしている。

ミレイユ様にとっては茶会の代わりとも言える貴婦人を集めた社交の場。あれほど賑やかだったあのサロンにもう香水の匂いは漂わない…

そしてここ別邸で鼻の下を伸ばしていた紳士たち。寝込んだ彼女を気遣い顔を見せていた彼らもまた、一人去り二人去り、今では誰もミレイユ様のもとを訪れない。

あげく、パトロンであるバーリー男爵までが収監され、今ここには身の回りの世話をする私とコックのジャンしか残っていない。

「マダム…、可哀そうにな」
「この様子じゃ助からないわね…」

伯爵家の入り婿を篭絡した平民の元メイド。それが私の主人であるミレイユ様だ。
当時私は庶民出の若い夫人に仕えるコンパニオンとして、恐れ多くもアランブールのお屋敷にあがっていた。

始めてアランブールのお屋敷へ呼ばれ彼女にお会いしたのは何年前だろう。
彼女はとても淑女とは言い難い、振舞いにいろいろと問題のある女性だったが、私には飽きたブローチを下さったり、型落ちのドレスを下さったり、他の使用人に比べ好意的だったように思う。

だからこそアシル様と離縁しあの屋敷を去った彼女から、「もう一度仕えて欲しい」と呼ばれたあの時、私は笑顔でそれを引き受けた。

もちろんこの別邸で彼女が何をしていたかも知っている。
それでも世間の声がどうあれ、私にとってミレイユ様は良いお給金を下さる良い主人だった。

「なんだかんだで長い付き合いだもの。せめて最期は看取って差し上げたいわ…」
「コリンヌ、お前も大概人が良い。なあ、マダムを見送ったら所帯を持たないか」
「まぁ!」

ゴンゴン

「どなたかしら?今の別邸に来客なんて…あ、あら!あなたは!」

そこへ現れたのはディーン。アランブール邸に居たベルナール様付き従者の一人だ。

「やあコリンヌ夫人、久しぶり」
「なにをしにいらしたの?」
「ミレイユに…、マダムに会いたい。話をさせてほしい」

意外な見舞客。私は彼をミレイユ様の寝室へと連れて行った。



バタン…

「う…誰…」
「俺だよミレイユさん」
「…ディーン…久しぶりね…なによ…わたくしを笑いにきたの…」

返事を聞くに、ミレイユ様と彼には何か因縁があるらしい。

「もうわかってるだろう。あんたは今水銀で死にかけてる。見栄を捨てられなかったばかりにあんな男の口車に乗って…、あんたは馬鹿だよ」

「わざわざそんな事を言いにきたの…」

「…このままじゃあんたは死ぬ。知ってるか?役人があんたを捕まえに来ないのはどうせ死ぬのがわかってるからだ」

ケンカを売るようなディーンの物言いはミレイユ様の心に火をつけたのだろう。彼女はなけなしの力を振り絞り上体を起こす。

「だったらなによ…」
「解毒を受けろよ。セドリックのところで」

「い、いやよ!よりにもよってわたくしの夢を壊したセドリックの治療など受けるものですか!」

「あんたの夢ってなんだよ!ベル様の資産を奪うことか!」

「う、うう、うるさい!どうせもうわたくしは助からないのよ!これ以上惨めにさせないで!」

彼女はいつも「あのサロンはセドリックの店を潰すために作ったのよ」と嗤っていた。その相手に助けを乞うなどなさるはずがない。

「あんたが惨めだろうがなんだろうが関係ない!あんたは生きて償うべきだ!」
「償うですって…わたくしがなにをしたって言うのよ!わたくしはあそこに行きたかっただけよ!華やかで煌びやかなあの場所に…う、ゴホゴホ…」
「ミレイユ様!しっかり!」

「いいか!あんたのせいで大勢の女性が身体を壊した。今も麻痺に苦しむ人がいる。あんたには責任がある。証言するんだ!バーリー男爵が、自分たちが何をしたのか!」

そ、そうよね…。あの薬のせいでミレイユ様が死にかけてるなら他にも具合の悪い人はいるに違いない。サロンはいつも大盛況だった…

「いやよー!う、うぅ…いや…いやよ…」
「ミレイユ様…」
「コリンヌ、お願いよ…、ここの宝石全てをあげる、だからわたくしの骸は誰の目にも触れないようこっそり葬ってちょうだい…。わたくしを誰もが憧れた美しいマダム、ミレイユ・バタフライとして送ってちょうだい…お願いよ…うぅ…」

死を覚悟したミレイユ様を支えるのは今や意地だけ。けれどディーンが発した次の言葉は彼女の涙を一瞬にして止めた。

「死んでも償うつもりはないって言うんだな。迷惑をかけた貴婦人たちにも、…一瞥もせず捨てたあんたの夫と息子にも!」

「ディーン…あなた何言って…」

「俺が誰か本当にわからないのか!」

ディーンはおもむろにカールした少し長めの前髪をかきあげた。と、その額には小さな傷跡。
けれどその傷跡を見たミレイユ様は硬直し、その後小さく震えだす。

「その傷…も、もしや…あなた…あなたはディディエ!ディディエなの!」

「何年も同じ屋敷に居ながらよくあれだけ気付かないものだ。たった一人の息子に」

彼が彼女の息子だったなんて!でも良く見ればどこか面影がある…


「ディディエ…あ、あなたが…」
「よほど気がないんだな。どうでもいいけど」

「な、何故言わなかったの!あなたが証言してくれさえすればわたくしは離縁などされなかった!あの屋敷から追い出されはしなかったのに!」

「俺を捨てた奴をどうして手助けする必要がある!ふざけるな!」

「ぐ…」

「なあ、俺のことを一度も思い出さなかったのか?少しの罪悪感もなかったのか?あんたにとって俺は何だったんだ!」

「う…うぅう…」

「俺よりキレイなドレスの方が大事だったのか。俺より輝く宝石の方が好きだったのか。なぁ?貴婦人の仲間入りすることは俺の母親でいるより価値ある事だったのか」

「あ、あああ…」

顔を覆い号泣し始めるミレイユ様。けれどこの嗚咽は先ほどとは違うものだ。

「俺に少しでも悪いと思う気持ちがあるなら解毒を受けろ。そして償ってくれ」
「ディディエ…」

「俺を捨てた罰だ。あんたはその憐れな姿を人々に見せなきゃならない。未来への警告として。それがあんたに出来る唯一の謝罪だ…」

「罰…わたくしはそれほど酷いことをしたというの…?」
「…どう思う?」


それ以上ミレイユ様は何も言えなかった。





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