僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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屋上遊園の夜

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おじいさまをお偉いさんたちに預け、僕は目を輝かせて店内を見て回る、多くの紳士淑女、手に風船を持った子女たちに満足しながらリオネルと一息ついていた。

「リオネル、ところでディディエのあれ…大丈夫なの?」
「ええ。気が抜けているだけです、放っておきなさい」
「気が抜けた?どういう感情?」

「「あの女が自慢にしてるあの顔が台無しになるところも見れるのか」それがあの時ディディエの口にした言葉です。怒りはディディエにとって原動力でもありました。終着を迎えてホッとしているのか燃え尽きたのか…」

「けど三日後にはパスカルさんも来るんだよね。あれじゃ心配かけちゃうよ。それまでに魂入るかな?」

「全く手のかかる……仕方ない。せっかくの記念日だが今回は譲るか…」
「なんの話?」

「いいえ別に。それよりディディエに活を入れる方法をお教えしましょう。これはベル様にしか出来ないことです」
「僕だけ?」
「ええ。主人であるベル様だけに出来ることです」

「ふむ…」

主人にだけ、その言葉は魅惑の合言葉。
リオネルに言われるがまま、僕は宴もたけなわな中、陽が沈むのを待ってディディエを静かな屋上に誘うことにした。

屋上遊園は子供たちの遊戯場だ。ここは日暮れと共にどの屋台も閉店となる。

「なんだよベル様、こんなところに二人っきりで…」
「たまにはいいじゃない。ほら、そこ座って」
「な、なんだよ。ベル様隣に座るのか?」
「いいからほら。つめて」
「あ、うん」

温かな親子の絆を紡ぐ屋上遊園。今そこにいるのは形こそ違えど母親の愛を失なった同じ境遇のもと子供…

と言いたいところだが人生二度目の僕はそれほど感傷的じゃない。
そもそもジーンは母親と言っても、魂の年齢で言うと、過去の記憶がある分僕の方が年長だし。

「満願成就で気がぬけてるんだって?」
「そういうわけじゃ…」
「困るよディディエ、僕の満願はまだまだこれからなんだから」

「なんだよ。百貨の店で叶ったんじゃないのか?」
「まさか!むしろこれからだよ!」

むしろそっちが本命だよ!

「そのためにもディディエ、君にはもっと笑っててもらわないと!」

僕の衆道はクールなリオネルと無邪気なディディエ、その二人が彩なんだから!

「…俺が必要だって言うのか?」
「うんとても」
「リオネルほど役にもたたない俺が?」
「うん、君が」
「未だに品とやらも備わらない俺が?」
「ふふ」
「頑張ってるけどいまだに外国語も話せない俺が?」
「必要ない。僕が奥向きに望むのは気品や教養より倹約の心と使用人をまとめる気配り、そういった内助の功だよ。ディディエには十分備わってる。自信もっていい」

