僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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夢の百貨店

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思いがけず朝っぱらから有意義な話が出来てしまった。早起きは三文の得とはよく言ったもの。人は夜明けとともに起きるべきだ。

ふと見れば外周には先ほどよりもすごい長蛇の列が出来ている。
なんでもこの日のためにわざわざ上京してきた人々たちまでいるのだとか。

「うん。近隣領への宣伝はうまく行ったようだね」

「支配人、このままでは近隣に迷惑をかける。三十分早く開店しなさい」
「かしこまりました」

適切な指示。リオネルの成長には目を見張るものがある。


こうして歴史の一歩を踏み出したベルナール百貨店。
予約により混雑を抑えている右棟と違い、左棟の賑わいはまさに江戸万戸の初売りのよう!

それもこれも、今日から三日間は呼び水となる記念の目玉商品がある為なのだが、人々がワイワイキャッキャと品に群がり吟味する光景は今も昔も実に愉快…愉快?

「そのスカーフは私が目をつけてたのよ!返しなさい!」
「冗談じゃないわ!私が先に掴んだの。貴女こそ放しなさいよ!」

ま、まあこんなこともある…

そして目玉はもう一つ。

「まあ!新しい白粉ですって!」

ここは一際広い区画を用意した『セドリック美容商会』の店舗だ。

「ささお嬢様、こちらの椅子にお掛けください。塗って差し上げましょう」
「うそ!新商品を…?いいのかしら」
「ええ。実際試さねばこの良さは伝わりませんからね。ささどうぞ」

そう。僕は化粧品の実演販売(上級版)を始めたのだ。

『美容指導員』と呼ばれる彼女らは、店内の商品を使い少女らに最新の化粧を施していく。

鏡の中に出来上がったのは洗練された淑女…
そうすれば売り込みなどせずとも、自ずと彼女らはその品を一式買っていくという寸法よ。

僕はこの手法を各店舗で徹底させた。

服飾の店にいるのは紳士服も婦人服も容姿に秀でた販売員たち。
客の目を美しい引く販売員らは自店の服に身を包み歩く広告塔となる。

「あなたが着ているそのディドレスが欲しいわ」
「君ぃ、そのジレに色違いはあるかね」

とまあ、こんな風に。

ふふふ…、百貨の店においては香具師のように
「さーさー、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!手前ここに取り出したるがガマの油だ。さてお立ち会い!」
というわけにはいかないのだからね。
おや?前方に見えるは…

「パスカルさん」
「これはベルナール様!今回はご招待くださりありがとうございます」

「いえいえ。これは今後のためでもあるからね。どんな意匠が売れて何が売れていないか、良く見極めて今後の参考にするように」
「心得ております」

「ところでディディエは?」
「そこに居たと思ったのですが…」

「ベル様!」

うっ!
今朝ほどリオネルとあんな話をしたせいか、汚れなきディディエの顔がまっすぐ見れない……
反対に微塵も動じていないリオネル。こいつ…

「な、なんだよ、どうしたんだよ…」

どうもこうも。

「ディディエ…、リオネルの言うことを良く聞いて励むんだよ…」ホロリ
「は?わ、わかったけど…何の話だよ…」
フイッ「あっ、あっちの賑わいは何かな~」

仕上がりはお楽しみってことで。

「ところでディディエ、パスカルさんに屋上は案内した?」
「屋上…」カァァ

屋上…の言葉に反応して顔を赤くするディディエ。

「おやおや。何を思い出しているのやら」
「うるさいリオネル!何も思い出してなんかない!」

ふむ…
リオネルとディディエは情報を共有している…と。

「仲いいね二人とも」

「ええまあ」
「べ、別に…」

ディディエは素直じゃないが、彼はセドリック一家にとってすでに息子も同じ。二人してオルガ夫人に叱られ愚痴をこぼし合う姿など、どうみても本物の兄弟にしか見えなかったりする。

なら寝技の手ほどきに関してもリオネルはきっとうまくやるのだろう。
全く、大した番頭候補だよ。

……見たいと言ったら怒られるだろうか…

「何をお考えですかベル様」
「別に」

「…」
「…」

「な、なんだよ二人とも…」

「さあ次行ってみよう!」



気を取り直し休憩がてら四人で屋上へ向かう。

その中央にあるのは屋上遊園の目玉となる回転木馬カルーゼルだ。
これは蒸気の力を利用し最近発明されたばかりの、まだどこにも出ていない最新も最新、もっとも新しい大型遊具である。
百貨の店のシンボルとしてまさにふさわしき華やかかつ夢のある遊具、それがこの回転木馬カルーゼルである。

「うん。みんな楽しそうだ」
「大人たちでさえ興奮しておりますね」
「これを導入できたのは大きかった。リオネル、ミッテラン博士には情報提供のお礼を」
「かしこまりました」

そしてそのカルーゼルを囲むように周囲に立ち並ぶ屋台群。ゴーフル、クレープ、マカロンといった甘味の店に縁日では定番の遊戯屋台たち。遊戯の屋台では景品がつくためどれも大盛況だ。

「ディディエ、玉転がしやってみる?」
「それじゃぁ…えい!…なかなか難しいな」
「下手糞め。まぁみていろ。…おかしいな」

「二人とも、玉入れとはこうやるんだよ。それ!」

…品を取れたのはパスカル氏だけだったという…お粗末でした。

「あの小さな群れは?」
「人形劇だね」
「なるほど。人形劇に人々を誘導するのがあの道化師たちですか」

人形劇は有料だが、遊園の中は始終道化師、曲芸師、似顔絵描きが周回している。小商人の娘さんなど、お金をかけずに楽しみたければそれも可能なのがこの屋上庭園の良いところだ。

この似顔絵描きだが、彼らは若き芸術家たち。彼らは武者修行と称して無料で人々に似顔絵を描いてまわっているのだが、遊園側から給金を貰う雇われ人だ。
その報酬はけして高くないが(修練の一環だからね)、運が良ければここでパトロンを見つけることも出来るだろう。

誰にとっても夢が広がる文化の集大成。
それが『ベルナール百貨店』のあるべき姿である。



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