僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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庭園広場の朝

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ベルナール百貨店は左右に広がる建物だが、その左右にはそれぞれ同じ種別の店が入っている。
何故左右に二つづつなのか、それらは価格帯によって店が分けられているからだ。


この国の身分は大別するとざっくり二つに分けられる。
それが貴族と平民だ。

けれど貴族が公爵から男爵まで段階があるように、平民の中にも段階がある。

まず最上位が上位労働者。いわゆるブルジョワジー。
これは富と地位と権力のある労働階級と言えばわかりやすいだろうか。
大きな資本をもつ商会主、銀行家、医者、法曹家、聖職者、役人などがここに属する。

次が中流労働者。
小さな店を営む者、ブルジョワジーの下で働く者、細工師や鍛冶師、芸術家なんかもここに属する。意外だが教師などもこの辺りだ。

この二階級に厳密な線引きは無く、富を築けばいつの間にかブルジョワジーと呼ばれる、その程度のものだ。

そして最後が下位労働者。
これはお屋敷の雑役婦(夫)や下男、人足といった、人がやりたがらない仕事であったり、身体を酷使する仕事であったり、いずれにしても負担の多い労働に従事する者たちである。
(因みに農業従事者はまた別枠ね)

百貨の店は貴族専用と決められているわけではないが、貴族街の中に位置することから暗黙のドレスコードがある。そう。百貨店とは少しお洒落して出かけるべき、特別な場所なのである。
必然的に中流、それも少し恵まれた中流以上が顧客層になるだろう。

労働階級の彼らと貴族層では求めるものが違う。品質、価値、話題性、当然価格帯も違う。

そこで左の棟にはブルジョワジー向けに廉価(といっても安くはない)の店を。
そこには中流労働者でも、特別な日には少し背伸びして買いたい品々が並べられている。

そして反対、右の棟には値段も価値も研ぎ澄まされた、貴族向けの素晴らしい逸品を取り扱う店。
ここは一店舗ごとにゆとりのある空間を持ち、まるで応接間サロンのような造りになっている。
担当者はこの飾り彫りの脚が見事なテーブルにこれぞいう品を並べ、紳士淑女はじっくりと時間をかけ、時に談笑しながら心行くまで吟味するのだ。


ということで…
覚えておいでだろうか。
アランブールの領地では、タウンゼント男爵と手を組み二級エメラルドの宝飾品を作らせていることを。
パスカルはその廉価宝飾品製造における責任者である。そこで開業初日に様子を見に来たんだよね。

そしてなにより、…彼はこの機会にミレイユの見舞いを希望している。

今でこそ公私共に充実しているパスカルさんだが、ミレイユが出ていった当初は四歳の子供を抱えてそれは大変だったことだろう。
恨み辛みの一つや二つ…

と思いきや、言わないのがパスカルさんなんだよねえ…

彼はこの期に及んで「彼女は可哀想な生い立ちの女性だから…」と同情してみせたのだ!

いやあ…善良な人物ほどつけこまれる、の典型じゃないか。
だから彼はあれだけの腕前を持ちながら工房主から搾取され、長屋での貧しい暮らしを強いられていたのだろう。

現在の伴侶、鍛冶師のアイザックもまた似た質の人種であるが、そんな彼らが僕はなんだかんだで嫌いじゃない。
アランブールの庇護ある限り、彼らの暮らしは安泰である。


ということで、今日のディディエはパスカル氏の専属案内係だ。
記念すべき開業初日。僕は夜明け前から浮足立って最早眠れ(二度寝)そうにない。

「リオネル、リオネル」
「う…ベル様。どうしましたこんな時間に…」

リオネルの部屋は僕の続き間、従者用の部屋である。僕は主人特権でノックも無しにリオネルを叩き起こしていた。

「今日は記念すべき開業初日だ。様子を見に行こう」
「…気が逸りますか。ベル様にしては珍しい…、ですが早すぎやしませんか」

確かに…
今は明け六つ、朝の遅い貴族はまだ誰も起きてこない時間帯だ。

「いいから行こう。ほら起きて!」


そして迷惑そうなリオネルを引っ張りやって来た店の前には…

「え?ちょっとリオネル。すでに人が並んでるんだけど」
「ああ。先着五十名に記念品を配ると告知したではありませんか。それを求める人の列でしょう」
「あああれか」
「並んでいるのは従者や使用人たちですよ。時間になったら主人がやってくるのですよ」
「なるほど」

非売の記念品に群がるのはここも前世も変わらない人の性、ってとこか。

左棟の館内ではどの店も準備に余念がない。品出し…陳列…売り子の最終確認。
心地良い喧騒。懐かしいな…

「こ、これはベルナール様!」
「どうなさいましたかこんな時間に!」
「え、あ、なにか不備があったでしょうか」

「いいや。ただの激励だよ。皆今日は気を引き締めてがんばって」
「は、はは、はい!」

そして右の棟館内。
こちらはこちらで主だった貴族家へはすでに招待状が送られている。それに合わせて花を飾りお菓子を用意し、目録と品の間違いがないかを確認したりと、左棟とは別の意味で大いなる緊張に包まれている。

「まあベルナール様!誰かお茶の用意を!」
「いやいい!いいから!」

激励どころかこれでは本末転倒。
僕は彼らの邪魔をしないよう、大急ぎで併設の庭園へと場所を移した。

「だから言ったではないですか。今行っても邪魔になるだけだと」
「いやぁ…」

抑えきれない興奮が…ちょっとね。

それにしても…
この庭園広場は買い物の合間に休憩するための場所。まさに喧騒の中の静けさと言った空間である。

「お茶をどうぞベル様」
「ありがとうリオネル」ズズ…「ここを作ったのは正解だったよ…」ホッ…
「ふ…、どうです?満足ですか?」
「ふむ…」

満足、満足か…

「あのね、ディディエにも言ったけど僕の野望はこれからが本番だから」
「ディディエ…ですか。そう言えば例の励まし…上手くいったようですね」
「あ、うん…まあ…」
「なんですその反応」
「いやー、ちょっとね」

あの違和感がね。別にいいんだけど。

「ディディエは何か言ってた?」
「すっかり元気ですよ。有頂天とでも言いましょうか」
「そうなの?そりゃよかった」

「時にベル様」
「なに」

「アシル様のこと、百貨の店建造、そしてミレイユとダービー男爵の件、お忙しいベル様にきりだす機会が今までなかったのですが…」

それはいきなり提示された。まるで朝の挨拶でもするかのように、ごく自然に何という事も無く、顔色一つ、声色一つ変えずに。

「そろそろベル様にも性の知識が必要ですね。通常貴族家ではどこかから未亡人などを雇い実地でお教えするものなのですが…」

「ぶふっ!」

リオネル!全く彼は何と言うか、まるで僕の心を見透かすかの如く、常にかゆいところに手の届く出来た従者だ。
だからといってこれは予想外!

「ベル様の実地は私が行いましょう」

えぇーーー!!!棚から牡丹餅!瓢箪から駒!鴨が葱しょってきたーーー!!!






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