照れくさそうに顔をそむけるディディエ。こういうところが可愛いんだよね。自信満々のリオネルとは正反対だ。
だがまああれはあれで…。そしてこれはこれで…

「俺にはあの女の血が流れてる。それでも?」

ああそういう事か…

山場を越えたミレイユは息子の前でポツリポツリと感情を吐露している。

明日食べるご飯にも事欠く農村に産まれ、まだ十やそこらで口減らしのため王都の商家に下へ働きに出たこと。

そこでは三度の食事こそあったものの、給金もなく夜明けから陽が沈むまで休憩なしに扱き使われたこと。

年頃になってすぐ、商家の主人、そしてその息子と、立て続けに押し倒されたこと。
その時ミレイユは自分が男の劣情をそそる女なのだと自覚したらしい。

そんな時知り合ったのが商家へ納品に来た細工師のパスカル。
ミレイユはパスカルの持つ美しい銀細工を見て、うっかり本人の物だと勘違いしたのだとか。

商家を出たかったミレイユは自らパスカルに求婚し、そしてすぐにディディエを身籠ったが…

つましい暮らしの中で、こんなはずじゃなかった、当てが外れたという想いをどうしても消せなかったらしい。

「ミレイユの鬱屈した感情は理解した。同情もする。だけどその生き方を肯定は出来ないな」
「俺もいつかああなるかも」
「ならないよ」
「そんなの…分からないだろ?」

「ならないよ。ミレイユがこうなってしまったのはその穴が埋まらなかったからだ。ディディエの穴はいつだって僕が埋める。心配しなくていい」

まぁ…穴にも色々あるけど。

「…父さんは優しい人だけど…そうだな。人を変えられるような力はないかもな」
「そろそろパスカルのこと母さんって呼んであげたら」
「ハハッ」

いつもの笑顔。いつものディディエが戻ってきた。
ならダメ押しで…

「僕にとってディディエがどれ程必要な存在か、教えてあげようか」
「どうやって?」


リオネルに言われたディディエへの特効薬。それは「優しく抱きしめ頬にキスしてあげなさい」というもの。

キスがあいさつでもあるこの国において、頬へのキスとは親愛と信頼の証。そして何より…
〝自分のものである”という独占の証でもある!

独占上等!僕は主人、ディディエは丁稚。主従にとって信頼ありきの所有欲とはまさに絆の証!

未成年のうちは「あらあら、子供同士で可愛いらしい」などと、無邪気な子供の戯れで片付けられることを懸念し自粛していたが…

今の僕は晴れて成年!これはまごうこと無き所有のキス!!!

そして僕は人生二度目の大人。キス…つまり口吸い如きに動じるお子様ではない。

「こっちむいてディディエ」
「え…」

チュ

「……ベル様今の…」
「僕の気持ち。受け取ってほしい」
「け、けど俺はへい…」
「言わないでディディエ!」
「ベル様…」

教会の教えに従うこの国に男色を嗜む風雅な趣味人はいない。もっとも隠れキレシタン(秋島津の将軍は他宗教を禁じたんだよ)ならぬ隠れ男色は居たりするのだが…

チッ、この国にだって大昔には皇帝自ら男色を楽しんでいた時代もあったというに…くされ教会め…

「ディディエ、確かに僕たちは男同士だ。だからこそこれはより崇高な魂の結びつきだと、そう思うよ僕は」
「え、ああうん。そうじゃなくて俺はブルジョワジーですらない下町出の使用人だけどいいのか?」
「なんだそっちか」

まあパスカルがああだし、男色には免疫ついてるか。

「なんだってことはないだろ」
「出自など僕は気にしない。人はどこで生まれたかではなくどう生きたかだ。ディディエはミレイユのようにならなかった。それは十分賞賛に値する」

この世は世知辛い身分社会…だが本来〝成り上がり”こそ商人の心意気だと僕は思ってる!

「それはベル様やリオネルたちがいたから…」
「今の暮らしは何一つ強制されたものじゃない。あの時君はパスカルと領地に行くことを選びのんべんだらりと暮らすこともできた。それでもここで僕に仕えることを選んだでしょ?それで十分だ」

ベンチの横にはオイルを燃やす一本の街灯。その明かりに照らされたディディエは瞬きもせずジッと僕の瞳を覗き込んでいる。

「応えてくれるね、ディディエ」
「…ああ」

「え」

掴まれる肩。抱き寄せられる身体。からの勢い任せな口吸い!!!

「ん、ンン…」

こ、これは…

いや、口吸い自体には問題ないが、な、なにか腑に落ちないような…

何かおかしい…

おかしいか?ディディエは僕のもので唇への口吸いは成人になったらしようと決めていたことで…な、なにもおかしくないはずなのに…
なのにどうしてこう…違和感が拭えない。

いや。今は黙ってこの唇を味わうとしよう…

そう、今は…

…いや、やっぱ違和感!




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